★ ターンテーブルが上がりきって漸くヨーコ達は、研究所から脱出した。 何れ程の時間をあの研究所で過ごしたのかは分からないが、外の空気を吸うのは何日かぶりな気すらしている。 どうやらここは何処かの工場の操車場の様だ。 奥には機関車を整備する為の倉庫がある。 『ラッキー!外まで線路が続いている様だからこの機関車で此処から脱出できるよっ! やっぱオレってついてるよっ!』 ジムが目敏く機関車と線路をチェックして、喜びからガッツポーズをとった。 まだラクーンシティから脱出出来た訳では無いが、もうこれであの研究所からは解放されたのだ。 ヨーコが安堵の息をついていると、金属を引き裂いているかの様な異音が響いた。 (なっ、何?) 見回すと、鋼鉄の床に何かが下から押し上げてきているかの様な亀裂が入っている。 「っ!やっぱりこうなったか!!」 リンは素早くヨーコの腕を掴み、その亀裂から極力遠ざかった。 そして、リンは何かをひどく警戒している様に、ハンドガンを亀裂へと向ける。 ヨーコが見ている目の前で亀裂はますます広がり、そこから何かが飛び出してきた。 ソレは目鼻や耳が無く、手足と大きく裂けた口しかなく、何かの生き物の未熟児の様な体をヌメヌメとした体液に覆われた………何とも説明出来ない生き物だ。 鳴いた時に見えた口の中には、外見にそぐわない程の鋭い歯が幾本も並んでいた。 「何なの?」 これは、と続けようとしたヨーコの言葉を遮る様に一発の銃声が鳴り響き、放たれた銃弾がソレを吹き飛ばす。 ソレはギィッと悲鳴の様な声を上げて鋼鉄の床を転がった。 「仕留めたかっ!?」 リンがハンドガンを構えながらゆっくりとソレに近付こうとした時、変異は一瞬で起こった。 僅か十数センチだった筈のソレは瞬く間に肥大化し、3メートル以上まで成長した。 まるで人間を中途半端に模したかの様な醜悪な外観だ。 人間の様な脚、極端に肥大化して長く太くなった右腕とは対照的に短く細い左腕、全身に生えた瘤の様な肉塊、そして人間の頭部の様な物ができて、鋭かった歯が長く太くなった。 最後に、人間で言うならば左肩に当たる部位に巨大な眼球が形成され、充血した様なその眼球がヨーコ達を見下ろしている。 ヨーコは言葉を失った。 ヨーコだけではない。ケビンも絶句し、ジムに至ってはへたり込んでしまっている。 ただ、デビットは驚いた様に軽く瞠目した後で直ぐ様ショットガンを構えていて、リンはと言うと既に臨戦状態になっていた。 『なっ、何なんだよっ!こいつは!!』 ジムがへたり込んだまま悲鳴と共に絶叫する。 怪物はゆっくりとジムに近付き、右腕を緩慢に振り上げた。 「ジム!!立ってくれっ! 座り込んでいては的にされるだけだっ!! 死にたくなければ、死ぬ気で動き続けるんだッ!!」 へたり込んで動けなくなっていたジムの腕をリンが力強く掴み、その勢いのままジムを立たせてその場から離れる。 その直後、怪物が降り下ろしてきた右腕が床を叩き、その部分が大きく陥没した。 何て力だ。 あんなのをまともに喰らっては間違いなく死ぬ。 「戦うしか道はないっ!ヨーコ!手を貸してくれっ!!」 リンはそうヨーコに叫んで、怪物へと立ち向かった。 |