世界を変える願い事





目の前で何が起きたのか。

ケビンは一瞬理解が追い付かなかった。

それは剰りにも唐突な上に予想すら出来ていなかったのだから無理もない事なのかもしれないが。


そして、店に入ってきた客をその前からいた客が蹴り飛ばしたのだと漸く理解した時には、蹴り飛ばされた客は見事に宙を舞い壁に叩き付けられていた。


店内にいた全員が唖然とし、客に触れようとしていたウィルなどは凍り付いたように固まっている。

そんな周囲の様子は気にもかけず、加害者である客はまるで何かを見極めようとしているかの様に険しい面持ちで倒れ伏した被害者を睨み付けていた。
小柄な人が多いアジア系にしては珍しいケビンよりも高い身長に、無駄な肉が無く鍛えられているのが一目で分かる少し細いが引き締まった体つきと、凜とした顔立ちが相俟って、えもいわれぬ迫力を加害者から感じる。


『おっ、おい……あんた……。』


傷害罪の現行犯として逮捕すべきだろうか。

ケビンはそうは思うも、加害者側のただならぬ様子に一瞬躊躇する。


その時。


『ヴぅ……あぁ……。』

「っ!浅かったか……!」


蹴り飛ばされた客がのそりと起き上がった。
しかしその様子は尋常ではない。

構造的に有り得ない方向に曲がった腕を伸ばして加害者を掴もうとし、その口の端からは唾液が垂れ続け、眼は白く濁っていた。
カチカチと歯を鳴らしながら迫るその姿は………まるでフィクションの中に出てくるゾンビの様だ。

その様を不吉に感じたケビンは、腰に吊るした45オートに手をかける。
この場で最も危険な存在は、加害者である客ではなく被害者である《それ》なのだと言葉で説明出来ない何かで察していたのだ。

だが、ケビンが45オートを引き抜く前に。
加害者は即座に反応し、回し蹴りを《それ》に喰らわせた。

一体その一蹴りに何れ程の威力が秘められていたのか、《それ》は再び軽々と宙を舞い壁に叩き付けられ、『ゴキッ。』という頸椎が折れる音が響き、蹴り飛ばされた客は完全に動かなくなった。


『オイ、マジかよ。コイツ……殺しやがったのか…!?』


流石にそうするとは想像もしていなかったケビンは微かに狼狽えた。
目の前で起きた出来事に店内は騒然となる。

しかし、加害者はそんな店内の様子には意を介さず、窓の外を見詰めて愕然とした。


釣られてケビン達も窓の外を見ると、通りが大変なことになっている。
先程の客のような奴等が溢れかえっていた。

奴等は此方に気が付いたのか、窓を叩き破ろうとしてきている。

バンバンと《奴等》が窓を叩く音が嫌がおうにもこの非現実的な事態を現実だと教えてくれた。

この時漸く、自分達が大変な事態に巻き込まれているのだと、ケビンは理解したのであった。





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