こっちを見て?

ある大きな事件の捜査後
輪壱號艇・貳號艇合同主催のショーをすることになり、花礫と无も共に参加することになった。

「はあ? 足を挫いた?」
「ええ。ごめんなさい。だから、私の代わりをやって欲しいの」

椅子に座り、左足首に包帯を巻いているツクモは花礫を呼び出しこう頼んだ。

「ガ、花礫?ツクモちゃん困ってるよ?助けないと」
「う…。でも、なんで俺なんだよ? キイチはどうした?アイツにやらせればいいだろ」

ツクモに寄り添うように立っている无に見つめられ、つい頷きそうになるが、ツクモのやるはずだった役が役なだけに簡単に引き受けるわけにはいかなかった。

「キイチちゃんは、やりたい役があるらしくて、ダメだったの。イヴァも趣味じゃないから嫌だって…」
「何だそれ?つか、俺だってやりたくねーよ。なんで…なんで、白雪姫なんかやらなくちゃならねーんだよ??」


そう、今回のショーは白雪姫をテーマとしていたのだ。そして、白雪姫役はツクモがやることになっていた。
しかし、練習中にこけかけた无を助けようとして、足を挫いてしまった。
无は責任を感じて、花礫に一生懸命お願いをする。


「花礫、お願い!!ツクモちゃん動けないの。お、俺、台詞とか覚えられないから代わり出来ないから…花礫やって?花礫はスゴイからツクモちゃんの代わりも完璧に出来るよね?」
「あー、まあな。でもよ、俺が白雪姫やってもキモいだけだぜ?それでも良いのかよ?」
「(花礫君、無自覚だわ)ええ。花礫君がいいの。とっても似合うと思うわ。今すぐ衣装合わせに行きましょう」
「あ、おいっ!まだやるって言ってない!!」



ツクモは飛んで花礫の腕を掴むと衣装部屋へ急いだ。
无もツクモが着地する時を手伝うために彼女たちの後を追った。


半ば引きずられるようにして衣装部屋へ連れてこられた花礫はそこで待機していたイヴァにより、身ぐるみをはがされた。


――――おいっ、止めろ! ちょっ触んな!!
――――あら、別に減るもんじゃないんだし良いじゃない。それにしてもアンタ細いわね〜。ちゃんと食べてる?


激しく抵抗しながらも、サイズを測られ、衣装班が急いで作った衣装を着せられた花礫は、疲れ切っていた。
うなだれる花礫を見て、无は心配になり声を掛けた。


「花礫?あの…大丈夫?」
「大丈夫に見えるか? なんなんだよ。さっき測ったばかりだろ?なんでこんなにすぐに衣装が出来るんだよ?」
「あぅ…花礫、怒った?」
「うっ……。怒ってねーよ」


无は花礫に元気がないのは自分のせいなのではと思い、涙目で尋ねた。
花礫は无のそういう顔に弱いので、つい怒ってないと言ってしまった。


「大丈夫よ、无。花礫はこんなことくらいで怒んないわよ。 さあ、花礫!今から台詞練習よ!!張り切っていくわよ」

そう言うとイヴァは花礫の腕を掴み、奥の部屋へ連れて行った。

「无君。ありがとう。ここからはイヴァに任せましょう」
「分かった。ツクモちゃん、部屋までおんぶしたげるよ!」
「え? ありがとう无君。お願いね」

无はツクモをおぶって部屋まで帰って行った。




イヴァに連れ去られた花礫は、台本を渡され、稽古を始めていた。

「アンタ頭良いからすぐ覚えられるでしょ? 10分あげるからこのシーン覚えなさい」
「10分って…。分かったよ。黙ってろよ?」

そう言い花礫は台本を黙読し始めた。


そして、10分後。

「よしっ。覚えたぜ」
「あら?本当に10分で覚えたの? アンタすごいわね。 じゃあ、始めましょうか」

イヴァと花礫は動作を確認しながら台詞の練習を始めた。


――――花礫!そこもっと可愛く動きなさい!!
――――うっせーな。どうやんだよ?
だからもっとくねっとするの!!!ほらっ!やってみて!


