世界を変える願い事




少しの間そうしていた。





「ヨーコ……ありがとう、もう大丈夫だ……。
……ケビン達が心配しているだろうから、早くケビン達の所へ帰ろう。」


リンは立ち上がって、ヨーコに微笑みかける。


「ええ、そうね……二人とも心配していると思うわ。」


ヨーコも立ち上がり、もと来た道を引き返そうとしたその時。


『うっ……ヨーコ…か?』


壁際で倒れていた人がヨーコの名前を呼んだ。
ヨーコはその顔に見覚えはあったが、名前は思い出せない。


『驚いた……。お前が此所に戻って来るとは……。
…お前も…実験サンプルが目当てか?』

『いいえ……ここには偶々迷いこんだだけ……。』


そう答えると、彼は『そうか、……まぁ…その方がいいな……。』と苦しそうに言った。


『モニカはあれを狙っていた様だが……。
アイツには荷が重過ぎるだろうよ……。
何てったって、バーキン博士の最高傑作って奴だ……。
日本語で言う所の《触らぬ神に祟りなし》……だ。』


バーキン博士の最高傑作……。
確か……《G-ウイルス》……だっただろうか……。
感染し適合した細胞を圧倒的な環境適応力で変異させ、進化し続ける生命体《G生物》を作り出す……。……とても危険なウイルス…。
まさか、モニカの持っていたケースの中身は…それ……?


『ヨーコ……こいつを……持っていけ……。
…俺には……もう必要…ない。』


彼は震える手で、大切に握っていた大型のハンドガンをヨーコに差し出した。
ヨーコがそれを受け取ると、彼は目を閉じ項垂れる。


『っ!……しっかりして……。』


ヨーコが慌ててその手を握ると、体温を感じられない位に冷たくなっていた。


『……こいつはもう助からん……。』


デビットが冷静に脈を取り、首を横に振る。
名前すら思い出せない彼は、ヨーコが見ている前で息を引き取った。


……結局最後まで名前を思い出せなかった事に罪悪感を抱きながら、ヨーコは彼が託したハンドガンを見詰める。
大型で、ヨーコ達が使っているハンドガンとは使っている弾丸が違う様だ。
武器に関しては殆どヨーコは分からないが、きっと強力な物なのだろう。
ヨーコはそれを大切にナップザックの中にしまった。




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