この街に生ける屍達が溢れてもう2日が経った。
この街を逃げ出す術を求めてあちこちをさ迷い歩いたが、結局空振りに終わり続け、同行者であるヨーコは目に見えて肉体的にも精神的にも疲弊していた。


それでも生きる為に屍達から逃げていると、閑静な住宅街に辿り着いた。

元々はこの街の中では屈指の高級住宅が建ち並ぶ通りだったのだが、今は生者はおろか屍達の姿形すらなくゴーストタウンの様相を呈している。
家主達は………まぁこの様子では生きて街から逃げ出したのだろうと、屍達に喰い殺されて餓えた餓鬼の仲間入りをしていようと、帰ってくる事はあるまい。

家主には悪いが、このままではヨーコが持たないだろう。
少しの間……ヨーコが回復するまでは休ませて貰おうと、手近な所にあった家に上がらせて貰う事にした。
住人が慌てて逃げ出したのか幸いにも玄関に鍵はかかっていなかったので、家の中にはすんなりと入れた。


ヨーコは「不法侵入は良くないわ……。」と心配していたが、今は紛れもない非常事態で強盗目的ではなく少しの間だけ休む場所として借りるだけだ、と言うと迷っていた様だが、そうこうしている内に雨が降りだし、雨宿り位ならばと最終的には納得した。


9月にしては残暑が厳しかったとはいえ、冷たく降りしきる雨によって気温は肌寒さを感じる程にまで冷え込んでいる。
電気がちゃんと供給されていないのか照明は点かなかったが、この家には家主の趣味だったのか暖炉があった。
薪も十分ある様だったので、暖をとる為にもデビットは有り難く使わせて貰う事にした。



やっと少しは落ち着ける場所に逃げ込めた事への安堵か………いや、それ以上に疲労が既に限界に来ていたのだろう。
ヨーコは暖炉の傍に座り込むなり、デビットに僅かにもたれ掛かる様にして直ぐ様眠ってしまった。

ヨーコが風邪を引かない様に、デビットは近くのソファの上に畳まれて置いてあったブランケットを手繰り寄せ、そっとヨーコに掛けてやる。



パチパチと薪が爆ぜる音とヨーコの静かな寝息と冷たい雨が地を叩く音を聴きながら、デビットは紫煙を燻らせて物思いに耽ていた。


これから何処へ逃げようか、脱出する為に必要な物はなんなのか………そういった事を考えていた筈なのに、こんな陰鬱とした天気だからか、デビットは妙に遠い昔の事を思い出していた……。


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