大遅刻!今日はハロウィン!楽しい日
本日は10月31日。
花礫は前日からの與儀のソワソワ感で何かがあるという事は知っていた。
なので、本日は大人しく部屋で本を読もうと思い、昨夜こっそり平門の部屋から目ぼしい本を数冊持ってきていた。
朝食を誰よりも早く済ませ、寝ぼけている无を起こし、部屋から追い出すと、ゆっくりと読書タイムへ突入した。
(ぜってー與儀には付き合ってやんねーし)
そう心に決めて、読書をしていたのだが、與儀以外に注意しなければいけない人物を花礫は忘れていた。
「花礫ー!!! Trick or Treat!!」
「はっ? あんたなんで…?」
午前中は優雅に過ごせた花礫だが、平穏は突如現れた嵐によって崩された。
「花礫〜元気か? ん? 寂しかった?? 俺、仕事頑張って終わらせてきたんだぜ!」
「……朔」
花礫の部屋に突入してきたのは壱號艇長である朔だった。
「おいおい、恋人がわざわざ仕事全力で終わらせて会いに来たんだぜ? もうちょっと喜べよ」
「(うぜぇ ) なんで喜ばなきゃなんねーんだよ。 俺は静かに読書してたんだ」
「つれないね〜。 で? お菓子はくれるのかな? ん?」
「は? 持ってるわけねーだろ。 與儀のとこ行けよ、絶対なんか用意してるから」
花礫は面倒臭そうに朔を部屋から追い出そうとしたが、花礫がお菓子を持っていないと聞くと朔の目はキラリと光った。
そして、朔は妖しく笑うと目にもとまらぬ速さで花礫を捕らえた。
「−っ!?」
「花礫ーお前、Trick or Treat の意味知ってるか? 『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ』 だぜ?」
「は、離せっ! そのくらい知ってるし、でもお前に付き合ってる暇はねーんだって!!」
「ふ〜ん………でも、お菓子を持ってない子は悪戯されちゃうんだぞ? はいっ、花礫ちゃん、あーん 」
「は? うぐっ……!? 」
花礫は朔に抱きつかれ、抵抗しようとしたが、少しの隙を突かれ、妖しい液体を飲まされた。
「朔てめー何すんだよ! 何、飲ませた!?」
「ふふふっ、さすが燭ちゃんだな。 なんという即効性」
「……は? って何だよこれ!? 」
「んー? 今日1日を俺の悪戯で過ごしてね? 花礫ちゃん!」
急に何かわからない液体を飲まされ、激怒した花礫は朔の胸倉を掴んで抗議したが、どうも自分の身体がおかしいことに気が付く。
朔の胸倉がいつもより高い位置にあり、腕に力がはいらない。そして何よりも、自身の声がいつもと違うという違和感を覚え、ニヤつく朔を一旦放って置いて、自身の身体に視線を向けると……………
「なんで…胸があるんだっ?! てか、声高っ 」
「おー花礫は巨乳か……なかなか良いな」
「なっ……し、死ね―――――!!」
花礫の姿をまじまじと観察していた朔は、おもむろに胸を鷲掴みにした。
花礫は顔を真っ赤にさせながら朔の顔面を殴ると罵声を言い放ち、部屋から飛び出していった。
「男の時もだけど、女になったらますます苛めたくなるな…」
朔はそうぼそりと呟き、花礫の後を追った。
部屋を飛び出した花礫は、走る度に揺れて痛む胸に嫌悪していた。
元々着ていた服はぶかぶかになっており、走りにくい。
そこで、ツクモの服を勝手に拝借しようと、彼女の部屋へ向かった。
ガチャッとツクモの部屋のドアを開けると………
「花礫くん、待ってたわ」
「っ!?」
笑顔のツクモに出迎えられた。
彼女は本日、街へ買い物に行っていたはずだったのに何故?と花礫は言葉もなく驚いた。
「朔さんに聞いて早めに戻ってきたの。ちゃんと花礫くんに似合う服を買ってきたわ」
「え………俺の服?」
ツクモはそう言うと入口で立ち止まっていた花礫を中に引き入れ、様々な服を買い物袋から取り出した。
そして、花礫の胸を見て、一瞬眉間に皺を寄せると徐ろに彼の胸を鷲掴んだ。
「ぎゃっ!?」
「1つしか歳変わらないのにこの違い……………」
「ツ、ツクモ?」
「大丈夫。ブラのサイズは一通り買ってきてるから。さ、これをつけて」
ツクモは花礫にピンクの可愛らしいブラジャーを差し出した。
花礫は頬を赤く染めながらブラジャーから距離を取った。
「ばっ、俺がそんなのつけれるわけないだろ!!」
