おしくらまんじゅう

「なんだ?貳號艇はこんなに寒かったか? 」

仕事の関係で貳號艇へやって来た朔は、あまりの寒さに驚きの声をあげた。

「あっ!朔さん!!こんにちは。今、暖房器具が故障中で…… 」
「なるほどね。それで、普段は団体行動したくない組も一緒にいるのか 」

主な暖房器具のエアコンが故障している貳號艇では、冬の寒さを凌ぐために急遽旧式の炬燵を用意していた。
そこに群がる貳號艇のこどもたち。
その中には、珍しく花礫や喰までいる。
朔はそれを珍しそうに見て話しかけた。

「喰は寒さに弱そうだしな……我慢出来なかったか?……で、花礫ももしかして寒がりか? 」
「朔さん、うるさいですよ。僕はツクモちゃんと同じ空間に居たかっただけです 」
「喰くん……それはそれで問題が…… 」

喰はあくまでも、自分はツクモのためにこの場に居るのだと主張し、與儀はそんな彼の思考にツッコミを入れていた。
そんな彼らの会話を聞きながら、朔は花礫が反応を示さないことに気がついた。

「花礫?どうした?まさか、本当に寒がりなのか? 」

反論してくると思ったのに反応しない花礫を心配して朔は花礫に話しかける。

「ッ!るせー。だ、黙ってろ!てか、さっさとドア閉めろ! 」
「(こりゃだいぶ参ってるな…)はいはい 」

朔は、花礫の態度を見て、彼が寒さに弱いのだと察した。
花礫は、炬燵に下半身と手を入れながら、コートを着ており、外から来た朔よりも厚着ではないかと思うほど、防寒していた。それなのに、彼はドアを閉めろと身体を震わせながら催促していた。


「花礫……お前、リノルの時よく我慢できたな。あそこめっちゃ寒かっただろう? 」
「ああ、あの時は花礫くん今よりも厚着だったし、ユッキンがいたから寒くなかったんだよね?あのコートは暖かいし 」
「なるほどね 」
「……ちっ。 別に良いだろ。 寒いものは寒いんだ 」

朔や與儀に寒がりを指摘され、とうとう開き直った花礫は、寒いと認め炬燵に身体全体を潜り込ませた。
しかし、それを見た无が、花礫に注意する。

「花礫! ダメだよ炬燵に潜っちゃ! 嘉禄が風邪ひいちゃうから炬燵には足しか入れちゃダメってさっき言ってたよ 」
「そうよ、花礫君。それに、私が入る隙間がなくなるから出てくれる? 」
「ツクモちゃん! 僕の方へもっと寄っておいでよ。 なんなら人肌で温めてあげるよ 」
「喰くん、それはダメだよ…… 」


无は、先ほど研案塔へ出掛けて行った嘉禄から聞いた注意事項を花礫へ話し、花礫を炬燵から引っ張りだそうと彼の服を引っ張っていた。
そして、ツクモは自身の入るスペースが狭くなった事に眉をしかめると、无の意見に賛成という形をとって花礫を炬燵から追い出そうとしていた。
さらに、喰はツクモに近づこうとし、與儀はそれをやんわりと阻止していた。
朔は、そんなにぎやかな炬燵を眺めながら、先ほど喰が言い放った言葉を聞き、何かを思いついたようだった。
ニヤリと笑うと、素早く花礫の後ろへ回り、そして……


「うわっ!? 」
「わっ!? 」


花礫を引っ張る无ごと自身の胸へ抱き上げた。
花礫と无は驚きに声をあげるが、朔は満足したように彼らをギュッと抱きしめた。

「おいっ、何すんだよ! 離せっ! 」


軽々と持ち上げられた事にショックを隠せない花礫は、激しく暴れて朔の腕から逃げ出そうとするが、朔は花礫の抵抗などものともせずに笑顔で抱きしめ続けた。

「暴れんなって。 なあ、无。 こうやって引っ付いてれば暖かいだろう? そう思わないか? 」
「うん。 暖かい…。 ユッキンを抱っこするのと同じなの? 朔さん暖かい 」
「んー。ユッキンみたいに俺は一人では他の人を温められねーな。これは皆の体温が集まるから暖かいんだぞ 」


