★ 『あいつ……!』 リンが何をしに行こうとしているのかケビンには詳しくは分からないが、この状況を何とかしに行こうとしているのだけは分かった。 (いくらリンでも一人は無茶だっ!) 逡巡したのはほんの一瞬。 『ヨーコっ!デビット!ジム!ここを任せてもいいかっ?』 『………えぇっ!任せて!!』 『済まねぇっ!!』 ヨーコが頷いてくれたのを確認してから、ケビンはリンの後を追う。 守るべきヨーコ達三人を置いてリン一人の後を追うなんて、愚かな選択かもしれない。 それでも、リン一人に行かせる訳にもいかないのだ。 『リンっ!!』 ケビンがメインシャフトに出た時、リンは化け物どもの攻撃を間一髪で回避していた。 思わず見とれてしまう程の身の熟しでリンは素早く体勢を立て直し、再び駆け出していく。 リンが目指しているのは、ウエストエリアだった。 ケビンに名を呼ばれてリンは咄嗟に振り返り、その隙を狙った化け物の攻撃を華麗なステップで避ける。 「ケビンっ!?どうしてここにっ!? 早くヨーコ達の所に戻ってくれっ!」 リンは驚いた様に足を止めた後で焦った様に『引き返せ』とジェスチャーしてきたが、ケビンは迷わずリンのもとまで走った。 ここまで来てしまっては、引き返させるのも危険だと分かっているからか、リンは説得を諦めた様に再び走り出す。 「何で私の方に来たんだ? ケビンが居なくては、ヨーコ達だけで侵入してきたハンター達と戦わなくてはならなくなるんだぞっ!?」 日本語は通じないと分かっている筈のなのに一言言わねば気が収まらないかったのか、リンは足は止めずに非難する様な目をしてケビンに捲し立てる。 何と言っているのかは分からないが、ケビンが付いてきてしまった事に関して何やら怒っている事だけは伝わった。 『そうは言ってもな、リンを一人行かせる訳にもいかないだろ?』 「もう今更引き返せなんて言わないが、この先は本当に危険なんだ!」 『そんなに怒るなよ。来てしまってもんは仕方無いだろ?』 噛み合っている様で、やはり何処かズレている気がする言い合いを続けながらリンはダクトの扉を開けた。 その瞬間、扉の向こうから化け物が飛び掛かってきたが、リンは冷静に手にしていたハンドガンで化け物を撃ち落とし、化け物が怯んだ隙に足場の外へと蹴り飛ばす。 空中でもがきながら落下してB7Fの床に叩き付けられた化け物は、受け身は取れなかった様でピクリとも動かなくなった。 「………死んだ様だな。」 手摺から身を乗り出して化け物の生死を遠目に確認した後、リンは一々降りていく時間が惜しいとでも言いたげに梯子を飛び降りる。 『おいリン!!ちょっとは待っとけよ!』 ケビンの制止など聞いちゃいないのか、リンは無視して先にB6Fに行ってしまう。 (またかよ………。) リンは基本的にヨーコの言う事以外聞く積もりが無いのか、ケビンの制止を聞いた試しが無い。 まぁ、どうやらリンは殆んど英語が分かってない様だから、制止されている事自体に気付いて無いだけかも知れないが。 (いや、……………もしかして。リンは気付いているのか? 俺が……) 考えながらリンの後を追ってB6Fの扉を開けた途端、目の前にゾンビがいた。 ぎょっとして咄嗟にその場を飛び退くが、ゾンビはケビンに襲い掛かっては来ずにゆっくりとケビンの方へと倒れてくる。 そのゾンビにはこれといった外傷は無かったのだが、後頭部には大型のサバイバルナイフがめり込むかの様に根本深くまで突き刺さっていた。 「ケビン!……危なかったな。怪我は無いか?」 『……リンが助けてくれたのか。』 駆け寄って来たリンに生返事を返して、ケビンは倒れたゾンビに突き立てられたサバイバルナイフを引き抜く。 かなり深くまで突き刺さっていたらしく、引き抜くのにかなりの力が必要だった。 信じがたい事に、傷口の周りの骨は剰りにも強い力が加えられたからか、変形すらしている。 リンは恐らくは一瞬かつ一撃で、ゾンビにナイフを突き刺さしたのだ。 どれ程の力があれば、こんな真似が出来るというのだ? 助けて貰ったにも関わらず、ケビンの背筋を凍り付くかの様な冷たい汗が伝っていった。 |