世界を変える願い事







結局……ここにあったのは壊れたショットガンと冷凍保存された何かの種子、そして目の前で凍り付いている研究員の遺書らしき紙片だけだった。


(MA-125R………。……あの凍り付いていた怪物の事か。)


この研究員に致命傷を負わせた怪物………。
デビットの脳裏に、リンが破壊していた怪物が思い浮かんだ。
鋭い鉤爪を持った、醜悪な…爬虫類とも哺乳類ともつかない生物。
あの特徴は、研究員の遺書の記述とも符合する。


(………成る程。こいつを止めてしまえばアイツが動き出すのか。)


厄介な事だ。
あの怪物どもは、少なくともゾンビ達よりも面倒な存在に違いない。
凍り付けにされた程度でくたばる様な生物でもないだろう。
現に、研究員の遺書にも《活動を休止させる》としか書いていない。
あくまでも休止しているだけなのだ。

奴等に破壊されたと思われるショットガンの、鋭い刃物を叩き付けられたかの様な壊れ方を見ていても、奴等の危険さが伝わってくる。
もっと武器が必要だ。
ハンドガン程度ではまず足りない。
マグナムハンドガン…デザートイーグルなら十分だろうが、あれはヨーコの物だ。
勝手に使うわけにもいくまい。
現時点で使えそうなのは、この壊れたショットガンだけだ。
幸い綺麗に壊されているため、幾つかのパーツを組み合わせれば直ぐに修理出来るだろう。
手先の器用さには自信のあるデビットには朝飯前である。




デビットがショットガンを修理していると、ケビンが酷く慌てたように辺りを探していた。



『おい、デビット!ヨーコとリンを見なかったか?』

『アイツ等なら、何処かに行った。』


デビットはショットガンを修理する手は休めずにケビンに答えた。
少し前に、リンがヨーコを何処かに連れていっていたのを、デビットは見逃してはいなかったのだ。
大方脱出に必要な何かを探しに行ったのだろう。
デビットはさして心配はしていない。


『おいっ!見ていたのに止めなかったのかよっ!?
女二人だけで行動させるなんて、危険過ぎるだろっ!』

『あの二人ならば何とかなるだろう。
ヨーコだけならともかく、リンがいる。
何が出てこようとも、リンがヨーコを守り通す。
余計な心配はするだけ無駄だ。』

『そうかも知れねぇけどよ………。』


何処と無く歯切れが悪そうにケビンは言い澱む。



一体ケビンは何についてそこまで心配しているのだ?

リンがゾンビの一体や二体など歯牙にも掛けない程の強さを有しているのは、ケビンとてよく知っている事だろう。
余程の事でも無い限り、リンはヨーコに傷一つとして付けさせ無いに違いない。
こんな状況下では絶対的な安全など無い。
五人全員で行動を共にしようとも、危険は常に付きまとう。
それならば、別行動をとってより早くここから脱出する術を探す方がより効率的であろうに。


『………リンは………あいつは………、多分……。
…いや、………。………済まなかったな、デビット。
今俺が言ったのは気にしないでくれ……。』


言いかけた言葉を呑み込んで、ケビンは目を逸らした。


『………………。
お前がリンの事をどう思っているのかは知らんが、何よりも優先すべきなのはここから脱出する事だろう。
………今はそれだけを考えておけ。』

『…………そう、だな。』






ケビンが頷いたのとほぼ同時に低温実験室の扉が押し開かれ、リンとヨーコが帰って来る。


「ケビン!デビット!ジム!!
ハンドバーナーを見付けた!!これで、この装置を止められる!」


リンは日本語でそう言いながら、手にしていた物をデビット達に見せてきた。


『これはハンドバーナーか?
………一体何処でこれを?』

訝る様にケビンはそのハンドバーナーを手に取った。

『培養実験室に落ちていたの。
リンが見付けてくれたのよ。』

『ヒューッ!!流石はヨーコとリンだね!
これでやっと寒さからはおさらばだっ!!
早いとここんな装置止めちゃおうよ!』



ジムはそう言うなりケビンの手からハンドバーナーを奪い取り、装置のレバーを掴んだままの凍り付いた手に炎を当てる。
氷結の解けた手はゆっくりとレバーごと下がっていき、終には完全にレバーを離した。
それと同時に装置の駆動音が止まり、室温が徐々に和らいでいく。
数分後には正常な温度にまで戻るだろう。



「もう少ししたら、ターンテーブルの辺りも元に戻る筈だ。
………ここに長居するのは不味い。早くターンテーブルまで行かなくては。」

「………何かあるの?」

「…ああ。……とても厄介な奴等が動き始めてしまうんだ。
メインシャフトの辺りで挟み撃ちに逢ったら危険だ。
だから、まだ完全には気温が元通りに戻ってない今の内に。
急がないと。」

「分かったわ。」


険しい顔をして何かを説明したリンに、ヨーコが頷く。


『…………。』


そんなリンを、ケビンは疑う様に見ていた。




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