★ リンがターンテーブルのロックを解除しに行って数分が経った。 (リン……大丈夫かしら……) リンなら目的を間違いなく果たしてくれるだろう。 それだけは間違いが無いと言える位ヨーコはリンの事を信頼している。 そう、リンは何が有ろうとも、必ずヨーコ達をここから脱出させようと文字通り死力を尽くす。 自らの身は一切顧みない。 本当は、付いて行きたかった。 リンが無茶はしないように傍にいてあげたかった。 でも、リンがヨーコ達に頼んだ様に、ターンテーブルは絶対に守らなくてはならないのだ。 後を追っていったケビンがリンの事を守ってくれている事を祈るしかない。 (大丈夫、よね……。……きっと…ケビンなら、リンを守ってくれるから……。) 今はリンが帰って来る事を信じて戦わなくては。 リンが出ていってから少し経つと、リンが戦ってくれていた怪物が次々に侵入してきた。 リンとの戦いで大分弱ってはいた様だけれど、二足歩行する爬虫類の様な醜悪な怪物の殺意に溢れた瞳の光は翳りを見せていない。 MA-125R……通称ハンターは、その生き物を殺傷する為だけにあるかの様な鋭い鉤爪を振りかざして容赦無くヨーコ達に襲い掛かってくる。 『クソッ!一体どれだけ沸いてきやがる!』 デビットが舌打ちをしながらショットガンを撃ち、近寄るハンター達を吹き飛ばしていっている。 その動きは、まるで戦いのプロのもののようだった。 その反面。 『わーっ!こっち来たーっ!!』 ひぃぃぃっ!!と悲鳴を上げながらジムはガタガタと震える手でハンドガンを乱射する。 狙いの定まっていない銃弾は、ハンター達の固い鱗の上を無意に滑っていくばかりで、ハンター達の足を止める事すら出来ていない。 ダメージこそ受けては無いもののジムのその行動がハンターの気に障ったのか、ジムの近くにいたハンターは苛立った様に甲高く鳴きジムを切り裂こうと飛び掛かってきた。 『ジム!危ないっ!!』 ヨーコは咄嗟に飛び掛かってきたハンターにショットガンを発砲する。 滞空中に至近距離からの散弾を受けて、ハンターは大きく吹き飛ばされて固いコンクリートの床を転がってもがいた。 ヨーコはすかさずそのハンターに駆け寄って、頭に銃口を押し付けてから発砲する。 幾ら武器の扱いに不馴れなヨーコとて、この至近距離からならショットガンの銃弾を外す事はない。 ゼロ距離での発砲は、ハンターの固い鱗を砕き頭蓋骨すらも破壊して、グチャグチャで粉々に砕けた肉片と霧の様な血飛沫を辺りに撒き散らした。 (うっ………。) 生々しく吐き気を催す様な光景だったがヨーコは耐えた。 まだまだハンター達は残っている。 戦っている時には、何があっても相手から目を離してはいけないのだ。 『あっ……ありがとうヨーコ…!! ヨーコはオレの命の恩人だよ……!!』 『ジム…。お礼なんて後で幾らでも出来るんだから今は戦って……! あなたが戦ってくれないと……、持ちこたえられないわっ!』 何故だか妙にキラキラした目でヨーコを見詰めてきたジムを軽くたしなめて、ヨーコはショットガンの弾薬を装填する。 弾薬はリンがかなりたっぷりとくれていったので、まだ余裕はある。 それでも、こうもひっきりなしに攻撃を受けていては、陸に弾薬をリロードする隙さえ無い。 だからこそ、ジムにはその時間だけでも稼いで貰いたいのだ。 『任せてよっ! ヨーコの為だったら、オレ幾らでも頑張れるからっ!! ジム様の大活躍をちゃんと見といてねっ!』 さっきまで心底怯えて、正直言ってヨーコが退く位の絶叫を上げていた姿は何処へいったのか……。 ヨーコの言葉に俄然張り切ったかの様に、ジムは勇ましくハンドガンを構える。 だが、よく見ると指先が微かに震えているあたり、本当は怖いのを我慢して空元気を出しているだけの様だ。 それでもさっきよりは狙いがついた射撃は、ハンター達をちゃんと捉えている。 ヨーコがショットガンを撃ち、ジムがハンターを足止めしている間にショットガンをリロードしてまた撃つ。 大活躍なのかはヨーコには今一つ分からないが、ジムは自分で宣言した様に頑張ってくれている。 しかし後一匹となった時に、突然離れた場所にいたハンターが猛スピードで突っ込んでくるとジムは再び絶叫と呼んでも過言ではない程の悲鳴を上げた。 ところが。 パニックになったジムが咄嗟に放った銃弾は、偶然にもハンターの口の中に飛び込んだ。 いくら固い鱗が身をつつんでいるのだとしても、体内はそうはいかない。 口腔内に飛び込んだ銃弾は、そのまま内側からハンターの頭部を破壊した。 そしてそのハンターは、口から血を噴き出しながら仰向けに倒れ伏し、動かなくなる。 『ヨーコっ!今の見た!? どうだい?オレは頼りになるだろっ! これからはオレがヨーコを守ってあげるからっ! 安心してよねっ!!』 ジムが倒したハンターで、ターンテーブル内に侵入してきたハンターは最後だった。 偶然の結果とは言え、ただ一人でハンターを倒すという戦果を上げたジムが、右拳を天へと高く突きだして勝利の喜びへの鬨の声を上げ様とした丁度その時、ターンテーブル内にけたたましいアラートが鳴り響いた。 『なっ、何? まだ何か出てきたりするのかよっ!?』 ジムが怯えた様に辺りを見回す。 ヨーコもデビットも、何が起こるのかと身構えた。 しかし、その必要は無かった。 『セキュリティーのロックが解除されました。 ターンテーブルを起動します。』 無機質なアナウンスが流れ、ヨーコはリンが無事に目的を達成してくれたのだと気が付いた。 『ターンテーブル上昇まで三分掛かります。 上昇の際は危険ですので稼動部からは離れていて下さい。』 そしてターンテーブルの制御盤のモニターに3:00:00から始まるカウントダウンが表示される。 (後…三分…。もし、それに間に合わなかったら、リンとケビンは……?) 置き去りにされるのだ。こんな場所に。 居ても立ってもいられず、ヨーコは何とかしようと制御盤を操作する。 『ちょっ、ヨーコどうしたのさっ?』 『リンとケビンが帰って来るまでは、待たないと……!』 しかし、何をどうやってもターンテーブル上昇までのカウントダウンを停められない。 どうやらこのカウントダウンを停めるには、一度ターンテーブルごと停止させなくてはならず、更には再起動にはまたセキュリティーのロックを解除しなくてはならないのだ。 ヨーコには、どうする事も出来ない。 (お願い!リン、ケビン……!早く戻ってきて!!) |