イヴァのスパルタ教育のおかげで、3時間後には完璧な白雪姫が出来上がった。


「そういえば、他の配役ってどうなってんだ?てか、俺のことちゃんと言ってるか?」
「ああ、大丈夫よ〜。アンタの事も連絡済よ〜。配役は、当日のお楽しみ!アンタは自分の役になりきっとけばいいのよ」

イヴァの言葉に不安を覚えたが、これ以上言っても教えてくれないだろうと思い、花礫は当日を待つことにした。




***
そしてショー当日


「「「え???白雪姫が花礫(くん)(君)???」」」
「そう。私が足を捻ったから代わりに」

実は花礫が代役になることはイヴァが面白そうだからと伝えていなかったので、当日王子役である平門(ツクモ指名)が彼女を迎えに来て発覚した。

王子役を最後までやりたがっていた喰と興味本意でツクモの白雪姫を見に来た與儀と朔は、その事実に大声をあげた。

「ほう。では花礫を迎えに行かないとな」

平門は一人、嬉しそうに呟くと花礫の部屋へ向かおうとした。
しかし、他の三人が素早く彼の前に立ちはだかる。


「待ってください!あなたはツクモちゃんが指名したから王子になっただけで、白雪姫役が変わったんだから僕に王子をやらせてください!ほら、僕の方が年も近いし」
「何言ってるの喰くん!俺の方が花礫くんと仲良いし、息もピッタリだよ!俺がやるべきです!!」
「分かってないな〜二人とも。ここは大人の余裕がある俺だろ?平門とは違うちょい悪な感じも出せるぜ?俺こそが相応しいだろ」


三人は我こそが王子役相応しいと主張するが、平門は余裕の笑みを浮かべ返答をした。

「そうか…。しかし、本番まであと六時間程だ。ここは練習をしっかりしてきた俺がそのままやるべきだな。残念だが、お前たちは自分の役を精一杯演じなさい」

そう言うと平門は物凄い早さで花礫の元へと飛んでいった。

「「「なっ!!?」」」

三人は驚いたが、すぐさま我に帰り平門の後を追った。

「………私の時は喰君がやりたいって言っただけだったのに……」

残されたツクモは、頬を膨らませながら不満を呟いた。





一方花礫は、朝早くからイヴァに叩き起こされて、衣装に着替えさせられていた。
そして、メイクも施され、どこから見ても可愛い女の子になっていた。

(くそっ……なんで俺が……)

「花礫ぃー。むすっとしないの!可愛い顔が台無しになってるわよ」
「可愛いくねーし。別に良いし」
「んもうっ!拗ねないの。本番まで大人しくしてるのよ?もうすぐ王子役が来ると思うから」
「そう言えば誰なんだ?王子役は」
「ん?会ってからのお楽しみよ〜」


イヴァはこれから起こるだろう花礫争奪戦を思うと顔がにやけてしまうくらい楽しみだった。その為には花礫に王子役を話すわけにはいかないので適当にはぐらかす。

(わざわざ早めに準備を整えたんだから、楽しませてよね〜)



花礫が腑に落ちないという顔をしていると、何やら部屋の外が騒がしい事に気が付いた。

「?外騒がしくね?」
「ん?そうね。どうしたのかしら?ちょっと見てくるわ!あんたはじっとしてなさいね」
「はいはい」


イヴァは外で何が起こっているか分かっているため、外に出るとすぐに揉めている彼らに声を掛けた。

「ちょっとーあんたたち!そんな所で揉めてないで、さっさと部屋へ入りなさい!白雪姫の準備はバッチリよ」
「イヴァ。本当かい?では、姫に会いに行くとするか」

イヴァの声にいち早く反応した平門はすぐさま部屋へ入っていった。

それを見て他の三人も慌てて部屋へ入る。

部屋に入るとソファーにちょこんと座って本を読んでいた花礫を見ることが出来た。

四人はその姿に声をなくし固まった。

「「「「―っ!?」」」」
「なんだ、あんたらか。どうしたんだ?てか、誰が王子役だ?」


花礫は首を傾げながら四人を見つめた。
花礫の可愛さに固まっていたが、四人はそれぞれ復活を遂げ、花礫に迫った。


「花礫、王子役は俺だ」
「ちょっ、平門さんズルい!!花礫くん!俺の方が良いよね?安心出来るでしょ?」
「與儀くんなんかに安心感とかないでしょ。花礫くん、僕だったら年も近いし優しくするよ?ほら、僕可愛い子には親切だから」
「年が近けりゃ良いってもんじゃないだろう?花礫、お前の性格的に俺は会ってると思うぜ?役だけじゃなくて、現実でも俺を選べよ」


