安心感

(なんか……ふらふらする)


貳號艇でいつも通り過ごしていた花礫だが、体のふらつきを覚え廊下の壁に背を預けて立ち止まった。


「あれ?花礫くんどうしたの?大丈夫?」

そこへ與儀がやって来て声を掛けた。

「いや、大丈夫だ。ちょっとボーッとしてるだけだし」


花礫は與儀に心配され咄嗟に嘘をついた。今までの生い立ちからか人に頼る事を嫌う花礫は、未だに頼ることが出来ないでいた。


(こいつを信頼してない訳じゃないんだけどな…)



與儀は花礫が気丈に振る舞っていたので大丈夫だと思い、自室へ帰っていった。
與儀が去っていくのを見届け、花礫は無意識にある人物の元へ歩み始めた。




部屋の前まで来たが、そこで花礫は動きが止まってしまい部屋へ入れないでいた。
しばらく固まっていると、中から声が掛かった。


「花礫。いい加減入ってきなさい」


声を掛けられ、部屋の前に居ることがバレていたと分かると、花礫は大人しく、部屋へ入った。
部屋に入ると、平門一人だと思っていたのに、朔とイヴァも居り、辺りは酒の匂いで溢れていた。
花礫は、眉をひそめて扉の前で立ち止まった。


「あら、花礫じゃない。どうしたのよ?」
「おっ、花礫!良い所に来たな。一緒に飲もうぜ」
「朔、花礫は未成年だから酒を進めないでくれ」
「……」


大人たちの酒盛りに遭遇してしまい、花礫はますます体調が悪くなったように感じた。
そして、楽しそうに酒を飲む平門を盗み見て、不機嫌になる。


(なに楽しそうにしてんだよ。……俺が大人だったら、アイツに付き合ってやれるのに……)


もやもやする気持ちを隠しながら、花礫は部屋に来た理由を適当に話した。


「ちょっと本貸せ。調べたいことあるから」
「……そうか。じゃあ、こっちへおいで」


平門はそう言うと、花礫を奥の部屋へ誘(イザナ)った。
花礫は何の疑いもなく、素直に彼について行った。



部屋に入ると平門はドアを閉め、花礫を抱き上げベッドへ向かった。


「っ!?おい!」
「大人しくしろ。体調が悪いのだろう?」


花礫が誘われた部屋は平門の寝室だったようで、花礫は優しくベッドの上に下ろされた。
花礫はしんどさもあってか、横になった瞬間、力が抜けてしまった。
そんな彼を優しい眼差しで平門は見つめて花礫に話し掛けた。



「ちょっと疲れたんだろう。良い子だ。俺の所にちゃんと来たじゃないか。いつでも頼っていいんだぞ。今日はイヴァと朔が居て不快に思ったかな?」
「……っるせーな。俺はただ本を借りに来ただけだ。早くアイツらの所に戻れよ!どうせ、俺と居ても一緒に飲むこと出来ないだろ!」


なんやかんやと意地を張っていたが、体は限界のようで、これ以上動くことは無理だと判断したのだろう。
花礫はプイと顔を逸らしてベットに潜り込み、寝る体制に入った。



花礫と平門は所謂恋人同士な関係である。
平門の大人の余裕が気に食わなかった花礫だが、いつの間にか彼にだけは、頼ることが出来るようになり、平門の告白に真っ赤な顔をしてうなづいたのは一月ほど前の話である。
その頃から、花礫は自分が輪の人間でないことに歯痒さを感じ始めていた。
與儀やツクモは平門と共に戦うことが出来るのに、自分は守られてばかり。本日の様にイヴァ達と酒盛りをしていたら、未成年の自分は入っていけない。平門にいくら愛を囁かれても、不安でいっぱいだった。



体調が悪い現在は、思考も鈍っており、涙目になりながら、平門に酒の席へ戻るように促した。
花礫が思いの外元気がないことに気が付き平門は一つため息を吐きながら優しく花礫に話しかけた。



「やれやれ。花礫。俺はお前の何だい? 恋人だろう? こんな可愛い恋人を放っておける訳ないじゃないか。今すぐ研案塔へ行こう。燭さんに診てもらおう」


そう言うと平門は花礫をシーツごと抱き上げ、窓から外へ出て、研案塔へ向かった。




突然の訪問に燭は文句を言いながらも、花礫を診察した。
結果は、風邪と疲労と診断され、実は熱があった花礫は念のため、研案塔で夜を過ごすことになった。

「まったく。突然来て診断してくれとは、虫がいいにもほどがあるぞ」
「すみません。燭さん。でも、普段は滅多に頼らない花礫が俺を頼って来たんですよ?深刻にならない方がおかしいですよ」
「まあ、熱は高かったからな。で、お前はいつ帰るんだ? さっさと私の前から姿を消せ」



