![]() (………何かおかしい……。) 生存者を探して辺りをさ迷っていると、辺りに転がっている遺体が何処か奇妙である事に気が付いた。 (目の中の煤……。 ………死後に焼かれた、という事なの……?) もし炎に焼かれた事が死因なら……要は炎に焼かれた時には生きていたのだとすれば、生理的な反応で目をギュッと瞑るので、目の中に煤が入る事は無い……筈である。 しかしここの遺体達はそうではない……という事は死因は他にある、という事なのだろう。 ………それが何なのかは分からないが………。 (いえ……。そうだとしても、やはり変よ。) どの遺体もそうなのだ。 これ程の人数がいて、一人残らず焼ける前に死んでいた、なんて事があるのだろうか? いや、今はその原因を考えている余裕は無い。 早く生存者を捜さないと……。 ………こんな状況で生存者なんて自分以外にいるのかは怪しいのだけれど。 (………駄目ね……。この人も、もう死んでいるわ……。) 比較的軽度に見えた人にも、生体反応は無い…。 呼吸も脈拍も無く、見開かれた瞳孔は白く濁っている……。 これでは生存者など絶望的なのではないだろうか? そう思っていると、確かにたった今死んでいる事を確認した筈の遺体の指が………ピクリ、と動いた……。 「えっ……?」 結衣は思わず驚き、後退る。 (まさか、……生きていた…の? いや、有り得ない……。 確かにあの人は死んでいた……。 なら、私の見間違い……?) だが、遺体は……確かに死んでいる筈の人間は、ムクリと起き上がった。 その瞳は白く濁り、口は半開きでその端からタラタラと唾液を垂らしている。 明らかに、異常事態だ。 結衣は身構え、注意深く起き上がった元遺体を観察する。 呼吸は………やはりしていない……。 瞳は………死後に起きる特徴的な白濁を見せている……いや…乾燥すら始まっているかもしれない。 血の気が失せた肌……紫色に鬱血している。脈拍があるのかは怪しいところだ……。 ………やはりどう考えても、これは死体だ。 だがしかし、死体は動かない……少なくとも歩いたりはしない。 死体が歩くなど……小説や映画などのフィクションの世界の中だけである。そう、現実に有り得る筈が無い。 (キョンシーとかゾンビ……みたいね、これじゃ。) しかし現実に今、目の前で死体が動いているのだから、それを否定しても仕方が無い。 今は、この現実を受け入れた上で何を成すべきか考えなくてはならない。 (これがゾンビだとすると、セオリー通りに生きている人間を襲うのかしら?) じっと観察していると、ゾンビ(仮称)はカチカチと歯を鳴らしながら結衣へと腕を伸ばし掴もうとしてくる。 素早く結衣は身を退いてその腕をかわした。 (捕食対象として私を見ているのかしら? 兎に角捕まらない様にしないと。 ……動きは比較的緩慢ね。 神経の伝達か、筋収縮に少し異常がある……と見ても良さそう……。 視力………はあんなに目が白濁してちゃまともに見えて無い、か。 だとすれば、何で獲物である私を認識しているのかしら? 聴覚か嗅覚……辺りかしらね。) 結衣は足元に落ちていた小さなコンクリート片を音を立てない様にしてそっと握り、思いっきり遠くへ投げた。 コンクリート片は、ゴンっと音を立ててアスファルトに落ちる。 するとゾンビ(仮称)は明らかに音がした方向に動いて行った。 (成る程………聴覚に頼っている様ね……。) さて、ゾンビ(仮称)が別の所へ意識を向けている間に早くこの場を離れなくては。 そう思って、振り返ると…………。 辺りに転がっていた遺体達が起き上がろうとしていた。 「…………流石に夢だと思いたくなるわ……。 それも、飛びっきりの悪夢だとね……。」 結衣の呟きは、炎が巻き起こした風に呑み込まれて消えた。 ![]() |