★ 公園の中にはかなりのゾンビ達が彷徨いていたが、ユイはまだマシだと言っていた。 ……本当に、彼女はどんな所から逃げてきたのだろう。 ジョージはそう思わずにはいられない。 ユイはゾンビ達を避けて進むのがかなり上手いようで、ゾンビ達の注意の隙を縫うようにすいすいと逃げていく。 そのお陰でゾンビ達と殆ど戦わずに後少しで公園を抜けられそうだ。 『やったわ、出口よ!』 やっと公園の出口に辿り着き、シンディが嬉しそうな声をあげる。 『あぁ、その様だ。』 公園の出口が見えて少し気が抜けてしまっていたのか、ジョージは背後から追い縋るゾンビ達に気付くのが遅れてしまった。 『ジョージっ!後ろよ!』 ユイが真っ先に気付き警告するが、ジョージが振り返った時にはゾンビは異常な速さで近寄って来ていた。 ユイの方にも襲い掛かろうとゾンビが彼女に走り寄って来ている。 絶体絶命の瞬間。 『っ!伏せて下さい!』 何処からか鋭い声が飛んで来て、ジョージは咄嗟に身を屈めた。 後方で弦を鳴らす音が聴こえ、ジョージの頭の上を矢が通過して吸い込まれる様にゾンビの額に突き刺さる。 ゾンビは矢が刺さった勢いのまま後ろに倒れた。 「部長!これを使って下さい!」 さらに、ユイに何かが投げられる。 彼女が素早く受け止めると、それはハンドガンだった。 ユイはそれを確認するなり、近寄って来ていたゾンビの額に銃口を突き付けて引き金を引き、ゾンビの額に風穴を開ける。 『良かった。無事、みたいですね。』 弓を手にした少年がジョージに走り寄って来た。 日本人の少年で、ユイと同じ位の年齢だろう。 彼がジョージを助けてくれたようだ。 「まさか、ハルが助けに来るとはね。驚いたわ。」 ユイは少年に微笑みかける。知り合い、なのだろうか。 「偶然、です。 ゾンビに襲われている部長を見た時はかなり焦りましたが。」 ユイは受け取ったハンドガンを返そうとするが、少年は首を横に振って断った。 「部長が持っていて下さい。 俺にはこれが有りますから。」 そう言って彼は手にしていた弓をユイに見せる。 『失礼だが、君は?ユイの知り合いなのか?』 『申し遅れました。俺は五行春竜。 部長の後輩です。 ハル、と呼んで下さって結構です。』 ハル、と名乗った少年はかなり礼儀正しい性格のようだ。 無表情だが、キリッとした顔をしている。 『“部長”?あぁ、ユイの事か。 ユイの後輩という事は、君も日本の高校生なのか?』 ハルは頷いた。リン、ユイに続いて三人目だ。 『そうか…、さっきは助けてくれて有り難う。 私はジョージ・ハミルトン、この街で働く医師だ。』 『…ジョージさん達はこれから何処へ? もし宜しければ、俺も同行してもいいでしょうか。』 『あぁ、君も来てくれるなら心強いよ。』 『ありがとうございます。 …ジョージさん、もしよかったらこれを使って下さい。 此所に来る途中で……拾ったものですが。』 ハルはそう言って、ハンドガンを三挺差し出した。 予備の弾薬まで三箱も用意されている。 シンディとアリッサにも、と言う事なのだろう。 『これは…!…本当にありがたいが、君の分はあるのかい?』 ユイに渡していた分と合わせて四挺もハルは他人に武器を渡している。 『えぇ、心配には及びません。…それに、使い慣れないハンドガンよりも弓の方が良いので。』 ハルは無表情に頷いた。 |