花礫をベッドに寝かせ、一息ついても平門が帰らないため、燭はイライラしながら平門へ帰るように命令した。
しかし、平門は飄々と燭の攻撃を躱し花礫の傍から離れようとしない。


「燭さん。恋人が寝込んでいるならば、傍にいるものでしょう?貴方だってそうするんじゃありませんか?」
「知らんっ! コイツは私が見といてやるから早く帰れ。 私は忙しいんだ。お前が居ると気が散る」


何を言っても動こうとしなかった平門だが、急遽、貳號艇から戻るように連絡が入り、泣く泣く花礫の元を離れ、艇に帰ることになった。


「あ、燭さん、いくら貴方でも花礫に手を出したらタダじゃおかないですよ!」
「さっさと帰れ!!」


燭は平門の言葉に怒りを表し持っていた本を投げつけた。
平門はそれを軽々避けて、部屋から出て行った。 



「ん…平門?」
「花礫、起きたか」
「燭?…俺、何で…?」
「平門がお前を連れてきたんだ。今、仕事で艇に戻ったがな」
「そうか…世話になったな」
「まったくだ。まだ完治していない。今日はここで寝ろ。私は仕事に戻る。隣の部屋にいるから何かあれば呼べ」


燭は花礫に簡単に現状を説明すると仕事へ戻ろうとしたが、花礫によって呼び止められた。


「待てよ」
「なんだ?」
「あの…その……ちょっと相談があんだけど…」
「相談?何だ?手短に話せ」

花礫は珍しく、下を向きながら、遠慮がちに話し出した。


「あのさ、アンタはどうやって恋人に甘えるんだ?」
「は?」
「だから!どうやったら素直に甘えれるか聞いてんだよ!!」
「……何故私に聞く?」
「だって、アンタも俺と同じで人にあんまり人に頼んねーだろ?でも、アンタは恋人とうまくいってそうだから…」



自分に恋人が居ることをなぜか知っている花礫に、自分と似ているからと質問され、燭は目を丸くして驚いた。


「何故知っている? 誰にも言ってないのだが?」
「アンタを見てたら分かる。 アンタたまにアイツに凄く優しい顔してるし。アイツは気付いて無いっぽいけどな」
「…そうか。……で、甘える方法だったな」
「おう」


燭は自身がそんなにも分かりやすいのかとショックを受けた。それを隠すように花礫に自分の甘える方法を伝授した。


「私は、酒の力を借りる。お前には出来ない方法で悪いがな。酔った勢いの時もあるが、大概酔ったフリをしているな」
「なるほどな…。サンキュー。酔ったフリなら俺にもで出来るし、熱下がったらやってみるわ」
「そんなことをしなくても、平門はお前に夢中だと思うがな」
「良いんだよ。俺がやりたいんだから」


それだけ話すと花礫は、倒れるように眠りに就いた。
燭はその姿を見て、花礫を可愛らしいと思い、頭を一撫でしてから、隣室で仕事に取り掛かった。






次の日、花礫は、熱も下がり体調も良くなったということで、艇に戻ってきた。
そして燭から聞いた方法を実行するために、夜まで大人しく過ごしていた。


夜になると花礫は、平門の部屋へ向かった。酒瓶を持って。
しかし、部屋の前まで来ると、昨日よりも騒がしく笑いあう声が聞こえてきた。
不審に思ったが、ドアをノックして扉を開けた花礫が見たものは、昨日よりも人数が増えた酒盛り風景だった。
 


「あら?花礫、どうしたの?」
「おー花礫!!どうしたんだ?お?良いもの持ってるじゃないか!こっち来いよ!」


昨日と同じくイヴァと朔は花礫に話しかけた。彼らの他に、喰と與儀そして燭までもが部屋に集まっていた。

(おい!どういうことだ?)


昨日自身にアドバイスをした燭までもが、この場におり、彼を軽く睨みつけるが、燭は少し気まずそうな顔をしたが、ふいと視線を逸らしワインに口を付けた。


「ほーら!花礫、これでも飲めよ〜!今平門は買い出しに行ってて居ないんだよ。大丈夫、ジュースみたいなもんだから!」
「んっ。おい、止めろっ!」
「いいから飲みなさいよー!アンタも男でしょ!勧められた酒を飲めないなんてカッコ悪いわよ〜」


