![]() そして、やっとの事でゾンビ達を振り切った俺は街の片隅にある倉庫に身を潜め、これからの行動を考える事にした。 取り合えずゲームをやった中でざっと思い付くだけでも幾つかの脱出手段がある。 1.時計塔の鐘を鳴らして、やってきたヘリに乗せて貰う。 2.9月30日辺りにラクーン大学周辺を飛んでくれる筈の消防署のヘリに乗せて貰う。 3.地下研究施設の電車を使って脱出する。 4.9月30日に大通りから飛び立つであろうヘリに乗せて貰う。 5.この街を貫くハイウェイまで何とかして辿り着き、徒歩でも車でも何でもいいから街から脱出する。 6.山を伝って隣街まで行く。 7.廃工場に隠されたヘリに乗って脱出する。 8.ギリギリで飛んでくる可能性があるバリーが操縦するヘリに乗せて貰う。 という辺りだろうか。 改めて考えると、ヘリが多い。 まぁ……既に街周辺の通常の交通網は軒並み封鎖されているのだから仕方が無いのであろうけれど。 取り合えず順番に検証していこう。 まず、1。 ゲームの中ではネメシスに敢えなく撃墜されてしまうのだが、ネメシスの標的であるSTARSのメンバーが居ないのであれば特には問題なく脱出出来るであろう。 だが、そこに辿り着くのが既に困難……。俺個人では無理ゲーである。 次に2。 ラクーン大学まで行くのも難しいのだが、何がヤバイかって言うと、あのパン一野郎……もとい《タナトス》がヤバイ。 訓練されている筈の特殊部隊の人間にすら歯が立たなかったのだ。 俺の様な一般的な男子学生が単身挑んで勝てる相手じゃない。 雑草を刈り取る様なお手軽さで刈られて終了だ。 月代クラスの超人なら話は別かもしれないが。 次に3。 地下研究所自体が死地に等しいが、それより何よりGはヤバイ。 あんなのを実際に倒せとか無理無理。 第一形態にすらまぁ勝てないのが目に見えているし、万が一他の形態だったら瞬★殺である。 レオンやクレアが勝てたのは、ゲームという事もあるだろうし、俗に言う主人公補正も付いていただろうし、それより何より、あの二人とも十二分以上に超人とか人外とかってカテゴリの中の住人である。 The一般人、しかもデスクワーク派である俺にどうこう出来る相手ではない。 次に4。 ロドリゴさんに乗せて貰えるかは正直微妙なラインである。 それに……やはりあの辺りにはタイラントが出てくる可能性があるし、ともすればニュクスまで出てくる。 次に5。 ハイウェイに行くのはまぁ良いとして………。 あそこはアンブレラの特殊部隊が陣取っている場所である。 そんな場所にノコノコ出ていって、殺されないだろうと期待するのは流石に平和呆けが過ぎる。 次に6。 これは全くの論外である。 俺は、既にウイルスに汚染され尽くした森に入って生きて脱出出来る様な超人じゃないからだ。 万が一廃病院に閉じ込められでもしたら、ほぼジ・エンドである。 次に7。 早いとこ行けば多分ヘリは残っている。 ヘリの操縦は本物を飛ばした事はないが、シュミレーターなら何度か飛ばした事がある。 辿り着けさえすれば、何とかなるだろう。 最後に8。 来るとは限らないヘリを当てにするのは間違っているし、そもそもこのヘリが来るという事はジル達も一緒だという事だからまぁ間違いなくネメシスも来る。 …………どう考えても、俺には無理ゲーだ。 そもそも、その場所まで単身で辿り着くのが無理だ。 ………………脱出手段は後回しだ。 時間があまり無いのは分かっている。 今が何時なのか分からないが、この街は10月1日の夜明け間近に地図から消え去る運命だからだ。 もしかしたらその日時に多少の誤差が生じるかもしれないが………あまり猶予が無いのは変わらないだろう。 だが、今は兎に角生き延びる事が重要だ。 身体能力的に一般人な俺が生き延びる為に必要な物。 それは、武器、それと情報である。 さしあたっては地図が欲しい。 地図に類する物を求めて倉庫の中を彷徨くと、市中の地図が見付かった。 そんなに詳細な物ではないが、一先ずはこれで充分だ。 ついでに辺りに散らばっていたメモ用紙の束とボールペンを拝借した。 この手の筆記具はあって困る事はない。 さて、包丁でも何でもいいから武器を探そうとしたその時、倉庫に放置されていた古ぼけた姿見が目に入った。 やや曇った鏡面に写っているのは相も変わらずよろしくない目付きではあるが、紛れもない俺自身の姿だ。 顔色が悪い等という事もなく、普段通りである。 特に気になる事などは無いか、と思ったその時、俺は自分が何かを背負っている事に気付いた。 肩からおろしてみると、それは小振りなリュックサックだった。 小振りながらかなり頑丈に作られていて、デザインも悪くない。 これなら男女共に持っていても特には違和感はないだろう。 更には驚く程軽く、背負っていても負担になりにくい様に工夫が施されている様だった。 俺はこんなリュックサックに見覚えはない。 いつの間に背負っていたのだろう。 やはり目覚めた時からだろうか。 中々良いリュックサックだな……と俺は暫し今の危機的状況を忘れしげしげとそのリュックサックを調べた。 今度こんなリュックサックを作ってみるのも悪くはない。 中は空っぽの様だが、デザインを損なわない程度に中身はかなりたっぷり入る様に工夫されているのが見てとれた。 機能面とデザイン性が見事に協調している。 