あの街をヨーコと共に脱出してからもう二年以上が経った。
最初の頃は別々に住んでいたが、ふとした切っ掛けで今は共に同じ家に住んでいる。
まだ正式に結婚はしてないが、いずれ時期を見て結婚する予定だ。


二人とも仕事を持っている為四六時中とまではいかないが、二人でいる時は人目を憚らずに幸せな二人の時間を過ごしている。
いや、…………過ごしていた、か。




(チッ。また、か。)



視線の先にアレを見付け、デビットは心中で舌打ちをした。



最近、デビットには非常に気に食わない存在がいる。
大概の存在には興味すら持たないデビットにしては珍しく、その存在にはハッキリと敵意すら抱いていた。


何故、デビットがそこまでの敵意を抱くのか。


それは……………。








「おい、ヨーコ」


デビットが呼び止めたというのに。



「クロ、ゴハンよ♪」



ヨーコは手を止める事もデビットに振り返る事すら無い。

そして犬用の餌皿にドッグフードを入れて、アレの名を呼んだ。

名を呼ばれたアレ………黒犬は喜び勇んでヨーコに走りより、ガツガツと餌を食べ始める。


ヨーコその様を見て、幸せそうに微かに笑みを浮かべていた。



(くっ……。何故だ。
俺の事よりもその犬の事の方が大事なのか……?)



『クロ』と呼ばれた犬は、あっという間に餌を食べつくし、そのままヨーコにじゃれつく。


「もう、クロったら……くすぐったいわ。」


じゃれつかれているヨーコは、心底嬉しそうに笑っている。


写真にとって一生飾っておきたくなる程の笑顔だが、その笑顔が向けられているのはデビットではない。


『クロ』に、だ。



幸せそうな光景である筈なのに、デビットは不愉快な感情で胸が一杯になった。







クロはまだ生後一年も経っていない、子犬と成犬の間の様な犬だ。

約二ヶ月前の雨の日。
ヨーコと二人で買い物に出かけた帰り道で、箱詰めにされて捨てられていたところをヨーコが見付けて拾った。

全身をフサフサとした真っ黒な毛皮に覆われいて、だからヨーコがこの犬に日本語で《黒》という意味がある『クロ』と名付けたのだ。

犬種は……。
デビットはあまりそういう物に詳しくないので分からないし興味も無い。
雑種かもしれないし、ちゃんと名前がある品種なのかもしれない。


クロはまだ子犬と言ってもいいはずなのに、やたら目付きが悪い。
更にはデカい。
ヨーコが何をもって可愛いと思っているのかは分からないが、クロは世間一般的には《可愛い》と言われる犬ではない気がする。

まぁ、クロが可愛いのかそうでないかなどデビットにはどうでもいい。



問題は、ヨーコが最近あの犬を構い過ぎているという事だ。


あの犬の何が、ヨーコをそこまで惹き付けているというのだ?
何故、あの犬に、デビットにすら向けた事が無い様な笑顔を向けるのだ?


あの犬を拾ってからというものの、ヨーコはデビットの事よりもアレを優先している。


二人で過ごしていた筈の時間に現れた闖入者は、デビットからヨーコを奪っていった。
それどころか、ヨーコの笑顔すらもあの犬は奪っていったのだ。


犬ごときにヨーコの笑顔は向けられるべきではないというのに。


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