早起きは三文の徳
午前6時、烏野第二体育館には人影が2つ。
7時からの朝練にはまだ一時間も余裕がある。
たまたま早起きしたため早く来た影山は、鍵が開いていない体育館前で 見慣れた人物が見慣れない姿を晒していることに驚いた。
見慣れた人物こと、日向は入口前の階段に座りカバンにもたれ掛かりながら眠っていた。
(あのバカ、こんな所で寝て風邪でもひいたらどうすんだ)
スポーツをやる人間として自覚が足りていない日向に苛つきを覚えながら近づくと軽く揺すって起こすことにした。
「おい、起きろ。こんな所で寝るな」
「……ん…」
日向は身動ぎはするが、起きる気配がない。
「ちっ。面倒くせえ」
影山は起こすことを諦めて、日向の隣に腰かけた。
そして、自分のジャージを日向に掛けた。
「言っとくが、お前のためじゃないからな。こんな所を放置したのが主将にバレたらまた体育館出禁になったら困るからだからな。チームメイトとして仕方なくだからな」
少し頬を赤く染め、誰に言うでもなく言い訳を言う景山。
暫く日向の寝息だけが周りに響いた。
何もすることが無くなった景山は、日向を観察することにした。
(こいつ、案外かわいい顔してるかもな。なんか仔犬みてえ。そう言えば、俺にトスくれって言う時の顔とかおねだりする犬だな。だから色んな人間に可愛がられるんだよな。友達とか多いし。でも、一番楽しそうなのは俺が上げたトスを打つ時だよな……)
何だか日向が愛しく思えて来た景山。
ハッと我に返り、首を横に降る。
(何考えてるんだ俺は。こいつが愛しいとかあり得ないだろ)
もう一度日向を見やると、日向は、身動ぎながら呟いた。
「ん……影…や…ま………スキ……」
!?
景山は、驚き、階段から転げ落ちた。
ドスッ
「いってー。何なんだよおい」
余りの恥ずかしさに、日向を蹴り飛ばし八つ当たりする。
「んぎゃっ!?なっ、何だ?」
蹴られれば流石に日向でも寝ていられなかったようで、驚きながら目覚めた。
「てめー景山!!お前何すんだよ」
「う、うるせえ。お、お前がそんな所で寝てるからわりいんだろ」
「だからって蹴ることないだろ。て、ん?景山、なんか顔赤い…」
「は?何言ってんだ?あ、赤くなんかないぞ」
動揺が隠しきれていない景山は、話題を変えるために日向に質問をした。
「お前、何でここで寝てたんだよ?鍵もねえのに早く来てさ」
「今日は、早く来たらイイコトがあるような気がしたからよ。ま、景山に優しくして貰えたから俺の感は間違ってなかったな」
ジャージありがとよ
そう言って景山にジャージを差し出す。
「ふん。選手が身体冷やすんじゃねぇーよ」
照れてぶっきらぼうに返す景山に、柔らかい笑顔をむけながら
「おう。ありがとな」
と答える日向の笑顔にドキッとする景山。
「お、お前さっきどんな夢見てたんだよ」
「へ?夢?お、俺何か寝言言ってたか?」
急に慌て出す日向を見て何故か景山も慌て出す。
「べ、別に。たいしたことじゃねーよ」
そっぽを向く景山の耳は赤く染まっていた。
「……早起きは三文の徳と言うのは本当のようね。良いものが見れたわ」
実は鍵を預かっており、景山よりも早く来ていた清水は、初々しい二人を温かく見守っていた。
これからの彼らに期待して。
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