触れ合い

イライラする。

久しぶりに貳號艇に帰って来た花礫。
しかし、何故だか彼は無性にイライラしていた。
无が勉強の成果を話すのを聞きながらも、心ここにあらずな状態でソファーに座っていた。

「花礫、疲れた? しんどいの? 」

无は花礫の様子を見て声を掛けた。
無意識に腕組みし、貧乏ゆすりをしていた事に気付き、動きを止めた花礫は无の方へ顔を向け答えた。

「っ、悪い。 別に疲れてねーよ。ちゃんと話も聞いてる 」
「本当? 」
「ああ、ホント、ホント 」

无に心配され、慌てて大丈夫だと言ったが、ついついため息が漏れる。
そんな花礫を心配そうに見つめていた无だが、ある事を思いついて花礫に提案した。

「花礫!おやつ食べよう?ツクモちゃんが疲れた時は甘いのが良いって言ってたよ 」
「だから疲れてないって……まあ、腹減ってるし、別に良いけど…… 」
「じゃあ、俺おやつもらってくるね!! あと、ツクモちゃん達も呼んでくる! 」

そう言い无は、嬉しそうに食堂へ走って行った。
无がツクモ達も呼ぶと聞いた時、花礫は何故か胸が弾むのを感じた。
ツクモ達、つまり、彼も来るのだ……と。


花礫は先程までのイライラが嘘のように、心が穏やかになった。
无が戻るのを表情には出さないが、楽しみに待っていると、扉を勢いよく開け放ち、誰かが部屋へ飛び込んできた。


「花礫く――――ん!!!! 」
「おわっ!? 」

ギューッと部屋に入るなり、花礫を抱きしめた人物は、花礫の首筋に顔を埋めながら喜びの言葉を述べた。

「花礫くん。久しぶりの花礫くんだー。嬉しい! やっと会えた 」
「っ、與儀苦しい……離せっ 」
「いーやっ! 花礫くんが帰って来てるって聞いて、俺、頑張って仕事終わらせてきたんだよ? 久しぶりに会うんだから充電させてよ 」
「うぜっ 」

言葉では拒絶を示しているが、抱きつかれた與儀の背中に僅かだが腕を回し、ギュッと控えめに彼の服を掴む花礫。
與儀は、それに気付きながらもここで指摘するとせっかく花礫がくっ付いてきてくれているのに離れてしまうと思い、黙っていた。
されるがままに抱きつかれているように見えて、実は花礫の方が與儀にすり寄っているのは、抱きしめている與儀にしか分からない。


「與儀!おやつ運ぶの手伝ってって言ったのに!! 」


お互いの感触を抱き合いながら実感していた所へ、ツクモがパンケーキを乗せたトレーを持ってやって来た。
その後ろには、メープルシロップを入れた瓶を持つ无と、紅茶を持つ喰が立っていた。

「あ、ごめんツクモちゃん。 任務中に花礫くんが帰って来てるって聞いて、つい…… 」
「あら? 與儀……知らなかったの? 花礫君が帰ってくること 」
「うん……? えっ!? ツクモちゃんは知ってたの? 」
「ええ、花礫君からメールで 」
「花礫くん!? 俺、そんなメールもらってない!!! 」

花礫は、面倒な事になったと顔をしかめながら、取りあえずテーブルにそれ置けよとツクモ達へ言い放った。
そして、まだ抱きしめながら耳元で文句を言う與儀へ返答した。

「お前、俺が帰るって言ったら仕事休んだりすんだろ? 平門から苦情来た 」
「え゛、えっと、その…… 」
「それに今回は急だったし、本当に帰れるか分かんなかったから、无にも言ってない 」
「うん!俺もビックリしたよ。花礫が帰ってきて嬉しい!! 」
「ちょっと〜、ツクモちゃんだけにメールするとか止めてよね! メールするなら僕にしてよ。無視してあげるから 」

ツクモだけにメールしていたという事実を知り、不機嫌になりながら注意する喰は、ツクモの隣をキープしながら、紅茶を飲んでいた。
喰の言葉にイラッとしながらも、確かにツクモだけにメールするのは迷惑だなと思い、これからは无にもしようと心に決めた。

「花礫くん!!今度もし帰ってこれる時があったら、絶対俺にメールしてよね!俺、お仕事休まないから!!約束する! 」
「ほーう。約束ねぇ、もし破ったら何かくれんの?それによったらメールしてやらねー事もない 」
「何かって……、や、破らないもん! 破ったら花礫くんの欲しいものあげるよ!これで良い?メールくれる?? 」
「あー、はいはい。 絶対だからな。破ったら俺が言ったもん寄越せよ 」


花礫はそう言うと、抱き合ったまま、話している事に気付き、无がキラキラしている目でこちらを見ている事にも気付いたので、慌てて與儀を引きはがした。

「花礫、與儀と一緒嬉しい? 心がほわってなった!! 」
「ばっ!? う、嬉しいわけないだろ!鬱陶しいだけだ! 」
「花礫くん酷い! 」
「ううん。嬉しい音、聞こえたよ?それに、さっきみたいに疲れたお顔じゃないもん! 」

无の言葉に顔を赤く染めた花礫は、照れ隠しにか横にいた與儀を軽く殴った。

「痛いっ! 」
「うっせ。別に嬉しくねーし。パンケーキが旨そうだからそうなったんじゃね? 」
「パンケーキ……(花礫君、無理があるわ )」

ツクモは内心そう思いながらも、これ以上この話を続けても無駄だと判断し、パンケーキを食べることを促した。

「ね、ねえ、せっかく出来立てなんだから冷めないうちに食べましょう? 」
「そうだな。さっさと食おうぜ。腹へった 」

與儀と言い合っていた花礫だが、空腹を思い出し、さっさとパンケーキへ手をつけ始めた。
與儀も殴られた腕をさすりながらも美味しそうなパンケーキへ視線を移す。

「じゃあ俺もいただきます!! 」

礼儀良く挨拶をしてから與儀はパンケーキを食べ始めた。

その様子を横目で見ながら、花礫はホッと胸を撫で下ろす。





无に言われて気付いてしまった。自分が何故イライラしていたのかを。
その原因を眺めながら、次会う時は連絡してやっても良いかなと思うのだった。






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