「何言ってるの? 花礫くんは今、女性なのよ? ブラをしていないと歩く時に揺れて痛いでしょ?」
「……(確かに)」
「さ、早く着替えて?」
「…………ああ」
花礫は先ほどの胸の痛みを思い出し、女って大変なんだなと思いながらツクモに渡されたブラジャーと洋服を着はじめた。
数分後
「可愛いわ。花礫くん」
「……(死にたい)」
花礫は可愛いブラをつけ、胸元を強調したフリルの付いた水色のワンピースを着せられていた。
ツクモは花礫を写真におさめ、次の服を提示しようとした。
「花礫くん、次はこれ着ましょう?」
「は? なんで着替えるんだよ? 俺はもう着替えないからな!!」
しかし、花礫はツクモに着せ替え人形にされることに気付き、彼女の隙を見て部屋から飛び出した。
だが、残念なことに部屋の外では朔が待ち受けていた。
花礫は彼の胸に飛び込む形でぶつかってしまった。
「おっと! 気をつけろよ? お嬢さん」
「ツ、朔?! ちょっ、離せっ!」
「嫌だねー。こんなに可愛い子が自分から抱きついてくれたんだ。離すもんか」
「だ、抱きついてねーよ」
花礫は顔を赤くして朔の腕の中で暴れた。
しかし、普段から彼に勝てない花礫なので、女の子の力ではただただ可愛らしい抵抗しか出来なかった。
(うわー、これ抵抗してるつもりかよ。身体捻って自分の胸を俺に押し付けてるだけじゃないか! 可愛い )
朔はニヤけそうになる顔を必死で押さえて花礫を強く抱きしめると耳元で囁いた。
「花礫………悪戯はまだ終わってないぞ?」
「―っ!?」
彼の低くした声に弱い花礫は途端にへにゃりと身体の力が抜けて朔にもたれ掛かった。
「おっと! 大丈夫か? お前俺の声好きだもんな 」
「……す、好きじゃねー」
「嘘はいけないぞ? さて、そろそろ悪戯をさせてもらうかな」
「―っ……」
花礫は意地の悪い顔をして放たれた朔の言葉に身構えた。
「ははっ。 そんなに身構えなくても大丈夫だぞ? お前への悪戯は今日ずっと一緒に居る事だしな!」
「……一緒に居る事?」
朔のいう悪戯が思ったよりも緩かったので、花礫は安堵のため息を吐いた。
そして、彼と一緒に居れる事を内心嬉しく思っていた。
(今日は朔と一緒に居れる……やった)
小さく微笑んだ花礫を見て朔は素直になれない恋人を微笑ましく思っていた。
そして、抱きしめていた花礫を抱き上げると何処かへ歩き出した。
「うわっ!? ちょっ、降ろせっ! どこ行くんだよ! 」
「いーじゃないか。 ……お前、普段も軽いけど女になってさらに軽くなったな」
「う、うるさいっ!!」
「ほれほれ、暴れるなよ………落とすぞ? 」
「っ……」
落とすと言われると反射的に大人しくなった花礫に気を良くして朔は目的の場所へ急いだ。
そして彼が向かった先は………
「え…平門の部屋?」
「さて、平門ー入るぞー 」
「え、ちょっ!? お、降ろせよ!」
朔は花礫を抱き上げたまま平門の部屋へ入って行った。
「「Trick or Treat!!」」
部屋の扉を開けると、ミイラ男の恰好をした與儀と狼男の恰好をした无が数時間前に朔が言い放った言葉を発した。
「おー、二人とも似合ってるな。 ほれ、俺らからの菓子だ」
「わあ、ありがとう!」
「ありがとうございます。朔さん……と花礫くんだよね? 」
「あ? そうだけど?」
朔は與儀たちに菓子を渡すとそのまま部屋の中に入ろうとしたが、與儀が花礫に話しかけたので、歩みを止めた。
花礫は與儀に話しかけられて、不思議そうに返事をした。
「かっ―――――――わいい!!!!」
「へっ? 」
「花礫くん、女の子になってるんだね! めちゃくちゃ可愛いよ!!! 」
「なっ…」
「そうだろう? 可愛いだろう。 でも、やんねーからな。 花礫は俺のだ」
自慢の恋人を褒められて朔は嬉しそうにするが、自分のモノだと主張することは忘れない。
花礫は二人の会話を顔を真っ赤にしながら聞いていた。
しかし、ある疑問が思い浮かんだので、朔から降りながら彼に確認することにした。
「なあ、俺っていつになったら元に戻るんだ? てか、戻れんの?」
「ああ、それは「大丈夫だ。 明日には戻る」 」
朔が答えようとした時、落ち着いた女性の声が薬の期限を伝えた。
