![]() ★ 部長は獅堂を呼び出した。 居場所は不明だが恐らくは無事である月代よりも、無事かどうかすら分からない獅堂を優先したのだ。 十数秒の呼び出し音の後、微かな息遣いが聴こえてきた。 獅堂、なのだろうか。 「ねぇ、聴こえる?聴こえているなら返事をして。」 “この声……、部長っ!?何で部長が……?” 通信機から返ってきたのは、確かに獅堂の声だ。 「獅堂、そっちは無事か?今何処にいる?」 春竜は獅堂と部長の通信に割り込んだ。 “なっ……ハルまで……?” 「俺と部長は、今一緒にいる。獅堂が近くにいるなら合流しよう。」 “…そうか……俺は今倉庫だ。二人は今何処に?” 獅堂に訊かれて春竜は、今いる通りの名を告げた。 “………遠い。多分合流は無理だ。………それよりハル……気付いているのか?此所が……。” 「ゲームの中かもしれない事なら気付いている。」 “そうか………。” 「ねぇ一輝君。心羽は傍にいる?」 “尾白……?いえ、見ていません。……まさか尾白も何処かに……?” 「分からない。でも、その可能性は高いわ。 凜も何処かにいるみたいだから……心羽もいると思うの。 でも、通信機が繋がらないみたいだし……もし心羽の行方の手掛かりを掴んだら、必ず連絡して……。」 “……分かりました。” そこで通信は途切れた。 獅堂との合流は無理そうだが、無事が確認出来ただけ良しとしよう。 「月代は……。」 月代とも連絡を取ろうとした矢先、春竜はゾンビが現れたのを見付けた。 まだ遠くにいて此方には気付いていない様だが………。 春竜がゾンビを警戒している間に、部長は月代を呼び出していた。 “……もしもし……?” 通信機から聴こえてきたのは、少し警戒している月代の声だ。 ノイズ混じりだが、間違い無い。 「凜なのねっ!?良かった…やっと…繋がったわ……。」 “部長っ…!?” 月代は驚いた様に息を詰まらせる。 月代もまさか部長や春竜がここにいるとは思わなかった様だ。 それは春竜もなのだが。 「あまり長々と説明している暇はないから手短に説明するわね。凜、画面を見て頂戴。」 部長もちらりと遠くのゾンビを見詰めた。 「私は今ハルと一緒にいるわ。一輝君は一緒じゃないけど、彼も無事みたい。 ……でも、心羽と連絡が取れないの。」 “待って下さい。どういう事ですか?部長達もここに……?” 「えぇ。私もハルも気が付いたらこの街にいたの。私は運良くハルと合流出来たのだけどね…。」 “部長はこの街の事……知っていますか?” 一拍置いてから、月代はやや緊張しながら部長に訊ねた。 「……ゲームの中の街だと言う事は、ハルから聞いたわ……。 偶々出会ったシンディ達から凜の事を聞いたの。」 “シンディ!?彼女達は無事なんですか!?” シンディの名を出した途端に、急に月代の声が焦った様に大きくなった。 余程驚いたのだろう。 「えぇ。取り敢えずはね。今の所怪我をしている人は居ないわ。」 通信機の向こうで、月代が安堵の息を吐いた様な気がした。 「凜は今何処にいるの?」 “アンブレラの地下研究所にいます。” 部長が、(そこって近いの?)と目で訊いてきた。 アンブレラ地下研究所………確か…バイオハザード2の舞台になっていた場所だったはずだ。 ……少なくとも、今すぐ行ける場所ではない。 春竜は首を横に振った。 「……遠いわね。……今合流するのは難しそうだわ。取り敢えずは別々に行動しましょう。」 “…分かりました。” その時、ゾンビが此方を見た。 ゾンビは春竜達の存在に気が付いた様で、かなり速いスピードで向かって来る。 さらに、何処からかゾンビ達がワラワラと沸いてきた。 「部長、ゾンビ達が追ってきています。……ここも危ない。早く行きましょう。」 「私とハルはシンディ達と一緒に行くわ。……心羽の事が何か分かったら連絡するわね。」 春竜が急かすと、部長は頷いてからやや早口で月代に伝えて通信を切った。だが、ゾンビ達は春竜達を包囲しようと迫ってきている。 『全く…何処から沸いてきているんだか……! ユイ、ハルっ!走り抜けるわよっ!こんな数相手にしてられないわっ!』 その時、春竜達の傍にいたアリッサが素早くハンドガンを構えて、包囲しようと近寄ってきたゾンビの頭を狙い撃った。 アリッサが放った銃弾は一発でゾンビの頭の大半を吹き飛ばし、ゾンビ達の包囲網に穴が開く。 そこを逃さず走り抜けるアリッサの後に春竜と部長も後に続いた。 (凄い腕だ……。) 春竜はアリッサの射撃技術に感嘆する。 春竜がアリッサに渡したハンドガンには、ゾンビを一撃で倒す程の威力は無い。 あの一瞬でヘッドショットが出来るとは……。 ……頼もしい限りである。 だが、この数のゾンビ相手には多勢に無勢。 逃げるが勝ちだ。 この暗闇を走るような逃走の先に何があるのか、春竜はまだ知らない。 ![]() |