★ 三分は長いのか短いのかはその時の状況にもよるだろう、少なくとも今の凜にとって、三分は短過ぎる時間だ。 三分でセキュリティーセンターからターンテーブルまで戻るのは、距離だけを問題とするならば、十分に余裕がある。 足の速さに自信がある凜とケビンならば、全力で走って行けば二分とかからない距離だからだ。 だが、ハンターが徘徊するB4Fを走り抜ける事は実際問題不可能に近い。 背後から切り裂かれても良いならば話は別かもしれないが。 B4Fまで戻ってくると、ウエストエリアにはハンターが二匹もいた。 ケビンが一匹を、凜がもう一匹を暗黙の内に引き受ける。 凜はハンターに攻撃される前に、逆にハンターの懐へ飛び込んだ。 ハンターの長い腕では、至近距離にいる相手に一瞬では対応出来ない。 その隙に凜は右手のハンドガンをハンターの口の中へと突き入れてから発砲し、更には左手のサバイバルナイフをハンターの顎の下から脳天へと思いっきり突き立てる。 完全に脳を破壊されたハンターは、鳴き声を上げる事すら無く床に倒れた。 もう一匹は、思わず見とれてしまう様なケビンの狙いすました連射に頭部を破壊されていた。 (不味いな……。後何れくらい時間が残っているんだ?) 焦りながらメインシャフトを駆け抜けようとしていた時だった。 『リンっ!!』 前方にいたケビンが突如振り返り、鋭い声と共に発砲した。 すると、直ぐ後ろから耳を塞ぎたくなる様な獣の絶叫が聞こえて凜が思わず足を止めて振り返ると、一匹のハンターがすぐ後ろにいた。 気付かない内に背後を取られていたのだ。 ケビンが気付いてくれなかったら、リンは背後からバッサリと切り裂かれていたに違いない。 ケビンが放った銃弾は、ハンターの右目を潰していた。 ハンターは痛みに呻いているかの様に悲鳴を上げている。 『リンっ!今の内に行くぞ! もう時間がねぇっ!』 凜は頷いて、ケビンと共にターンテーブルに駆け込んだ。 カウントダウンは30秒を切っていて、既に秒読みが始まっていた。 (急がないと!!) 一刻も早く、上昇していく部分に乗り込もうと思って走り出しかけた瞬間、思わず凜は立ち止まってしまう。 ケビンもギョッとした様に同じく立ち止まる。 (あっ!この人はっ!!) 『おい、この女は…!』 ターンテーブルに入って直ぐの廊下に、地下研究所に入ってすぐにヨーコを攻撃してきた女性……モニカが倒れていた。 既に息は無いのか、ピクリとも動かない。 (………確か、モニカの中には《G》が……!) モニカ……というよりも、《G》をどうするべきか。 凜が一瞬迷っていると、背後の自動扉が開く音がしたので振り返ると、凜とケビンを追ってきたのか、先程のハンターがターンテーブルに入ってきた。 (不味いっ!ハンターをターンテーブルに乗せる訳には……!) ハンターをここで倒す事を覚悟して、凜はハンドガンを右手に、サバイバルナイフを左手に構えてハンターと対峙した。 「リンっ!早くこっちにっ! もう時間が無いわっ!急いでっ!!」 背後から呼び掛けて来るヨーコの言葉に、凜は思わず振り返りかけたが直ぐ様ハンターの方へ向き直り、ケビンに『行って!』と叫ぶ。 ケビンは一瞬だけ迷った様に凜を見たが、直ぐに頷いてターンテーブルの中へと駆け込んでくれた。 「ここを通す訳にはいかないんだ………!」 リンはハンドガンでハンターの足を撃ち、ハンターがよろけた隙に潰れた右目に思いっきりサバイバルナイフを突き立てた。 眼窩の骨を叩き割った感触が左手に伝わる。 そのまま左手ごとサバイバルナイフを奥へと押し込み、完全にハンターを絶命させた。 次の瞬間にはハンターが死んだ事を瞬時に判断し、凜はサバイバルナイフを抜き去る。 左手は手首までハンターの血に真っ赤に染まり、ベタついて気持ち悪いが今はそれを気にする時間的猶予は無い。 『5』 倒れたモニカの中にいる《G》を何とかしたいのだが、無機質に読み上げられたカウントダウンがそれを許さない。 このままでは、ターンテーブルに置き去りにされてしまう。 『4』 「リンっ!走って!!早くっ!!」 ヨーコがターンテーブルの端から必死に凜を呼ぶ。 凜は倒れたモニカに踵を返し、全力で走り出した。 『3』 『リンっ!急げっ!!』 『リンーっ!急いでーっ!!』 ケビンとジムがターンテーブルの端に立って、凜へと手を伸ばす。 『2』 後少しだ。 しかし。 (っ!ダメだ!!少し届かないっ!) このままでは、一歩か二歩届かない。 『1』 咄嗟の判断で、凜は思いっきり跳んだ。 助走は十分についていたから、距離は十分取れている。 『0』 しかし。 上昇を始めたターンテーブルに僅か数センチで届かない。 凜の右手の指先を、ターンテーブルが掠めた。 だが。 「『『リン!!』』」 上昇するターンテーブルの端から凜へと手が伸ばされ、落ちかけた凜の右手を掴んだ。 更にその横から二本の別の手が凜の右腕を掴む。 それらの手に引き上げられて、凜の右手がターンテーブルの端にかかった。 「くっ!!」 凜は懸垂の要領で体を持ち上げ、何とかターンテーブルの上に登る事が出来た。 |