花礫は四人の勢いに目を丸くし、後ずさる。今まで、それとなく好意は示されていたので、嫌悪感は無いが、必死な感じが伝わり、花礫は今までにない恐怖を感じた。


「いや…俺は別に誰でも良いし…。つか、近い!」
「ほう。では、このまま王子役は俺で決定だな」
「「「意義あり!!!」」」
「なんだ? 花礫が誰でも良いと言ったのだよ? それなら元々王子役だった俺がするべきだろう?」
「なんでですか!!俺だって花礫くんとチューしたいです!!」
「……は?」
「それは僕も同じだよ!ツクモちゃんともしたかったけど…」
「お前らそれだけで満足出来るのか〜?俺だったら終演後にもっと進んだ事もしてやれるぜ?」
「なっ////」


花礫は、四人の言葉に身の危険を感じ、どうにかしてここからの脱出を試みた。
そんな彼の思いなど露知らず、四人の花礫との妄想はヒートアップしていった。


「そんなこと俺だって出来ますよ!花礫くんを部屋まで送って『與儀、今日はありがとな。ショー楽しかった。與儀と一緒だったからかな。なぁ、もっと一緒にいないか?』って言われて、部屋でイチャイチャするんです!!」
「與儀君、夢見すぎ。花礫君がそんな事言うわけないでしょ? 僕なら衣装を着替えるお手伝いをして、そこで身体を触りまくるけどね」
「ふふっ。触るだけかい?俺は、そのままセッ「いい加減にしろ!!」クス」



花礫は彼らの妄想に腹を立て、怒鳴りつけた。そして、彼らが呆けている隙に、ドアから走って逃げて行った。

「あ〜あ。逃げられちゃったな。どうするよ?」

朔が呑気に残りの三人に話しかけると、彼らは素早く立ち上がり花礫の後を追った。

「「「花礫(くん)(君)!!」」」
「おー、元気だねー。まっ、俺も探すけどな。あの恰好じゃあ、街に出たら危険だし」

そう言い朔もゆっくりとだが、花礫を探しに部屋を出た。



(マジでアイツら信じらんねー)

與儀達から逃げ出した花礫は、ちょうど艇が街へ降りていたため、そのまま艇の外へ逃げ出していた。
しばらく怒りにまかせながら走っていたが、ふと周りの視線が自分に集まっていることに気付き、自身の服装を思い出した。

(やべっ。俺、ドレス着たまんまだ。そりゃ男がこんな恰好してたら見るわな)

花礫は急に恥ずかしくなり、物陰に隠れようと人気のない路地へ入ろうとした。

ドンッ

「――っ!?」
「あ、ごめんね。大丈夫?」
「何してんだよ」

路地へ入ろうと角を曲がった所で、花礫は誰かとぶつかってしまった。
ぶつかった相手は、紳士的に手を差し出してくれたため、尻餅をついていた花礫はその優しさに甘え、相手の手を取り顔を見上げた。

「ああ。悪い――っ!?」
「ん?どうしたの?やっぱ、どっか痛いのか?」
「お前がキモかっただけじゃね?」
「夏切さん、酷いっ!!」

花礫がぶつかった相手は、なんとリノルで遭遇した、夏切と麒春であった。

(なな、なんでこいつ等が!?)


