「でっ、ワザワザこんな場所に俺を呼んでまで愚痴ってるってか。」


やや薄暗いバーのカウンター席に座りながら、横に座っているデビットを見詰めて、呆れた様にケビンが溜め息を吐いた。
ケビンが手にしたグラスの中の角張った氷が音を立ててぶつかり合う。


「突然電話をかけてきて、『来い。』だもんなぁ。
何があったんだと思えばそんな事かよ。」


カランッとケビンは手の中のグラスを揺らし、その中身を一気に呷った。


デビットとケビンが居るのは、デビットとヨーコが住む家から少し離れた場所にある小さな酒場だ。
落ち着いた雰囲気のこの店をデビットは密かに気に入っていて、たまに一人で飲みに来ている。
一人で飲むのが好きなデビットが何故よりにもよってケビンなどと共に居るのかというと……。



「何か文句でもあるのか?
今お前が呑んでいる酒は俺の奢りだ。
不満があるなら帰ってもいいが、その代金は支払って貰うぞ。」


ギロリと睨むと、ケビンは肩を竦めて笑った。


「不満がある訳じゃねぇけどな。
深刻そうな声で話してきたから、ヤバい事になってんじゃねぇかって心配してたんだぜ?」


「万が一お前が心配する様な事態になっていたとしても、お前の助力など請う訳が無いだろう。」


フン、とデビットが鼻を鳴らすと。


「まぁそうだろうな。」


ケビンは苦笑してからグラスに新たな酒を注いだ。
琥珀色の液体がグラスに波を作る。


「だからこそ不思議なんだよ。
何で俺なんだ?ってな。
俺に相談しなくたって、マークやジョージやジムがいるだろうに。」


「ジムにまともな答えなど期待出来ん。
マークやジョージは………こういった事を相談する相手ではない。」


「俺ならいいってか?
嬉しいねぇ、信頼してくれてんのか。」


信頼……。
そんな上等な物かは分からないが、真っ先に相談相手として何故かケビンが浮かんだのは事実だから、デビットは黙ってウィスキーを流し込んだ。


「だいたいな、ヨーコが犬を可愛がってるだけだろ?
実に微笑ましい光景じゃねぇか。」


「微笑ましい訳があるか。」


犬ごときがヨーコとの二人の時間を邪魔し、あまつさえヨーコに微笑みかけて貰っている……。
そんな腹立たしい光景の何処が微笑ましいと言えるのだ。



「ヨーコがその犬を拾ってきたんだろ?
そりゃ可愛がったって悪い事じゃねぇさ。
ヨーコらしいじゃねぇか。」


まぁ、確かに。
ヨーコの性格を考えれば、自らが拾ってきた犬を可愛がるのは自然な事だ。
クロにじゃれつかれてヨーコが喜んでいるのも、もともとヨーコは生き物好きなのだから別におかしな事ではない。


だが。


「何故犬ごときにヨーコの笑顔をくれてやらねばならんのだ。」


思い返すだけでイライラとする。


「ククッ、飼い犬に嫉妬するなんざ…………普段のお前からじゃ想像も出来ねぇよ。
今のお前……、小さい弟に母親を取られて拗ねるガキそのものだぜ?
ま、そんだけヨーコの事が大事って事か……。妬けるねぇ……。」


何処か羨む様にデビットを見詰め、ケビンは小声で呟く。


「拗ねてなどいない。」

「その態度が拗ねてるって言うんだよ。
ククッ、差し詰めその犬はお前の恋敵って事か?」


さも可笑しそうにケビンは腹を抱えて笑った。


「…………。」


これ以上は無駄だろうとデビットは席を立つ。
無論、忘れずに代金は支払っておく。

デビットが代金を支払う寸前にちゃっかりとケビンが新たな酒を頼んでいたのをデビットは見逃してはいなかったが、自分の愚痴にケビンを付き合わせてしまっていたのだからデビットは黙ってその分も支払っといてやる。


「まっ、一回ちゃんとヨーコと話してみたらどうだ?」


店を出ようとした直前にケビンはデビットの背中に言葉を掛けた。


「………何をだ。」

「そりゃ、お前が思っている事に決まってんだろ?
今日此処で俺に愚痴った事をヨーコに伝えてみろよ。
例えどんなに信頼しあった仲だとしても、言葉にしなけりゃ伝わんねぇ事だって多いからさ。
その上でヨーコの話をちゃんと聞いてやれ。」


………………。


「…初めてまともな意見を出したな。」

「俺は何時だって真面目に考えてんだよ。
……早くヨーコの所に帰ってやりな。
……礼はこの一杯で十分さ。」


ケビンは手の中のグラスを静かに揺らした。


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