パァンっ!と乾いた音が、静かに上昇していくターンテーブルに響いた。 「リンっ!何て無茶するのっ!? もう少しで、あなたを置き去りにする所だったのよっ!?」 凜は助かった、と思う暇もなくヨーコに右の頬を打たれた。 肉体的な痛みはあまり無いが、凜の頬を打ったヨーコの方が泣き出してしまい、酷い罪悪感を覚える。 実際、ヨーコ達に助けて貰わなかったらあそこに一人置き去りにされていたのだ。 ヨーコ達には返す言葉も無い。 あの時凜の手を掴んでくれたのは、ヨーコとケビン、ジム、そしてデビットだった。 皆が居てくれたからこそ、凜は助かったのだ。 その事は真摯に受け止めなくては。 「済まない……ヨーコ……。」 無事だったから良いじゃないかと開き直れる程、凜は楽天的な性格では無い。 ヨーコを心配させてしまった事を、凜は深く反省した。 「無事だったから、まだ良かったけれど……。 もうあんな無茶はしちゃ駄目よ。」 凜は頷こうとはしたのだけれども、思い直して首を横に振った。 「その努力はする積もりだ。 だが済まないが、それを約束する事は出来ない。 私は必要だと判断したら、きっと何度だって、ヨーコが無茶だと言う事をしてしまう。」 「何で、凜はもっと自分を大切にしようとしないの?」 「自分の事は大切にはしている。 ただ、それよりも大切な事が私にはある。」 ヨーコ達の事、部長達の事。 自分の事を考えるよりも先に、身体が動いてしまうのだ。 それは、凜自身にはどうする事も出来ないし、する積もりも無い。 「…………リンは、優しいのね。 でも、あなたが傷付いたら悲しむ人は必ずいるのよ?」 確かに。 ふと自分の周りの人達を思い浮かべても、そんな人ばかりだ。 「………それでも、私にはヨーコ達を助ける方が大切なんだ。」 ヨーコはそれを聞いて溜め息をつく様に息を吐いた。 ところが、そんな空気をぶち壊すかの様に明るい声が響く。 『それよりさっ、オレ様格好良かっただろ? リンのピンチに颯爽と現れるジム様っ!! オレ様まさにヒーローだよねっ! あんまりにもイケメン過ぎて、リンが惚れちゃったかもしれない位だったよね?』 ジムが一気に話し掛けてきて、すっかり場の雰囲気を彼に持っていかれてしまった。 「ヨーコ?ジムは何て言ってきてるんだ?」 何と言ってきてるのかが気になってヨーコに通訳を頼むと、ヨーコは少し困ったかの様に苦笑いした。 「えっとね。『惚れちゃう位、格好良かったでしょ?』だって言ってるわ。」 …………何故かヨーコがかなり言葉を選んで伝えてきた様な気がするが…。 そんな事はどうでもいいとばかりに、凜も思わず苦笑した。 「あぁ。格好良かったよ。」 そう伝えてくれ、とヨーコに頼むと、ヨーコはクスッと笑ってジムに英語で伝えてくれた。 するとジムはウンウンと頷いて、だよねっ!とばかりに親指をたてる。 それを見ていると何故だか笑いが込み上げてきて、凜は声を上げて笑った。 一頻り笑ってやっとの事で笑いが収まった時、凜は漸く言わなくてはならなかった言葉があった事に気が付いた。 「ヨーコ、ジム、ケビン、デビット。……助けてくれてありがとう。 ………とても感謝している。」 それを聞いて、ヨーコはふっと凜を見詰めた。 そして。 「どういたしまして。……あなたが無事で、本当に良かったわ。」 優しく凜に微笑んだ。 |