☆
「…俺は一人でも大丈夫だ。」
デビットから告げられた何気無い一言は、ヨーコの心に深く刺さった。
決して他意はないのだろうとは思う。
きっと肩を痛めてしまったヨーコを心配しての言葉だ。
だが、それは紛れもなくデビットの本心なのだ。
(やっぱり……私なんかが居なくても…デビットは……、いえ私が……デビットの足手纏いになっているのね……。)
分かっていたが、…デビットから直接何気無く言われただけに、ヨーコは瞳を潤ませてしまう。
「待っていろ。直ぐに、戻る。」
そう言って去るデビットを、それ以上引き留める事は出来なかった。
少しの間、ヨーコはデビットが去って行った扉を見詰めていた。
その向こうからライオンの咆哮が聞こえ、銃声が鳴り響いてくる。
ショットガンの弾薬だって限りがある筈だ。
こうしている内にでも、弾が尽きてしまっているかもしれない。
……デビットが心配で胸が苦しい。
自分が、今戦っているデビットの傍に居れない事が、辛い。
でも、今の自分が行って何が出来る?
武器も持たない、非力な女性である自分に何が出来るのだろう。
張り裂けそうな胸の苦しみを抑えたくて、ヨーコが俯くと、ベンチの下に何か光る物を見付けた。
拾い上げるとそれは、リボルバーだった。
弾は全て装填されている。
リボルバーを見詰めていると、ヨーコの中で静かに固い意志が生まれていく。
(……駄目だわ。…ここで立ち止まっているなんて。
デビットは今戦っているのよ。喩え私が非力で足手纏いでも、……何も出来ないなんて事は無い筈。)
ヨーコはショーステージから、デビットの元へと向かった。
☆
「クソッ!」
メスライオンを一体倒した時、ショットガンの弾薬が無くなった。
まさかメスライオンがもう一体いたとは……。
手持ちの武器は、折り畳みナイフだけだ。
メスライオンを相手取るには心許ない武器だ。
それでも、戦うしか無い。
デビットが折り畳みナイフを抜いて構えた時、ショーステージの扉が開いた。
「デビットっ!」
ヨーコがデビットに駆け寄ろうとしてきた。
その手には、何時の間にかリボルバーが握られている。
メスライオンは、突如現れたヨーコに注意を向けた。
メスライオンは高く吼えた後で跳躍の姿勢を取る。
狙いはヨーコだ。
「っ!来るなっ!ヨーコっ!!」
何かを深く考えた行動では無かった。
だが、気が付けばデビットはメスライオンとヨーコの間に飛び込んでいた。
「デビットっっ!!」