美しい名前

「花礫って変な名前だよな 」

クロノメイの寮でくつろいでいると、ベッドに横になっていた花礫がポツリと呟いた。

「そうか? まぁ、音だけじゃ変な気もするけど、良い漢字使ってると思うぞ? 」

獅示は花礫の声に元気がないような気がして彼の方へ視線を向けた。

(泣いてはない……か )

花礫は天井を見つめながら淡々と語り出す。

「俺を拾った奴が瓦礫の上に倒れてたからってつけた名前なんだ。適当だろ? でもな、前にあった名前なんか忘れちまってたから、その……嬉しかった 」
「良いじゃないか。お前を思ってその人は付けてくれたんだろ? 」

獅示は、花礫が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。しかし、彼が何かを伝えたいということは分かったので、辛抱強く彼の話を聞くことにした。

「前までは、ほとんど名付け親とツバメ達にしか呼ばれなかったんた。でもさ、輪の奴らに出会って、ここに来て、たくさん名前を呼ばれるようになった。嫌いじゃねーけど、好きでもなかったこの名前がさ、なんか好きになったんだ 」
「へぇ、いい話じゃないか。 成長したってことだろ? その名付け親に感謝だな。俺もあるぜ。大切な仲間に名前を呼ばれた時にこの名前で良かったってな 」

獅示は花礫が心の内を自分に話してくれたことが嬉しかった。いつも一人で抱え込んで、自分に心を開かないこの野良猫のような子がやっと擦り寄って来てくれたと思うと、思わずニヤけてしまった。

「獅示、笑ってるだろ 」
「い、いや? 別に。 でも珍しいよな。お前がそんな事言い出すの 」
「ん、まあな。ちょっと今日実感したからさ 」
「へぇ〜 」

その日はそれ以降話すこともなくお互い眠りに就いた。



「ねぇ、ねぇ、獅示君! 聞いて聞いて!! 」

次の日、獅示は教室へ向かう途中にツバメに話し掛けられた。
可愛い子に話し掛けられて嫌なわけがないので笑顔で返事をした。

「どうした? 」

ツバメは興奮しており、頬を少し赤らめながら話し出した。

「花礫がね、昨日電話してるのを見たんだけど、今までにないくらい柔らかく笑ってたの!!! 誰と何を話してたのか気になって後で聞いてみたんだけど、教えてくれなかったの。でもね、今朝、急に会いに来て、俺この名前で良かったわ。椿には感謝だなって言ったの!!あと、あたしにもお前に呼ばれるのも悪くないって!!! どう思う?デレ期なの? それともお金貸して欲しいとかかな? 」

ツバメの話を聞き、昨日の会話を思い出した獅示は、ツバメの推測に思わず吹き出した。

「ぶはっ、いや、そのまま好意として受け取っとけよ。アイツだって家族に感謝したい時もあるだろ? 」
「あたし、家族だと思われてる? 」
「少なくとも俺はそう見えるぞ? お前ら仲の良い姉弟みたいだし 」
「あたしが姉ね! 獅示君、ありがとう! もうすぐ花礫誕生日だし、家族として精一杯祝っちゃおう! 獅示君も手伝ってね!最高のお誕生日にしたいの 」

そう言いツバメは獅示の背中をバシリと叩いて去っていった。


「いてて。 花礫、お前幸せ者だな。しゃーねーから祝ってやるよ。でも、アイツの電話の相手って誰なんだ? 」


きっと花礫に尋ねても教えてくれないだろうから気にしないでおこう。そうじぶんに言い聞かせ、彼もまた、教室へ歩き出した。









『あ、花礫くん!! 元気? ごめんね、忙しいのに。どうしても声が聞きたくて……』
『うぜっ。 元気だよ。お前こそ、任務失敗とかダサいことしてないか? 怪我したら无が泣くぞ 』
『ひどっ! ふふっ。だーいじょーぶだよ! 心配してくれてありがとう。花礫くんも俺が怪我したら泣いてくれるでしょ? でも泣かせたくないから、俺は怪我しないよ 』
『…………』
『無言はやめて!!! ねえ、花礫くん!? 花礫くーん!! 』
『ふっ、お前に名前呼ばれるの好きだわ。この名前で良かった 』
『えっ、ちょっ、花礫くん!! って、切れた 』










大好きなあなたに名を呼ばれるから、この名前が好きになる。




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