★ UMB No.3とVP-017を混ぜ合わせてV-JOLTが完成した。 濁った褐色の液体だ。あまり触りたくはない。 触った瞬間、肌が爛れそうだ。 あくまでもそれはイメージに過ぎないが、体に有害なのは間違いがないだろう。 あんなに巨大な怪植物を、薬瓶1つ分だけで枯らしてしまえるのだから。 どんな原理であんな作用になるのかは知らないが、危険な薬品である。 取扱いには最大限注意しなくては。 「よし……ダクトに急ごう。」 これで除草出来る筈だ。 ダクトへ行く扉の横の陰に、負傷した白衣を着た男……恐らくはここの研究者が倒れていた。 彼は凜達に気が付くと、助けを求めるかの様に手を伸ばしてくる。 『う……死にたくない……救急スプレーを……くれ……。』 救急スプレーを欲しがっているのだろうとは分かるのだが、生憎凜には救急スプレーどころか調合ハーブの持ち合わせすらない。 ……凜にはどうしてあげる事もできなさそうだ。 かと言って無視する事も出来ない。 どうしたらよいものか、と凜が考えあぐねていると。 『あの……コレを使って……。』 ヨーコが自分のナップザックから救急スプレーを一本取り出し渡した。 「ヨーコ……いいのか……それは、大事なものだろう。」 いざという時の為の備えだった筈だ。 「…いいの……。今は私よりも、この人の方に必要だわ……。」 ………確かに。 ゲームをしている時には彼の負傷具合は今一分からなかったが、こうして見る限り話したり出来ている事が不思議な程の深い傷だ。 今すぐにでも専門的な治療を受ける必要がありそうな程の。 救急スプレーの回復力がどれ程の物なのかまだ見たことは無いが、………正直……助からない気がする……。 研究員はヨーコから救急スプレーを受け取ると、救われたかの様に笑った。 『ありがとう………代わりに、……これを、……持っていくといい…。』 彼はヨーコに自分が握り締めていたショットガンを差し出す。 ヨーコがそれを受け取ると、彼は力なく崩れ落ちた。 「おい!…………駄目だ……もう、息が無い……。」 凜が慌てて脈を取ったが、彼は既に息絶えていた。 最後の力を振り絞って、ヨーコにショットガンを渡したのだろう。 使う事が叶わなかった救急スプレーを握り締めたまま事切れた彼に、ヨーコは瞑目した。 『そのスプレーはあげるわ……。』 凜は彼の名前すら知らない。 だが、ヨーコにとっては同じ職場で働いていた相手だ。 顔を合わせた事位は有ったのかもしれない。 ……どうやらヨーコはゲーム通りに記憶を喪っている様だが……、……思う所があったのだろうか。 ………どうやら彼はゾンビにはならない様だ。 背中の傷を見るに、ハンターにやられたのは間違いが無さそうだが。 先天的にか後天的にかは分からないが、抗体を持っていたのかもしれない。 凜は死体をそっと寝かせ、目を閉じさせた。 死体を連れていく程の余裕はない為、ここに置き去りにするしかない。 これが今凜が彼に出来るせめてもの事だった。 アメリカ風の弔い方なんて知らないから、凜は静かに手を合わせて彼の冥福を祈る。 ……ダクトにはゲームと同じ様に怪植物が生えていて、先に行くのを妨害していた。 ケビンとジムが邪魔な蔦を何とか退かせようと頑張っているが、どうすることも出来ない様だ。 V-JOLTを作ったのは無駄足では無かったらしい。 「ケビン!ジム!下がっていてくれ!今からその蔦を退かせる!!」 ジムとケビンが退いたのを確認してから、凜はV-JOLTを蔦に振り掛けた。 その効果は劇的で、怪植物は気持ちの悪い液体を吹き出しながら蔦を枯らしていく。 大元は完全には枯れてはいなさそうだが、邪魔な蔦は全て枯れ落ちているから問題はない。 これで先に進めるようになった。早くセキュリティーセンターを目指そう。 セキュリティセンターには凜の予想通り、デビットがいた。 服に返り血が着いているものの、デビット自身に怪我は無さそうだ。 ゾンビと戦った時にでも着いたのだろう。 デビットが無事で何よりだ、これで漸く一安心できた。 『デビット!こんな所にいたのか。 こっちは心配していたんだぜ。』 『……先に進むためには、梯子を伸ばす必要がある。 ……だが、その方法が分からん。』 どうやらデビットは先に進む為の道具を探していた様だがまだ見付けられていないらしい。 それに関しては仕方ないだろう。 セキュリティーセンターのパネルの中にあるバルブハンドルが必要だとは普通は気が付かない。 パネルの中にバルブハンドルがある事自体、中々気付けないと思う。 パネルを開ける為にレンチを使ってもいいのだが、凍り付いたレンチを溶かしに行くのも手間だし、ゾンビだらけの休憩室に行くのは気が進まない。 ここは蹴り壊した方が早いだろう。 左右どちらかのパネルにバルブハンドルが入っている筈だ。 凜は取り敢えずダクト方面のパネル前に立つ。 息を整えてから、全力でパネルに蹴りを放った。 グワンッと金属が歪む音がして、パネルが微かに開く。 更にもう一撃加えると、パネルは完全に開いた。 …パネルの中には期待通りにバルブハンドルが入っている。 「ヨーコ。これを使えば先に進めると思う。」 凜はバルブハンドルをヨーコに渡し、セキュリティーコンソールに向かった。 パスコードを打ち込めば、この先の区画のシャッターを開けられる。 モニカに取られてしまったヨーコのIDカードでも開けられるが、こちらの方が早い。 パスコードは三通りだ。 試しにA194と打ち込むが、残念……違う様だ。 B482と打ち込むと、電子音が鳴ってB4F培養実験室前のシャッターが開放された。 更にはどうせついでだからとA375と打ち込んでB5F電算室前のシャッターも開放させておく。 ヨーコが居るので指紋登録の必要は無く、電算室を訪れることは無いだろうが、開放して何か問題がある訳でも無いのだからやっておいて損は無い。 |