花礫は貳號艇にこんなに落ち着いた声の女性がいたかと疑問に思いながら声のした方を見て、固まった。
「………え?」
「おー、燭ちゃん。 いつにもまして美人さんになってるじゃないか!」
「黙れ。 花礫、俺が作った薬だ。副作用などはないから安心しろ」
そこに居たのは、女性の姿になった燭だった。
髪は肩につくくらいまで伸び、ぶかぶかの白衣を纏いどこか儚げな印象を受けるが、どこか気の強そうな雰囲気も漂わせていた。
「燭さんには困ったものですよ。 せっかくハロウィンパーティのお誘いに行ったのに変な薬を飲まそうとするし…」
「くそっ……お前が大人しく飲んでいたら俺はこんな目に遭わなかったのに…」
「自業自得ですよ」
平門は困りましたねと呟きながら、燭が女性になった理由を話した。
普段から燭に絡んでくる平門を懲らしめようと燭は無駄に知識をフル活用して性別が逆転する薬を作り上げた。
ラットでの実験、人体実験(研案塔職員)を成功させ安全性は確保して、いざ平門へ飲ますとなった所で、返り討ちにあったのだ。
女性となり、呆けていた燭を平門は貳號艇へ連れ去って来たのである。
ちなみに、ブラなどはイヴァが世話をしてピッタリのサイズを付けている。白衣の下には彼女がコーディネートした服が隠れている。
花礫は同じく女性になった燭を見て、正直に綺麗だと思った。そして、胸の大きさ以外あまり変化がなかった自身を朔はどう思ったのだろうと考えた。
「なあ、俺も髪伸びてる方が良かったか?」
「ん? 何言ってんだ? 」
「だって…燭の事美人って言ってたし…俺には可愛いしか言ってない…」
「(可愛いなーもう) そうだな。 でも花礫は今の髪型が良いし、女になっても可愛いし、綺麗だよ。 俺の好みだ」
「……そっか。 なら良い 」
花礫は朔が綺麗だと言い、好みだと言うと嬉しくなって、普段はめったにしない自分からのキスを彼に贈った。
チュッ
「へ?」
「お、俺だってしたい時もあるんだからな!! その…い、悪戯だ!悪戯!! 」
「花礫……可愛すぎるだろお前。 ちょっ、今夜我慢できるかな…」
「が、我慢なんかすんじゃねーよ。 だ、大丈夫だから///」
「花礫………愛してる」
「んっ、俺も…」
そう言いキスをし合う二人を平門は无の目を覆いながら見ていた。
「あーあ。ここが何処だか忘れてますね。あの二人 」
「まったくだ。 迷惑なやつらだな。 おい與儀! アイツらここから追い出してこい 」
「ええ!? 燭せんせっ、あんなにラブラブしてる二人の所へ行けって言うんですか!? そんな、酷過ぎる…」
「行ってくれたら後でご褒美をやろうか? この身体で 」
「えっ……」
普段は怖いだけの燭が色気たっぷりで話しかけて来たため、頬を赤く染めて燭の身体を見ていた與儀だが、急に鋭い視線に射抜かれ、悪寒がした。振り向くとそこには、目が全く笑っていない平門が立っていた。
「燭さん。 おイタが過ぎますよ。 お仕置きされたいんですか? その身体で 」
「っ!? な、无、向こうへ行くぞ!! 」
「えっ? うん?」
その場に居合わせた者達は、それぞれ花礫と朔について述べるが、決して彼らを邪魔しない。いや、出来ないでいた。
そして、與儀をからかおうとした燭は、平門に腰を抱かれながらお仕置き宣言されてしまい、慌てて无を連れて食事が用意されているテーブルへ向かった。
「ん……朔。 これ以上はここじゃ嫌だぞ…」
「ああ。分かってるって。 って、お前立てなくなってるじゃん。 ほらっ、ソファー行くぞ」
花礫は朔とのキスで腰が抜けてしまい彼に必死にしがみついていた。それをみた朔は花礫を再び抱き上げ、中央にあるソファーへと歩いて行った。
「どいつもこいつもリア充しやがって……僕たちもしようか! ツクモちゃん!」
「喰君…………死ねばいいのに」
「え? なんて言ったの? ねえ、聞こえなかった! もう一回!!」
「いえ、なんでもないわ。 もうすぐキイチちゃんが来るから迎えに行ってくる 」
「あっ! ツクモちゃーん!!!!!!!」
数秒後、喰はイヴァから強烈な蹴りをくらった。
楽しい楽しいハロウィンパーティは始まったばかりである
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