花礫は、混乱したこともあり、すぐに立ち去ることが出来ずに、麒春に話しかけられた。

「ねぇ、君、すっごく可愛いね! この街の子? なんでドレス着てるんだ?」
「えっ、いや、その……」
「あ、声はカッコイイ系なんだな。夏切さん!この子、黒白さんへのお土産にしない?」
「へっ?」
「あー。良いかもな。てかドレスとかお前、もしかして輪のショーに出るヤツ?いい土産じゃん」

そう言うが早いか、麒春は素早く花礫を抱き上げ走り出した。

「えっ? おいっ! 離せっ!」
「はいはい暴れるなよ〜。落っことすぜ?」
「そんなに急がなくても良いだろが…」

麒春達が黒白の元へ向かっていると、向こうから黒白がやって来た。


「何をしている」
「あっ!黒白さーん!!見てください!この子可愛いし、たぶん輪のショーの演者ですよ〜」
「うわっ!ちょっ揺らすな!」

麒春は花礫を軽く振り上げながら黒白に話しかけた。
黒白はチラリと花礫を見やると、小さく笑い、麒春に返事をした。

「ふっ。花礫じゃないか。良い恰好だな。麒春・夏切、よく見つけたな」
「「・・・・・・えええぇええぇっぇ!!??」」
「なんで分かって…」



花礫は一目見ただけで自分だと見破ったことに驚き、麒春と夏切は、自分たちが可愛いと言っていた人間が実は敵だと分かり、驚き叫んだ。
そんな彼らを黒白は可笑しそうに見つめていたが、ふいに麒春から花礫を奪い取り、歩き出した。


「へっ?」
「えええ!黒白さん? そいつ男ですよ??いや、男でも可愛いとは思ってたけど…」
「確かに。ねえ、黒白さん! そいつ輪グッズなにか持ってないですか?この前は良いの着てたから…」
「騒ぐな。嘉禄様が花礫に会いたがっていたからな。こんなにおめかししてくれてるんだ。ちょうど良いだろう?」
「「さすが、黒白さん!!!」」


どうやら、嘉禄の元へ連れて行かれるようだと気付くと、花礫は黒白の腕の中で精一杯暴れた。
しかし、黒白の腕はピクリともせず、逆に強く抱きしめられ、身動きが取れなくなってしまった。

「大人しくしていろ。せっかくのドレスが台無しになるぞ」


黒白は小馬鹿にしたように花礫に注意をし、彼の目を手で多い視界を遮った。
すると花礫の意識が少しずつ遠のき始めた。


(なんだ? ヤバい…意識が……クソッ…)


花礫は必至で意識を保とうとするが、黒白は何かをしたようで抗うことが出来ない。

とうとう意識が飛んでしまうという時、小さな影が現れ、花礫を黒白の腕から救出した。


「「ーっ!!?」」
「ーちっ。…誰だ」


黒白は、もう少しで大人しくなるはずだった花礫を奪われ、思わず舌打ちしながら影の方へ視線をやった。


「何してるですかー?花礫さんは今から本番なんですー!邪魔はさせないです〜」

小さな身体で花礫を抱き上げていたのは、小人の恰好をしたキイチであった。
彼女はご丁寧にカツラまでかぶっていたので、黒白には気付かれないかった。

「ま、待てー!」
「黒白さん、俺らが捕まえてきます!」

突然の侵入者に呆けていた麒春と夏切だが、すぐさま花礫を取り戻すために動き出した。
彼らの行動を見て、キイチは素早く路地に入った。

麒春たちは彼女を追って路地に入るが、そこには誰もいなかった。

「くそっ」
「逃げられたな」
「お前たち、今日はもう良いぞ。諦めろ」
「「黒白さん!!」」


さらなる捜索をしようとした所に、白黒がやって来て諦めることを伝えた。


「何でですか?あのちっこいのの足だったらそう遠くには行ってないでしょう?」
「……嘉禄様がお呼びだ。今すぐ帰るぞ」
「「了解」」

自分たちだったらすぐに追いつくことが出来るはずだと麒春は黒白へ訴えるが、黒白が嘉禄の事を伝えると、二人とも素早く返事をして帰る準備をした。
白黒は花礫が去って行った方をチラリと見ると、踵を返し嘉禄の元へ向かった。


(次は捕まえてみせるからな。覚悟しておけよ)




一方、キイチに助けられた花礫は、路地を曲がった所でキイチが飛んだため、未だに彼女に抱きかかえられていた。

「おいっ!いい加減下ろせよ!」
「何でです?飛んで行った方が楽でしょ?それに、姫は姫らしく大人しくしていてくださーい」
「なっ ふざけんな!!」
「暴れないで下さいよ!落っことしますよ?」

