「デビット?」
ふと、思考は手を包む温かな体温で遮られた。
「デビット………大丈夫?……顔色が悪いわ……。
……少し、寝た方が良いと思うの。」
いつの間に目を覚ましたのか……。
傍らにいるヨーコは、優しさを湛えた瞳でデビットを心配そうに見上げていた。
その優しさには一片の曇りも無くて、……それがデビットにはひどく眩しく見えた。
「いや、俺は………。」
「……?もしかして、悪い夢でも見たの……?
………無理もないわ……。
誰だってこんな状況は辛いもの……。」
そう言ってデビットの言葉を遮ったヨーコは柔らかな微笑みを浮かべ、デビットをそっと抱き締めた。
「大丈夫よ、デビット。ほら、安心して。
私がここにいるわ。あなたの傍にいるから。
だから、安心しても良いのよ。」
まるで幼い子供をあやすかの様にヨーコは優しくデビットの背中を擦った。
「ヨーコ……?一体何を……?」
戸惑うデビットに、ヨーコは優しく微笑んで、少しだけ昔を懐かしむ様に言った。
「……小さい時にね、悪い夢を見て眠れなくなった夜は何時もお母さんがこうしてくれていたの。
ふふっ、落ち着いた?」
ヨーコにそう言われて、やっと気が付いた。
あれほどまでに苦しかった胸の痛みは、まるでそれが幻であったかの様に綺麗に消えていた。
「……あぁ…ありがとう。」
礼を言うと、ヨーコは嬉しそうに微笑んだ。
「良かったわ……。あなたの役に立てて……。
何時もあなたに助けて貰うばかりで何も返せていなかったから……。」
そんな事は無い。
……ヨーコが傍にいてくれてデビットがどれだけ救われているのか……。
………きっと彼女は知らないのだろう。
「私は、デビットが傍に居てくれて、ずっと救われてきたの。
だから……一緒にこの街から出て、…。それから……。」
そこまでを言うと気恥ずかしそうに顔を赤らめてヨーコは俯いた。
「この街から出ても……。
私は…………。」
だがその先はあまりにも気恥ずかしかったのかヨーコは言えなかった。
何となくだがその先は想像がつく。
例え今だけなのだとしても、……ヨーコからそう思われているのだと思うだけで、喩え様の無い幸せをデビットは感じた。
きっとこの続きを聞くだけで………この先にどんな事があっても、ヨーコと別れ独りになっても、デビットの胸の渇きは癒されるのだろう。
「この街から出ても?」
だから是非ともその続きをヨーコの口から直接聞きたくて、その続きを促しても、ヨーコは顔を赤らめて俯くばかりでその先は言わなかった。
「この街から出れたら、………その時は、必ず言うから。
……だから、その。」
そんなヨーコが愛しくて、デビットは微かに笑った。
「………そうか、その時まで待っている。」
きっとその時が来たら、自分はヨーコの傍から去るのだろう。
だが、………その時を思っても、胸を掻き毟るような痛みは無く、温かな気持ちになれた。