世界を変える願い事







危なかった。


時間が無いから無視しようとした、扉前に倒れていた死体が、突如動き出したのだ。

しかも、そのゾンビはすぐ傍にいた凜ではなく、扉を開けて入って来ようとしていたケビンを狙ったのだ。

この距離で蹴り飛ばしてしまってはケビンまで巻き込んでしまう。
ハンドガンなどもっての他。

一瞬の判断で、もしもの時用にポケットに入れてあったサバイバルナイフを全力で、ゾンビの無防備な後頭部に突き刺した。

幸いな事にゾンビはそれで絶命したようで、ケビンへの実害は無かった様だ。



「……ケビン?大丈夫か?」


紙一重の所で助かったショックからか、ゾンビから引き抜いたサバイバルナイフを見詰めるケビンは、心ここにあらずな状態になっている。

そっとしてあげたくはあるのだが、今は時間が無い。
こんな所に一人で置き去りにしては危険なので、さっさと正気に還って貰うしか無いのだ。



「ケビン。早く行こう。」


そう言いながら凜はケビンの手からサバイバルナイフを奪って、セキュリティーセンターに入った。




(セキュリティロック……。
……これで合っているならいいのだが……。)


不安を抱えながらも、コントロールパネルに『HOPE』と入力する。
するとモニターに何かの英文が表示され、『yes/no』と出てきた。

多分、セキュリティーロックを解除するかどうかとか、ターンテーブルを起動するか否かを訊ねているのだろうが………、今一つ自信が無い。



(うっ…………多分yesを選べばいいんだろうが……。
………もし、間違いだったら…………。)



指先が震えて仕方がない……。

凜は臆病ではなく、寧ろ仲間達から無茶だとすら言われる位に即断即決を心掛けてきたのだが、流石にヨーコ達の命すら掛かっているこの状況で、自分でも確信が持てない物に全てを賭けられる程無策無謀では無いのだ。



(…っ…。………ここにヨーコが居てくれたら………。)



ヨーコの身の安全を考えてターンテーブルで別れたのは失敗だったのだろうか?
そもそも、英語が本当に苦手な凜がこういった場面で単独行動を取ろうとしたのが間違いだったに違いない。
だが………今更判断ミスを後悔しても、現状は変わらない。


凜が、選択しなくてはならないのだ。





『リン……?』


後ろからケビンが怪訝そうに覗き込んできた。
それもそうだろう。
脱出の為のyes/noの選択肢を前にして固まっていたら普通は奇妙に思うはずだ。






……ケビン……?



(……!そうだっ!ケビンがここに居るじゃないかっ!!)


ヨーコに頼りっぱなしだったからかすっかりケビンの事を失念していたが、ここにはケビンが居るのだ。
ケビンなら、正しく選べる筈だ。





「ケビン!済まないが、私の代わりに選んでくれないか?」


精一杯身振り手振りのボディーランゲージでその旨を伝えると、ケビンは増々不審そうに身構えた。



『リン……?……何の積もりだ?』


凜は何とかして伝えようと、無茶苦茶な英語でたどたどしく説明した。


『私……英語…よくは分からない……。
選ぶ、無理。』


それで漸く合点がいったのか、ケビンは『……いいぜ。』と頷き、モニターの文面を一読した後、何の躊躇いも無くyesを選択した。



その途端、けたたましいアラートが鳴り響き、モニターに何かのカウントダウンが始まった。
3:00:00から始まって見る見る内に減少していく。
恐らくは、ターンテーブル上昇までのタイムリミットだ。



「ケビン!早く戻ろう!!
ぐずぐずしていると、置き去りにされるぞっ!!」




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