飛雄くんの憂鬱

影山飛雄は混乱した。
なぜ自分は今、見知らぬ少女に絡まれているのか。

「ねぇ、飛雄〜。トスあげてよ〜 」

(誰だ?コイツ……)

本日も相も変わらず、体育館で練習をしていた排球部だが、休日という事もあり、商店街の人たちや部員の家族などが差し入れを持ってやって来ていた。
この少女も、きっと誰かの妹だろうと思ったが、当たり前のように名前を呼び捨てにされていることに戸惑いを隠せない。

(てか、このふわふわな髪……日向の妹か?)

影山は、少女の見た目から日向の妹ではないかと推測した。

「お前、日向の妹? 」
「お前じゃないもん!夏だもん!兄ちゃんのセッターは飛雄でしょ?兄ちゃんいつも話しするもん 」

少女・夏の言葉から、確実に日向の妹だという事が判明した。しかし、肝心の兄の姿が見当たらない。
何故この少女は一人で体育館前に居るのだろうか?と影山は疑問に思ったが、子供は苦手なため、さっさと別れてしまおうと、違う人の所へ行くように少女に話を振った。

「そうか。それよりも、あそこの背の高い眼鏡に話しかけてみろよ。アイツ面白いやつだから 」

そう言い、月島を生贄にしようとしたが、夏は良い反応を示さなかった。

「ヤダ!飛雄と一緒に遊ぶの! 兄ちゃんも一緒が良いから探してきて!ここで待ってるから! 」
「は?何で俺が…… 」
「だって飛雄は兄ちゃんの恋人でしょ? 」
「………え”」

日向を呼んで来いという夏からのお願いを断ると、彼女は衝撃的な発言をした。
実は日向と先月ぐらいから付き合い始めていた影山は、驚きを隠せない。
二人は同性同士ということもあり、部の皆にも付き合っていることは内緒であったのに、なぜか日向の妹がそれを言い当ててしまった。

(アイツ…しゃべったのか?)

日向に怒りを感じながらも、影山は夏に優しく問いかけた。

「な、何でそう思うんだ? 兄ちゃんから聞いたのか? 」
「ううん。見ててそうかなって思って! 兄ちゃんたまに部屋で飛雄に電話してるでしょう?あたしの部屋お隣だから聞こえるんだよ!兄ちゃん家ではアンタのこと飛雄って呼ぶもん! 」
「なっ…… 」

夏の洞察力に影山は言葉がでなかった。そして、日向が自宅では影山の事を呼び捨てにしているという事実がわかり、強張っていた顔が少し緩んだ。
気分の良くなった影山は、兄を呼んで来いと言う夏の頭をポンと撫でると、望み通り日向を探しに向かった。

しばらく探し回ると、菅原と何やら話して興奮している日向を発見した。
影山は、日向の興奮具合を珍しく思いながらも声を掛けた。

「おいっ 」
「ん? あっ!! 影山!!! 」
「おー影山良い所に来たな 」

声を掛けられた日向と菅原は、影山を見ると笑顔で歓迎した。

「日向、お前の妹が呼んでるぞ 」
「えっ!? あいつ来てたの? 悪い、迷惑かけたな"」
「へー。影山は噂の妹ちゃんに会ったんだ 」
「……噂の? 」

影山は日向たちの反応を気にせずに要件を伝えてさっさと元居た場所に戻ろうとしたが、菅原の気になる発言により、足を止めて聞き返した。

「うん。日向に妹が居るって聞いて、可愛いらしいから見てみたいなって言っててさ。それと、影山の事がお気に入りなんだってー 」
「はあ…… 」
「しかも俺らの事まで日向の部活のプリントとかで見て名前は完璧に覚えてるらしいよ? 将来良いマネージャーになりそうだねって話してたんだ 」
「へえ。確かに俺の名前知ってましたね。 でもあいつトス上げろって言ってましたよ?選手になりたいんじゃないっすかね? 」
「いや、夏はマネージャーになりたいって言ってた。それにあいつ運動音痴だし…… 」

妹ちゃん待たせたらダメだから取りあえず行こうかと菅原に言われ、日向と影山は妹・夏の元へ戻って行った。
そして、菅原ももちろん夏に会ってみたいという理由で彼らについて行った。

「もうっ! 飛雄も兄ちゃんも遅いよ!! 」
「ご、ごめん。 てか、母さんと来たのか? 」
「うん! お母さん今、先生とお話ししてるよ! あっ!菅原さん!  カッコイイ!! 」
「こんにちは。夏ちゃん。初めまして 」

