世界を変える願い事







矢張と言うか何と言うか……、裏路地にもゾンビ達が待ち構えていたのではあるが、心の準備が出来ていた上にマークと春竜が協力すれば、何の問題も無く倒す事が出来た。


(…これは………。)


裏路地には、植え込みに落ちていたチェーンカッターの他にショットガンやその弾薬が落ちている。

一応全員に行き渡るだけのショットガンを所持しているとは言っても、多く持っておく事に越した事はない。
有り難く頂いていく事にするが、ショットガンなど一体誰がこんな場所に持ち込んだのだろう?

ショットガンは普通こんな所に転がっている物では無いと思うのだが。
………先程襲い掛かってきたゾンビの物だったのだろうか。
ゾンビ達からこの裏路地に逃げ込んだはいいが、力尽きてここでゾンビになってしまったのかもしれない。

春竜は頭を砕かれて動かなくなったゾンビを振り返った。


『助ける事が出来なくてすみません……。
これは貰って行きます…。』


手を合わせてからショットガンとその弾薬をリュックにしまい、チェーンカッターを持っていく。
これであの鎖を切って、ゲートを開ける事が出来る筈だ。


他に何かないかと更に奥に進むと、春竜は紙ごみの山の上に比較的新しそうなチラシを見付けた。
手にとって見ると、どうやらあの動物園のチラシのようだ。
ジャングルドームとやらに咲いたラフレシアについてのチラシらしい。
ラフレシアなら珍しいし充分客寄せが期待出来るのだろう。
だからといって『メルティ』という名前まで付けるのは少々変わっているとは思ったが…………。


チラシの日付を見る限りもうラフレシアの花は枯れている筈だ……。
しかし、……バイオハザードのゲームの中には、ウイルスによって怪物と化した植物が出てくる事がある……。


(まさか……………。)


超巨大なラフレシアが食虫植物の様に人間を襲うのを想像して、春竜は思わず背筋がヒヤッとした。


(……考えるのは止そう。態々見に行かなければすむ話だ。)


チラシには御丁寧にも園内の地図と、『ワタシはここよ♪』とジャングルドームの位置が示してあった。


(……行かない方が賢明だろうな……。)


間違っても立ち入らない様に、春竜はその場所を覚えておく。
ふと、ラフレシアの広告の下に気になる記述がある事に気が付いた。
園内で《マスコットメダル》とやらを集めると、何か景品が貰えるらしい。
マスコットメダルのイラストも添えられている様なのだが、大雑把過ぎて今一つ具体的には分からない。


『……マスコットメダル…?』


無意識の内に呟いた言葉を、シンディは聞き漏らさなかった。


『あっ、それって……。』

『シンディさん…何か知っているんですか?』


もしかして、何かの手掛かりになるのではないかと期待して春竜は訊ねる。


『ええ、あの動物園の園内中のあちこちに隠されているラクーン君が描かれているメダルを集めると、色んな景品がもらえるのよ。
私も欲しくて探してみたんだけど…結局一枚も見付けられなかったのよね。』


ラクーン君………、……アライグマをデフォルメして二足歩行させた様なキャラクターの事か。
逃げてくる途中でも所々で見掛けたが、あの動物園のマスコットキャラクターだった様だ。
景品………大方動物園の入園券やラクーン君のキャラクターグッズ等の事だろう。
流石にそんな景品が、この先に起こる何かに関係するとは思えない。


『へぇ…それは、面白そうですね。
子供なら夢中になって集めそうです。』


小さい子供は大喜びだろう。
いや……小さい子供に限らず、部長も喜びそうだ。
きっと部長の事だ、メダルを全部集めるまでは止めないに違いない…。
その様を想像すると、微笑ましくなる。
どうやら小さな子供向けのイベントの様だが、別に他の年齢の人間が集めたっていい様だ。


『そうね………。でも、今となっては………。』


シンディが哀しそうに俯いた。
こんな事態になってしまっては、このイベントは何の意味もなさない。
子供が遊びに来る事は二度と無く、あと数日もすればこの街自体が消え去る運命だ。


子供達だってどれ程犠牲になってしまった事だろうか………。
幸か不幸か(恐らくは幸運にも)春竜は子供のゾンビを見た事は無いが、間違いなく多くの子供が犠牲になっている。

それを思うと胸が痛い。


『…………。』




その時。
少し鬱となった空気をぶち壊すかの様に、春竜が手にしている通信機が音をたてた。


部長からの呼び出しだ。
何があったというのだろう……?


「部長?何かあったんですか?」

“あっハル!
あのゲートを開ける為の道具は見付かった?
もし用事が終わっているならちょっとこっちに来てくれないかしら?”


用事………。
これ以上此処を探しても、これ以上役に立つ物は見つからないだろう。
ここでの用事は終わったとみてもいいに違いない。

部長の様子だと、何か逼迫した状況にある訳では無さそうだが……。


「はい、チェーンカッターがありました。
多分これであの鎖を切る事が出来ます。
ここにはもう何も無い様ですし、直ぐそちらに向かいます。」


何はともあれ部長が呼んでいるなら行かなくては。




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