![]() ★ リンは何かに焦っている様に、早足で先に進む。 ケビン達は遅れない様に後ろから追いかけていた。 (しっかしリンは何を探しているって言うんだ?) リンの目的はさっぱり不明だ。 デビットが心配なら、さっさと彼を探しに行けばいいのだ。 だと言うのに、彼女は何の為に何に使うのかも分からない薬品を持っていくのだろう。 ケビンがリンの後に続いて自動扉を潜ると、そこは何とも奇妙な部屋だった。 部屋に設置された巨大なカプセルと壁一面のコンピューター。 まるでチープなSF映画にでも出てきそうな光景だ。 それが現実に広がっているのだから笑えない。 机の上にあった見取り図によると、どうやらここはB7Fの実験室らしい。 (アンブレラはこんな所で何をやっていたっていうんだ?) どう見たって医薬品を開発している光景には見えない。 大体何故こんな地下深くに世間からは隠されてここを作る必要があったのだ? それは公表出来ない何かを研究していたからではないだろうか。 唐突にだが、ケビンはSTARSの連中のことを思い出した。 彼らが見たと言っていたもの、アンブレラの裏の顔……。 ……彼等からその話を聞いたときには、出来の悪い作り話だとケビンは他の警察仲間達と一緒に笑い飛ばした。 ………何故もっと彼等の言うことに耳を傾けてやれなかったのか、今更ながら後悔する。 仮定の話をした所でどうにもならないが、もし彼等の言うことを信じてやっていれば、こんな事態にはならなかったのではないだろうか。 ……そして、彼等が何処かに去っていってしまうことも…。 思えば彼等の話を頑として聞き入れなかったアイアンズ署長には、アンブレラと裏で癒着しているという噂があった。 ……この事態の原因の一端には、自分達警察も関わっているのでは……? その疑念を晴らすことはケビンには出来ない。 大体警察組織が最初からもっと効率よく動いていたならば、街全体に被害が及ぶ事も無かったように思える。 ……此処まで逃げて来たときにも思ったが、警察内の指揮系統が滅茶苦茶だ。 トップのアイアンズ署長が例え指揮出来ない状態になったとしても、直ぐ様別の人間が指揮を取れるようになっているはずである。 あの混乱の仕方は……まるで誰かが意図的に行っているかの様だった。 街全体があの有り様では、警察組織が機能停止するのも時間の問題だ。 ……いや、警察だけではない。 消防署や病院、その他のライフライン……その全てが何時機能停止するか分からない。 ………そもそも、まだ無事な市民は後どれ程残されている? ……………最悪の場合、殆どの市民がゾンビと化してしまっているのではないだろうか……。 『オーイ、ケビン!ボヤッとしちゃってどうしたんだい?お腹の調子でも悪いの?』 考えているうちに黙りこみ険しい顔をしていたケビンを、ジムが心なしか心配そうに見てきた。 『ちょっと考え事をしていただけさ、心配は要らねぇよ。』 『ならいいんだけどさ、ヨーコとリンは先に行っちゃったよ?何でも薬品廃棄室に用が有るんだってさ。そんな所に何しに行くんだろうね? まぁ、そんな事よりもこの見取り図に依るとさ、この先のダクトから上に行けるみたいだよ。B4Fのターンテーブルから外に行ける様だね。 オレ達はそっちに行ってみようよ!』 そこまでを一息に言われて、ケビンは少し苦笑いしながら頷いた。 『そんなに一気に話さなくたって、ちゃんとついていくさ。』 ジムと共にダクトへと続いている通路を歩く。 時折首の骨をへし折られていたり、頭を砕かれた死体が転がっているのはリンが倒したゾンビのものに違いない。 ……リンのゾンビ達に対する容赦の無さは少し異様だ。 ゾンビの首を踏み砕く時の彼女の顔は、剰りにも淡々としている。 ………高校生のしかも女の子なら、怯えて逃げ惑っていたって何もおかしくない。 だと言うのにリンは誰よりも冷静にゾンビ達を倒していく。 ………普通ならゾンビを最初に見た時に、頭を狙うのではなく、脚や腕を狙うのではないだろうか……。 実際問題ゾンビ達は頭等を破壊されるまでは止まることは無いから、リンの対応は至極正しい物だったのだが。 …リンの場合は……正しいからこそ、異様なのだ。 『ギャーっ!!何だよコレ!植物のお化け!?』 一足先にダクトへと進んだジムの絶叫が扉の前から聴こえた。 『ジム!?何があった!?』 ケビンも直ぐ様扉を開けてダクトに進み、ジムが指差す方を見上げて、そして絶句した。 『なっ……何だこれは……。こんなのが、植物なのか?』 見上げても先が見えない程巨大な植物がダクトを下から上まで突き抜けて生えている。 『うぅっ!何だよこの蔦!これじゃあ梯子が使えないよ!!』 ジムの言う通りに植物から延びた蔦が梯子に絡まっていて、邪魔をしていた。 『オイオイ……コレを何とかしなかったら先に進めないってか?』 ………本当に、…笑えない冗談だ。 ![]() |