もっと詳しく調べようと、中に手を突っ込んだその時。 何かの手応えを感じた。 はて、中身は空っぽだった筈なのだが。 手を引き抜くと、中から………ロケットランチャーが出てきた。 勿論重たい。 慌ててそれを両手で抱えると、支える手を失ったリュックサックは床にパサリと落ちた。 !?どういう事だ!? このリュックサックはここまで重たくは無かったし、何より、ロケットランチャーが入る様なサイズではない。 ロケットランチャーも、リュックサックから引き出すまでは殆んど重みなど無かった。 これは……、まさか………!! 驚きと喜びにうち震える手で再び中を探ると、出るわ出るわ………次から次に武器が出てきた。 これだけの武器があれば何とかならなくもない。 武器の問題は解決したとみて大丈夫だろう。 だが、そんな些末な事などどうだって良い。 このリュックサック……俺が愛して止まない漫画からあやかって《四次元リュックサック》と名付ける事にしたリュックサックの素晴らしさから比べれば、そんな事は些末な事柄にしか過ぎない。 この四次元リュックサックの原理を解析出来れば、俺の大いなる野望《ドラえもん製作プロジェクト》が大いに前進する事は間違いがない。 何より、ドラえもんを象徴するあのポケットを作り出す事が可能になるやもしれないのだ!! あぁ……そうと決まればこんな場所でグズグズしている訳にはいかない。 一刻も早く日本に帰りこのリュックサックを解析しなくては。 さぁ一気に忙しくなる。 兎に角、プロジェクトに携わる皆に声を掛けなくては……! 何処でもドアと四次元ポケットのどちらを先に作るかで悩んだ日もあったが、四次元ポケットで決まりそうだ。 あぁ何と素晴らしい日か。 ゾンビ達の呻き声すらこの事を祝福する歓声に聴こえてくる………。 ん?とそこで再び俺は現実に立ち返った。 そうだ、今はゾンビに囲まれているのだ。 浮かれている場合ではない。 取り出して無造作に積み上げている武器を四次元リュックサックに戻そうとした時だった。 まだ何かが四次元リュックサックに残っている事に気付いた。 何だろう?と取り出すとどうやら通信機らしい。 電源が入ってないのか、画面は真っ暗なままだった。 武器を仕舞いなおす片手間で通信機を調べていると、唐突に電源が入った。 驚いて通信機を取り落としかけるが、寸での所で持ち直した。 危ない危ない。 精密機械は優しく扱ってやらねばならないのだ。 こんな場所で落とそう物なら故障しかねない。 しかし、一体何事だろう? 息を殺して通信機を見詰めていると。 “ねぇ、聴こえる?聴こえているなら返事をして。” と、何故か我らが敬愛する部長、星野結衣の声が通信機越しに聴こえてきた。 「この声……、部長っ!?何で部長が……?」 すわ幻聴か、と一瞬思いかけたのだが、部長の声を俺が聞き間違える事などあろう筈がない。 “獅堂、そっちは無事か?今何処にいる?” 「なっ……ハルまで……?」 俺が驚きで声が出せずにいると、割り込むかの様に仲間の、春竜の声が聴こえてきた。 部長のみならずハルの声まで聴こえてるとは。 一体どうなっている?何が起きているのだ? “俺と部長は、今一緒にいる。獅堂が近くにいるなら合流しよう。” ハルがそう提案してくる。 二人ともこの街にいる、という事なのか……? 「…そうか……俺は今倉庫だ。二人は今何処に?」 ハルが告げた通りの名前を先程手に入れた地図で調べると、かなり遠い。 街の反対側に近い。 「………遠い。多分合流は無理だ。………それよりハル……気付いているのか?此所が……。」 俺よりも更に異変を感じとるのが上手いハルならばもう気付いた可能性は高いが、俺は念の為に訊ねた。 “ゲームの中かもしれない事なら気付いている。” 「そうか………。」 やはり、ハルは既に気付いたらしい。 “ねぇ一輝君。心羽は傍にいる?” 部長の口から尾白の名前が出て、俺は嫌な予感にかられた。 「尾白……?いえ、見ていません。……まさか尾白も何処かに……?」 “分からない。でも、その可能性は高いわ。 凜も何処かにいるみたいだから……心羽もいると思うの。 でも、通信機が繋がらないみたいだし……もし心羽の行方の手掛かりを掴んだら、必ず連絡して……。” 超人…というか最早人外領域の住人である月代はともかくとして、尾白が行方知れずなのは相当に不味い。 部長は……あれでいて俺などより余程危機を何とかする力があるし、超人領域に片足を突っ込んでいるハルが傍にいるのだから二人なら特に問題なく切り抜けられるだろう。 しかし尾白は……彼女もまた別の超人領域の住人なのだが、尾白の特技がこの状況で役立つとはあまり思えない。 しかも、回りに知り合いなどいないこの状況。 他人に強い不信感を抱いてしまっている尾白の心理的負担が非常に心配である。 「……分かりました。」 優先事項の一つとして尾白の事を心に留め、通信を切った瞬間。 『手を挙げなさい!!』 と背後から鋭い声が飛んできたのだ。 えっ?えっ?な、何事?と振り向こうとした瞬間。 『振り向かないで!!変な素振りを見せたら遠慮無く撃つわよ!』 と、後頭部に固く冷たい金属の固まり……恐らくは拳銃を突き付けられ、俺は振り向くに振り向けなくなった。 『そのまま手を後ろに組みなさい!』 俺は言われるがままにそれに従う。 そして、冒頭の状況に戻るのだ。 ![]() |