世界を変える願い事



B4Fに向かう為セキュリティーセンターを出ようとしたその時、呼び出し音の様な電子音が聴こえた。
かなり近い場所で鳴っている。
……何処で鳴っているのだろう?


「リン……リュックの中で何か鳴っているみたいよ……。」


リュックを肩から下ろし中身を確かめると、以前チェックした時には気付けなかった通信機の様な機械から音が出ていた。
通信機の様な機械にはインカムが付いていて、首から提げられるようになっている。

通信機の画面一面に《呼び出し中》の文字が表示され、《応答》の文字が点滅していた。
タッチパネル仕様なのだろう。
凜は用心しながらもインカムを装着し、《応答》の文字を押した。



「……もしもし……?」



“凜なのねっ!?良かった…やっと…繋がったのね……。”


若干ノイズ混じりだが間違いない。部長の声だ。


「部長っ!?」


あまりの事態に茫然となった。
何故部長が?部長もここにいるのか?

凜の混乱は他所に、部長はいつも通りの調子で続けた。


“あまり長々と説明している暇はないから手短に説明するわね。
凜、画面を見て頂戴。”


言われた通りに通信機の画面を見ると、そこには生物部のメンバー全員の名前と各々の横にケータイの電波状態表示の様なアンテナが表示されていた。
それによると、部長との電波状態はアンテナ二本。ハルもまた同様。
獅堂はアンテナ一本。心羽は圏外になっている。


(どういう事だ?何故皆の名前が……?)


訳が分からない。
剰りにも想定外過ぎて、思考が飽和状態だ。


“私は今ハルと一緒にいるわ。
一輝君は一緒じゃないけど、彼も無事みたい。
……でも、心羽と連絡が取れないの。”

「待って下さい。どういう事ですか?部長達もここに……?」

“えぇ。私もハルも気が付いたらこの街にいたの。
私は運良くハルと合流出来たのだけどね…。”

「部長はこの街の事……知っていますか?」

部長は……何処までこの事態を把握しているのだろう。
この街がゲームの中の、造られた架空の街である事を知っているのだろうか?


“……ゲームの中の街だと言う事は、ハルから聞いたわ……。”


そう言えば、ハルもバイオハザードをやった事があるのだった。
彼の事だから、直ぐに気が付いたのかもしれない。

ハルが何処かにいる……。

そう思うと、不思議と心が落ち着いて仄かな温もりすら感じる。
だが部長が続けた言葉は、再び凜の心をいい意味で揺らした。


“偶々出会ったシンディ達から凜の事を聞いたの。”

「シンディ!?彼女達は無事なんですか!?」


まさかここでシンディ達の名が出てくるとは思ってもみなかった凜は、驚きのあまり通信機を取り落としかける。


“えぇ。取り敢えずはね。今の所怪我をしている人は居ないわ。”


…それは…良かった……。本当に……。
ハルはバイオハザードのゲームを知っているから、きっと皆を助けてくれるはずだ。
どういった経緯で部長とハルがシンディ達と行動を共にしているのかは気になるが、部長とハルならばきっと凜の代わりにシンディ達の力になってくれる、凜は確信を持って断言出来る。


“凜は今何処にいるの?”

「アンブレラの地下研究所にいます。」

“……遠いわね。……今合流するのは難しそうだわ。取り敢えずは別々に行動しましょう。”

「…分かりました。」


その時、通信機から“部長、ゾンビ達が追ってきています。……ここも危ない。早く行きましょう。”と落ち着いて静かだが何処か焦っているハルの声がした。


“私とハルはシンディ達と一緒に行くわ。
……心羽の事が何か分かったら連絡するわね。”


それを最後に通信が切れた。

……余りのことに頭が飽和状態だが、取り敢えず今成すべきは此処から脱出する事だと判断出来る位は余裕がある。



「リン……何だったの?」

ヨーコが心配そうに訊ねてきた。

「あ……友達からの連絡だった。……どうやらシンディ達とも一緒らしい。」

「シンディ達?彼女達は無事なの?」

「そうみたいだ。」


凜が頷くと、良かったわ……とヨーコは心底ホッとしたように笑った。


『シンディだって?
シンディ達がどうかしたのかっ?』


シンディと聞いて心配になったのか、ケビンが寄ってくる。

その必死な様子に、ケビンは…………シンディが好き…なのかもしれないな、と凜は心の片隅で思った。


『えぇ。無事だそうよ。……リンの友達と一緒にいるらしいの。』


ヨーコがケビンにそう答えると、ケビンも安心したように笑った。




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