自分よりも小さな少女に抱きかかえられている事への恥ずかしさから、花礫はキイチの腕の中で暴れたが、現在、上空に居るため落とされてはたまらないので、大人しくするしかなかった。


「花礫さん、迷惑ですぅー。本番前の打ち合わせをしたかったのに居なくなるなんて…。朔ちゃん達が必死で探してましたよ?」
「……アイツらがキモいこと言うから逃げたんだよ……。なあ、帰るならアイツらと会わないようにしてくれないか?」
「もうっ、我儘ですねー。まっ、良いですよ。そのままステージに行きましょう。でも、王子役がまだ決まってないです…」


花礫はキイチに何故自分が艇から逃げ出していたかを説明し、安全な場所へ運んでもらうように頼んだ。
キイチは朔達の花礫に対する行為を日頃から見ていたため、快く頼みを引き受けた。
しかし、彼ら以外で王子役を出来る人を探さなければ白雪姫は出来ない。そう思い、考え出すキイチ。
花礫は、ショーなんてなくなればいいのにと思いながらも、彼女と一緒に考え始めた。


「あら? 王子役ならもう代役決まったわよ?」
「「えっ?」」


ステージ裏にたどり着き、二人で誰が一番ましかを考えていたところにイヴァがやって来てそう言い放った。


「あの四人の中から王子を選んだりしたら大変な事になるわよ。あたしもここまでとは思ってなかったから急いで連絡して来てもらったのよ」
「誰なんです?その代役の方とは」
「そいつはアイツらみたいじゃねーよな?」


イヴァの言葉に代役が誰かを問いかける二人。せっかく代役が見つかったのに、もしその人も朔達みたいだったら大変なので、緊張した面持ちで確認をする。


「大丈夫よ!その人はアンタに興味ないだろうし。仕事はきっちりやってくれるから!!」
「で?誰だよ?」
「俺だ」
「「燭(先生)!!?」」
「そう燭先生に来てもらいました〜!!彼なら大丈夫でしょ?」
「あ、ああ。そうだな。よ、よろしくな」
「そうですね(燭先生が王子なんて…に、似合わない。どっちかって言うと王様?)」


花礫たちの後ろから声を掛けてきたのは、イヴァに無理やり連れてこられた燭であった。
彼女に頼み込まれ、しばらく平門と朔を燭に近づけさせないという条件の元、王子役を引き受けたのであった。


「さっ、これで安心してショーが出来るわ! アイツらはあたしに任せて! 取りあえず、喰と與儀は小人役だからキイチの所へ連れて行くわね。あとは……縛ってどっかに閉じ込めとくわ」
「了解ですぅー。完璧な小人にしてみせます!」
「じゃあ、あと30分もないから、花礫と燭先生は、軽く打ち合わせしててください」


そう言うとイヴァは喰達を捕まえに向かった。
キイチも彼らに着せる衣装の準備があると良い、花礫たちを控室へ移動させ、部屋を出て行った。


「……」
「……」
「…打ち合わせ…するか」
「ああ。そうだな」


残された花礫と燭は、しばらく無言だったが、本番まで時間がないことを思い出し、仕方がなく打ち合わせを開始した。




***
そしてとうとう本番の時が来た。
今回は白雪姫をテーマにしており、ツクモが出れなくなったので、空中ブランコなどの難易度の高い技はなくなり、劇調になっていた。
そのため、花礫は台本を必死で覚えたのだ。燭に至っては、つい1時間程前にイヴァにより依頼されたので、ほとんど即興芝居に近かった。
しかし、二人の実力は素晴らしく、自然な演技を披露していた。
ちなみに、小人役のキイチ・與儀・喰・无はキイチのスパルタレッスンにより、與儀と喰は花礫に見とれながらも自分たちの役を全うしていた。
物語もクライマックスになり、花礫が毒リンゴを食べ、残すは燭の登場のみとなった時、花礫の名を叫びながら、男が二人入ってきた。
言わずもがな平門と朔である。


