★ リンの事は正直言って苦手だった。 自分よりも遥かに背が高いし、かなり好戦的でやたら強いし、頼りにはなるけど……おっかないし……、なんか勝手に先々行っちゃうし、英語が分かんないみたいだからこっちの話なんて分かってくれそうにないし、あんまり笑わないし……、ゾンビ達に容赦が無さ過ぎるし……。 とにかく、リンはジムにとっての苦手要素の塊なのだ。 正直女の子として見るなんて絶対ムリ。 ハッキリ言ってジムの好みとは程遠い。 ジム的にはヨーコの様な、控えめだけど思慮深くてふとした時に見せる微笑みが可愛い女性が好みなのだ。 そんな訳で、リンとは殆ど交流がない。 わざわざ話しかけようなんて思えないから、無視とは言わないまでもかなり嫌煙していた。 リンが嫌な奴だとは思わない。 どっちかっと言うと、誰かを助けようと一生懸命になっているいい奴だとは思う。 でも、リンとは何だか波長が合わない気がする。 リンの方もヨーコの傍にべったりで、ケビンやデビットを心配する事はあっても、ジムの事はあまり気にかけていないものだとばかり思っていた。 《J's BAR》からこっち、ゾンビだらけで訳の分からない事態に巻き込まれて正直どうしたら良いのか分からない。 何をすればこの地獄から逃げられるのか、全く見当もつかない。 ……ジムには自分が臆病な事位は自覚がある。 ゾンビ達が腐った身体を引き摺りながら迫ってくるのは、ジムには耐え難い恐怖だ。 ゾンビ達から逃げ始めてもうかなりの時間が経った。 ジムはケビンやデビット、さらにはリン程の体力は無い。 体力的にも精神的にも正直もう限界だ。 ………だから信じられない位巨大な蛾が襲ってきたときに、気が動転してあらぬ方向に逃げようとしてしまったのは、極自然の事だったのかもしれない。 だが自分に襲いかかってきた蛾は、ジムではなく、ジムを庇ったリンを連れ去っていった。 目の前で自分の身代わりに拐われていったリンを見て、ジムが思ったのは薄情なことにも《助かった》という安堵だった。 |