「…俺は一人でも大丈夫だ。」

デビットから告げられた何気無い一言は、ヨーコの心に深く刺さった。



決して他意はないのだろうとは思う。
きっと肩を痛めてしまったヨーコを心配しての言葉だ。
だが、それは紛れもなくデビットの本心なのだ。



(やっぱり……私なんかが居なくても…デビットは……、いえ私が……デビットの足手纏いになっているのね……。)


分かっていたが、…デビットから直接何気無く言われただけに、ヨーコは瞳を潤ませてしまう。


「待っていろ。直ぐに、戻る。」


そう言って去るデビットを、それ以上引き留める事は出来なかった。



少しの間、ヨーコはデビットが去って行った扉を見詰めていた。


その向こうからライオンの咆哮が聞こえ、銃声が鳴り響いてくる。


ショットガンの弾薬だって限りがある筈だ。
こうしている内にでも、弾が尽きてしまっているかもしれない。



……デビットが心配で胸が苦しい。
自分が、今戦っているデビットの傍に居れない事が、辛い。



でも、今の自分が行って何が出来る?
武器も持たない、非力な女性である自分に何が出来るのだろう。


張り裂けそうな胸の苦しみを抑えたくて、ヨーコが俯くと、ベンチの下に何か光る物を見付けた。

拾い上げるとそれは、リボルバーだった。
弾は全て装填されている。


リボルバーを見詰めていると、ヨーコの中で静かに固い意志が生まれていく。


(……駄目だわ。…ここで立ち止まっているなんて。
デビットは今戦っているのよ。喩え私が非力で足手纏いでも、……何も出来ないなんて事は無い筈。)



ヨーコはショーステージから、デビットの元へと向かった。







「クソッ!」

メスライオンを一体倒した時、ショットガンの弾薬が無くなった。
まさかメスライオンがもう一体いたとは……。

手持ちの武器は、折り畳みナイフだけだ。
メスライオンを相手取るには心許ない武器だ。
それでも、戦うしか無い。



デビットが折り畳みナイフを抜いて構えた時、ショーステージの扉が開いた。


「デビットっ!」


ヨーコがデビットに駆け寄ろうとしてきた。
その手には、何時の間にかリボルバーが握られている。


メスライオンは、突如現れたヨーコに注意を向けた。

メスライオンは高く吼えた後で跳躍の姿勢を取る。
狙いはヨーコだ。


「っ!来るなっ!ヨーコっ!!」



何かを深く考えた行動では無かった。
だが、気が付けばデビットはメスライオンとヨーコの間に飛び込んでいた。




「デビットっっ!!」


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