「「花礫ー!!」」

棺に納められた花礫を見に舞台上へ登場していた燭は、彼らを見て、嫌そうな顔をした。
平門と朔はなんとそれぞれ形は違うが王子の恰好をしていた。

「燭王子! 彼女は私のモノです! 手を離しなさい!」
「いいや! 俺のモノだ! 待っていろ、今そちらへ向かう!!」
「……」



平門達はどうやら無理矢理物語を改変し、自分を王子にしたようだ。
燭とはフリで済ます予定であった、花礫とのキスを狙って。


彼らの登場に驚いた花礫は、目を閉じているが、小声で燭にどうするか話しかけた。


『おいっ。何なんだよアイツらは! 燭、どうする? 何か返答しないとダメじゃね?』
『しかしな。アイツらに付き合っていると終わりそうもないぞ』
『お二人とも!どうにかして朔ちゃん達に合わせてください!』


二人の会話を聞き、近くに居たキイチが話を合わせるようにお願いする。
燭は一瞬眉をひそめるが、すぐに無表情に戻り、平門達の方へ向き直った。


「黙りたまえ。彼女は私にこそふさわしい。貴様らのような男に彼女を渡すものか!それに、彼女はもう死んでいるぞ」
「そ、それは、これから俺のキスで目覚めさせるんだ!」
「…朔、ネタばれだぞ」
「ほう。 ならば、私がそれを行う事にしよう。 貴様らはそこで大人しく見ているが良い」


そう言い、燭は花礫を抱き起し、なんと本当にキスをした。

「んっ!?」

花礫は、まさか本当にされるとは思っていなかったため、驚き彼の肩に手をやるが、燭はピクリとも動かず、口づけをさらに深めていった。


「ん…ぁん、ふぁ…////」
『ちょっ、ちょっと! 燭先生!何してるんですか! 花礫君を離して下さい!』
『はわわぁわぁわ!?』


彼らのキスを間近でみてしまい、喰はすぐさま抗議した。
與儀は燭が恐いので、彼らをただ見守る事しか出来なかった。
ちなみに无はキイチにより目を手で覆われている。


「お、王子! 姫が生き返りましたです! 口づけを止めるです!」
「そ、そうですよ! 苦しそうですよ?」
「う、うん! は、離してあげてください!」



キイチはアドリブを入れて、この状況をどうにかしようとした。それに喰と與儀も乗り、三人は王子燭にキスを止めるようにお願いした。


「ふんっ。分かっている。 彼女が可愛い反応をするからついな。 悪かった」
『だが、気持ちよかっただろう?花礫』
『なっ/////』


そうこうしているうちに、ナレーションが気を利かせて終わりに導き始めた。



――こうして、燭王子のキスのおかげで生き返った白雪姫は、彼のお城へ行き二人で幸せにくらしましたとさ――




燭はナレーションを聞き、花礫の手を取ると、二人で舞台袖まで歩いて行った。


観客は、王子が三人になったりと少しアレンジされていたショーに満足したようで、大きな拍手を彼らに贈った。









白雪姫のショーは花礫がキスを奪われるという犠牲の元、大成功に終わった。


ショーは終わったが、花礫をめぐる男たちの戦いは、まだまだ終わりそうにないのであった。

花礫のハート射止めるのは、果たして誰なのであろうか?











――――おい、燭。なんであん時キスしたんだよ////
――――ああすれば、話がすぐ終わるだろう? それともお前は、俺にアイツらと戦って欲しかったのか?
――――そうじゃないけど…。フリでも良かっただろ////
――――仕方がないだろう? お前が可愛かったからな。
――――なっ!!?!?
――――ふっ。アイツらの事で、何か困った事があればすぐに言え。力になってやる。




花礫のハートを射止めるのは……?




end




















―――――――――――
あとがき

大変長らくお待たせしました。すみません^^;
書き始めたのがなんと7月25日(笑)
1ヶ月かかりました(^^;

総受けって難しいですね。獅示や蘭二くんも入れたかったのですが、時間軸が狂うので泣く泣く除外です。
人数が多いと会話文も多くなるので読みにくくなってしまいすみません。頑張って読んでください。

ノイル様、お待たせしました!!総受けになってるでしょうか?

ノイル様のみお持ち帰り自由です(〃^ー^〃)


これからも当サイトをよろしくお願いします。


2013,08,31 つくもん

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