朔とイヴァに絡まれ、無理やり酒を飲まされた花礫は、頭がボーっとし始め、平門も居ないしちょっとくらい飲んでも良いかと思い飲み始めてしまった。


「あ!ちょっと、朔さん!花礫君はまだ未成年ですよ? こんな度数の高いもの飲ませちゃダメでしょ!」


花礫の様子がおかしいのに気付いた喰は、彼が飲まされた酒を見て朔に抗議した。


「いいじゃねーか。艇の中でなら危険は無いし、燭ちゃんもいるんだぜ?」
「それでもダメです!ほらっ、花礫君、水飲んで!」
「あ?俺ならだいじょーぶだ!!こんくらいへいきだし!!」


赤い顔をしながら花礫は酔っていないと主張した。
喰は平門が早く帰ってくることを祈りながら、花礫に無理やり水を飲ませた。



 

数十分後、足りなくなった酒を急遽買に行かされていた平門が自室へ戻ると、思わず目を見張る光景が飛び込んできた。

「イヴァ〜もっと〜」
「やだぁー花礫可愛いじゃない!ほらっ、いっぱい飲みなさい♪」
「おい、喰寝るなよ〜」
「んー。もう無理です…。だ〜か〜ら〜花礫君には飲ませちゃダメだってば」


イヴァ、朔、喰そして花礫が集まり酒を飲み、部屋の隅にあるテーブルでは、燭が酔いつぶれており、與儀が介抱している姿が見受けられた。平門は頭が痛くなり、頭を押さえながらも、花礫の手を取り、寝室へ連れ去った。
朔を睨み付けるのを忘れずに。



「おお〜。怖いね〜」
「ちょっと、やり過ぎだったんじゃない?」
「良いんだよ。花礫は酔ってないと素直になれないだろ?」
「え"…アンタらもしかしてワザと…」


先ほどまでかなり酔っぱらっていると思っていた二人が急に普通に話し出したため、喰は驚きと見抜けなかった自身の未熟さを感じた。





平門に手を掴まれ寝室へ連れてこられた花礫は、勢いよくベッドへ投げ飛ばされた。

「痛って。なにすんだよ!」
「お前こそ何してるんだ?あんなに無防備な姿を晒して。それに飲酒までしてるな」
「いーじゃねーか!おれだって大人なんだ!あれくらいで酔うわけにゃいだろ!!」


明らかに酔っている花礫に呆れた顔をした平門は花礫を黙らせるために、腕を掴みベッドへ押し付けキスをした。

「ん!? ふぁ…やっ…」


花礫は突然のことに驚き、素直にキスを受け入れてしまい、体から力が抜けたようで、ぐったりとベッドに横たわった。


「少しは落ち着いたか?」
「はぁ、はぁ、はあ、ぅっせ…」
「花礫。どうやら朔に無理やり飲まされたようだが、何故部屋に来たんだ?今日は安静にしとけと言っただろう?」
「……んだよ。どうせ俺は子供だよ。俺、輪でもねーしさ、お前の傍に居ること少ないし。……なんで與儀やツクモには背中任せるんだよ!任せんじゃねーよ!俺、頑張って強くなるから俺だけにしろよ!飲む時も俺を呼べよ!なんだよ?やっぱりイヴァとかのがいいわけ?どうせ俺と飲んでも楽しくないから呼ばないんだろ!!俺、お前のこと大好きなんだぞ!お前が居ないと……俺...」


涙を流しながら訴えた花礫に平門は嬉しさのあまり彼をギュッと抱きしめ首筋に口づけた。


「ん…。やめろ…」
「やめれるわけないだろう? こんなに可愛い事を言ってくれたんだから。花礫、大丈夫だ。俺の背中はお前専用にしよう。戦闘の時も夜もね」
「なっ!?」


平門の言葉に顔を真っ赤にする花礫に平門は微笑み言葉を紡いだ。


「お前がそんな事を思っていたなんて知らなかったな。お前は愛情表現が分かりにくいが、俺にはちゃんと分かってるよ。こうやって部屋を訪ねてきてくれるのも、辛い時頼ってくれるのも俺だけなんだろう?本当にお前は可愛いな」
「るせー。…だって、お前なんか安心するし…。好きだから////」
「ありがとう。 愛してるよ」





平門は花礫にキスをして強く強く抱きしめた。
花礫は平門に抱きしめられながら、幸せそうな顔をして夢の世界へ旅立っていった。







おやすみ。愛しい人。


















━━━━
あとがき
大変長らくお待たせしました!すみません。
加来砂様のみお持ち帰り自由になっております!

無駄に長くなってしまいました。
ちと読みにくいですが、受け取っていただけたら幸いです。


リクエストありがとうございました(*≧∀≦*)

あ、裏設定で、朔さんとイヴァさんは花礫が平門に甘えたいと思ってるのを燭先生から聞いて一肌脱いでます!燭先生はそうそうに居ると邪魔だからと潰されました。
燭先生の恋人は誰なのかは敢えて言いません(笑)
分かる人は分かるかもですけどね!

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