ダクトでバルブハンドルを使って梯子を伸ばす。 蔦に邪魔される事なく、梯子は無事にB6FからB5Fへと伸びた。 こう言っては何だが、何でこんな仕掛けになっているのだろう。 不便極まりないと思うのだが……。 ゲームとしてなら兎も角、現実としてこんな仕掛けを作る意味はあるのだろうか……? ………考えた所で、答えが返ってくる事は無い。 何はさておき、これで上の階に行ける様になった。 ターンテーブルがちゃんと動けばここから脱出出来る筈なのだが…。 B4Fまで上がると、周囲の異常に気が付く。 この先の区画の温度が異常に下がっているせいだが、扉の周囲の壁も霜が降りたかの様に真っ白になっていた。 過度に冷やされたドアノブは触れた皮膚が貼り付いてしまいそうなほど冷たくなっている。 もし手が濡れていたら、手の皮膚ごと剥がれてしまいそうだった。 扉から漏れてきている冷気にヨーコが身体を震わせているのを見て、凜は自分が着ていた上着を脱いでヨーコに渡した。 「ヨーコ。これを……。」 動きやすさを重視した作りなので大した防寒性能はないだろうが、無いよりはましだろう。 ヨーコは戸惑った。 「……でも、リンが……。」 「大丈夫。鍛えてるから寒いのは割りと平気だ。私よりも、ヨーコの方が寒そうだからな。」 この中で一番体力の無さそうなヨーコが一番心配だからでもある。 ヨーコは礼を言って、上着を重ね着した。 背の高い凜の上着はヨーコには大きかったようで、かなりぶかぶかだがよしとしよう。 そしてドアを開けてウエストエリア通路へ進む。 そこは、全てが凍り付いていた。 息を吐く度に肺まで凍り付いてしまいそうな寒さだ。 こんな場所に長居は出来ない。 早く空調を戻して、ターンテーブルで脱出しなくては。 『こりゃ何だ?』 曲がり角の所で奇妙な物を見つけてケビンが立ち止まった。 ケビンが見付けたのは凍り付いたハンターだ。 温度が異常に下げられている今はまだ動かないが、空調を戻してしまえば動き始める。 あくまでも、今は仮死状態なだけだ。 この状態の時にコイツらを殺す事が出来るのなら、どれ程楽になるだろうか……。 そこまで考えて、ふと試してみる価値はあるだろう、と凜は思い付いた。 ゲームでは何故か攻撃が通じなかったが、現実では分からない。 リュックからショットガンを取り出して、ハンターの顔面に突き付けて引き金を引く。 ほぼゼロ距離で放たれた散弾は、ハンターの頭部を粉々に破壊した。 凍った肉片が辺りに撒き散らされる。 血液までほぼ凍っていたようで、血生臭さはあまり無い。 「……攻撃は通用する……みたいだな。」 これで少なくとも、目につく場所にいるハンター達は動き始める前に倒せる事が判明した。 ターンテーブル起動後に何処からともなくわらわら湧いてくるハンター達はどうしようもないのだろうが……。 メインシャフトを抜けてイーストエリアを目指そうとした時、重たい羽ばたき音が聴こえ、モスジャイアントが飛来した。 狭い通路で戦うのは分が悪い。 各々のエリアへの通路を結んでいる中央の建物の中なら、モスジャイアントは入って来れない筈だ。 「真ん中の建物へ走れっ!」 指を差して指示を飛ばすと、ヨーコ、ケビン、デビットは意図を汲んでくれた様で建物へ全力で走っていくが、ジムはモスジャイアントに驚いて来た道を引き返そうとあたふたしている。 モスジャイアントはそんなジムを獲物と定めたのか、ジムに向かって急降下しようとしていた。 「くっ!ジム!!伏せろ!!」 ジムを突き飛ばすように凜は彼に体当たりをする。 ジムが吹き飛ばされて通路を転がるのを確認するのとほぼ同時に、襲ってきた急速な浮遊感と顔を覆う鱗粉で凜は気を喪った。 |