兄と影山に文句を言っていた夏だが、彼らの後ろに菅原の姿を見つけると、急に頬を染めて声高々に叫んだ。
菅原は、夏の反応に笑顔で返し、しゃがんで彼女の視線に合わせながら挨拶をした。


そして笑顔で爆弾を投下した。

「夏ちゃんは何で影山の事は名前で呼ぶの? 」
「「あっ…… 」」

理由を知っている影山と日向は驚き、小さな声を上げた。
そして慌ててフォローに入ろうとしたが、一足遅かった。

「だって兄ちゃんが家ではそう呼ぶもん! 恋人同士なら普通だってドラマで言ってた! 」
「…………へ、へえ〜。夏ちゃんは良く知ってるね。    日向、影山……後でちょっとだけ話あるから残ってろよ 」
「「…………はい<」」

無知とは恐ろしいものである。
夏にとっては兄の恋人が同性であってもなんら問題は無いのである。世間一般的にはおかしなことであっても本人たちさえ良ければ公言しても問題はないと思っているため、無邪気に兄の恋人について菅原に話している。

「な、夏! こっち来て一緒にバレーしよう? な? 」
「えー。もっと菅原さんと話したい― 」
「おら、トス上げるぞ。 早く来い 」
「……分かった 」
「ふふ。 またね。 夏ちゃん 」
「うん! またねー 」

日向は自身の事を話され、顔を赤くしながら、妹を呼び寄せこれ以上情報を話されないようにした。
それに気付いた影山も一緒に夏と菅原を離そうとした。
夏は、しばらくごねていたが、影山がトスを上げてくれると言ったため、名残惜しそうにしながらも菅原の元を離れた。

「あっ! ボール取って来ないと! ちょっと行ってくるな! 」
「待って! 夏も行く!!! 」
「あ、おいっ!」

バレーをしようとしたが、ここは体育館の外である。
ボールは体育館の中にあるため、日向が取りに行こうとしたが、夏も一緒に行きたいと言いだし結局は二人でボールを取りに行ってしまった。


「……影山くーん。 ちょっとお話ししよっか? 」
「……はい…… 」

二人を見送るとすぐに影山の肩にポンと手が乗せられ、菅原が笑顔で話しかけてきた。

「別にさ、偏見とかないんだけどね。あんな小さい子にそういう事言うのは良くないよ? あの子にはまだ早いでしょ! 」
「え、いや、その……俺らが言ったんじゃないんです 」
「そうだとしても! 否定するとかあったんじゃないの? どうするの、夏ちゃんが同性の恋人を作るのが普通だと思ったら! 」
「いや……でも…… 」
「もうっ。 否定したくない気持ちはわかるけどさ、日向の妹を汚しちゃダメでしょ! あと、この前日向がダルそうに腰を抑えてたのって……影山が原因? 」
「っ!? ななななんで!? 」

菅原は的確に影山にダメージを与える質問をしてきていた。
影山は焦り、慌てふためいていた。
そんな彼を見て、菅原はプッと吹きだし笑い出した。

「あはははっ。ごめっ、お前がここまで慌てると思ってなかったから 」
「……え? 」
「くふふっ、実はそうじゃないかなって前から思ってたんだよね。そっか、否定したくないほど日向の事好きか 」
「なななななっ!? 」
「ごちそうさま。 ごめんな、変な質問して。 あ、でも練習に響くことはするなよ? 日向がかわいそうだし 」

菅原は、影山をからかいたかっただけであり、日向との交際について反対することはしなかった。
そんな彼を茫然と見つめていると、日向兄妹がボールを持って帰ってきた。

「すみません! 遅くなりました 」
「飛雄ー! トス上げて! 」
「おかえり。あ、そうだ! 夏ちゃん。 あんまりお兄ちゃんの恋人の事言っちゃダメだよ? 」

元気に挨拶をして帰ってきた兄妹を微笑ましく見ながら菅原は夏に先ほどの事を注意した。
夏は何故ダメなのか分かっていなく、首を傾げながら理由を問うた。

「何で?? 」
「それはね、お兄ちゃん達は秘密の恋人同士なんだよ。だから俺と夏ちゃんしか知らないんだ。ね?二人だけの秘密にしようよ 」
「えっ、そうなの? 分かった。 二人だけの秘密だね!! 」

夏は菅原との秘密を共有出来た事に喜び、元気よく影山達の元へ駆けて行った。


「ふぅー。これでしばらくこのネタで二人を大人しくさせられるかなー? 」

副主将も大変だと菅原は独り呟き、愛しの主将の元へ歩いて行った。


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