![]() ★ 材料を確認したところ大体の料理は作れそうな位には材料が揃っていた。 まぁ、ここはレストランなのだから当然なのだろうが。 さて、何を作ろうか。 皆疲れているのだから疲労回復が出来そうな物が良いだろう。 材料を適当に見繕っていると、「サラダ位なら作れるから任せて!」と野菜を豪快に刻んでいた部長が春竜に振り返った。 「そういえば、ここってゲームの中なのよね?」 「……ゲームの中なのか、確証は持てませんが……少なくとも《ラクーンシティ》はゲームの中の架空の街です。 ここがゲーム世界なのか、はたまた《ラクーンシティ》が実在するパラレルワールドなのかは分かりません。 ただ………。」 食材を切る手を一旦止めてから春竜は後に続けるべき言葉を探す。 「そのゲームの設定と同じなのよね?今の状況って。」 春竜はその通りです、と頷いた。 「でね、私そのゲームの事そんなには知らないのよ。 《バイオハザード》だっけ? 名前は知ってるんだけどね。内容までは詳しくは知らないわ。 ゾンビが出てくるって位かしら。 だから、そのゲームについて教えてくれないかしら?」 「ゲームについて、ですか?」 「えぇ、ハルが知っている範囲内で構わないから。」 春竜が知っている範囲と言われても、春竜は月代や獅堂程『バイオハザード』に詳しい訳ではない。 ゲームをやっていれば自然と頭に入ってくる程度の知識しかない。 何から話すべきやら。 春竜は少し考えてから言葉を選びながら言った。 「…そう、ですね…。 俺達が今居るこの街は…《バイオハザード》のシリーズで、2と3の舞台になっていた街…だった筈です。 ……他の作品にも出ていたかもしれませんが。 ……俺は2と3は遊んだ事が無いので確証は無いです。」 「へー。そうなの?」 春竜は頷いた。 「まぁ、2と3の話が纏められている様なガンシューティングならやった事はあるんですけど。 ……ゲームの内容としては、俺達が今置かれている状況そのものからの脱出………つまりはラクーンシティから脱出する事を目的としています。」 なる程ね……。と部長は呟き、それから少し真剣な顔をして春竜に訊ねた。 「ゾンビ達って一体何なの? それが一番気になるんだけど。」 「一言で言ってしまえば、あるウイルスに感染した人間です。」 「ウイルス?あれがウイルスの仕業だっていうの? そのウイルスの感染力ってどれ位なの? 飛沫感染?それともまさか空気感染?」 「えっと………たしか、噛まれたりしたら感染する筈です。 空気感染は、少なくとも今はしない筈です。」 確かt-ウイルスはどんどん感染力が弱くなるウイルスで、空気感染出来る程の感染力を有していられるのは本当に極めて短時間だけだった筈だ。 現段階で空気感染してしまう様なウイルスだったのなら、2のクレアやレオン、3のジルやカルロスも漏れ無く感染してしまう。 いや、クレア達は先天的に抗体を持っていたのだっただろうか? 皆の命に関わる重要事項だからうろ覚えの知識で答えない様に、春竜は知っていると断言出来る事だけを話した。 「成る程ねー。じゃあさ、攻撃を受けない様に注意したらいいって事よね? それでね、………一つ聞きたいのだけれどいいかしら。」 春竜は頷いた。 「ウイルスに感染してゾンビになってしまった人達って、元には戻れるの?」 真剣にこちらを見詰めてくる部長の瞳から目を逸らさない様に、確りと見詰め返しながら春竜は首を横に振った。 「残念ながら、…出来ません。 少なくとも、今は。 俺達がゾンビと化してしまった人達にしてあげられる事は、……止めをさしてせめてその飢餓を終わらせてあげる事だけです。」 「そう………。」 悲しそうに部長は目を伏せた。 「部長……。」 春竜が部長を慮って声をかけると、部長は顔を上げて春竜を安心させるかの様に微笑んだ。 「大丈夫よ、ハル。 私は今一番何を成すべきか分かってる。 その為に必要な事も………。 だから、私は引き金を引く事は迷わない。」 優しさと強さを湛えた瞳が春竜を見上げる。 「必ず、皆で脱出しましょ。 凜と、心羽と、一輝君と一緒に。 皆で。」 「はい、必ず。」 春竜が頷くと、部長は約束よ、と笑った。 ![]() |