そう説明すると今度は喰の方を向いて、朔は彼に手招きした。

「じーきっ! こっちおいで。 お前もあったまろうぜ! 」
「………朔さん。 僕は大丈夫です。 いざとなったらツクモちゃんと抱き合うんで…。それにアンタに抱きつくとか絶対に嫌 」
「つれないねー。 えいっ! 」
「−っ!? 」


朔は、頑なに自分を拒否する喰の隙をついて、彼の腕を引っ張り炬燵から引き出すと花礫達を抱いている腕に無理やり招き入れた。


「うん。 暖かいな。 さすが!子供体温の喰クンだな 」
「痛ててっ。 朔さん! 急に腕だけで身体全体を引っ張らないでください! 肩が外れたらどうするんですか!! 」
「大丈夫だって。 いざという時は燭ちゃんがいるだろう? 」


腕だけで、自身の体重を支えなければならなかったため、肩を少し抑えながら、朔の腕の中で抗議した。
花礫はそんな喰を見て、憐みの視線を送っていた。

(マジでこの人が同じ艇にいなくて良かった…。強引すぎっ )


朔の強引さに呆れながらも、燭に診察される喰もちょっとは見たかったと思うのだった。

「ほらっ、花礫、无、喰。 暖かいだろう? 」

朔はそう言い三人に笑いかけた。
それを見た、與儀とツクモは、お互いの顔を見合わせると、さっと朔の側までやって来ると、彼の腕に抱きついた。

「お? お前たちも寒かったのか? 」
「……… 」
「朔さん! 俺たちも仲間に入れて下さいよ!! 皆で抱き合ったらもっと暖かくなりますよ! 」

與儀の言い分を聞き、朔はそれもそうだと思い、與儀とツクモを抱き寄せて皆で暖をとった。
皆が平和に暖をとれている中、花礫は暖かい思いはしているが、どこか納得いかない顔をしていた。
そんな花礫に気が付いたのは、朔であった。
朔は花礫に話しかけた。


「花礫〜! どうした? なんか浮かない顔してるな………あっ、これがまだだからか? 」

そう言い、朔は皆を抱き寄せていた手を離し腕に拘束した花礫の顎を持ち上げて、軽いキスをした。


「―っ!? 」
「无君、見ちゃダメよ 」
「うぁ? ツクモちゃん? 」
「はわわっ、朔さん大胆 」
「もうっ! 僕達が居ない所でやってよね 」

花礫は朔の行動に驚き固まり、ツクモは无の目を覆い、與儀はあたふたし、喰はリア充爆発しろと心の中で言いながら朔に注意した。


「いや〜、恋人としてやっぱりちゃんと特別だよって言いたかったんだよな〜。 花礫もこれをまってたんじゃないか? ん? どうなんだ? 」
「べっ、別に……俺は、その…ちょっといつもと違ってたから気になっただけだし 」
「そうだな。 いつもは、会ったらすぐにキスするもんなー? 」
「ばっ!? そっ、そういう意味じゃっ…… 」
「でも、嬉しかっただろ? 」
「…………」


花礫は顔を赤く染めながら、無言で小さくコクリと首を縦に振った。
恋人同士な彼等だが、艇が違う事もあり、普段滅多に会えない。
そこで、朔はいつも花礫と会えば、キスをすることに決めていた。
花礫もそんな彼の行動を気に入っており、会うたびに嬉しそうにキスを受けているのだった。


「あっ! ひ、平門さんの部屋に行こうか! たぶんあそこには暖炉があるよ! ね? ツクモちゃん、无ちゃん、喰くん!! 」

花礫と朔が良い雰囲気を醸し出しているのを察して、朔に抱かれたままだった與儀は、この場から離れるようにツクモ達に話しかけた。
そして、四人はそそくさと朔の腕から抜け出して部屋を後にした。


「アイツら、気を使わせちゃったな、花礫? 」
「ふんっ。 別にアイツらに頼んでねーし 」


そう言いながらも花礫は嬉しそうに朔のシャツをギュっと握りしめて、朔の胸に顔を埋めた。
朔はそんな花礫を愛しいと思いながら、頭を軽く撫でるとギュッとより一層強く抱きしめた。

(皆でおしくらまんじゅうも良いけど、二人だけで抱き合うのも悪くないな。花礫がいつになく素直だ… )

(朔……暖かい )



彼等の抱擁は、暖房器具が直っても続けられるのであった。




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