雨の日の出来事
「わぁ!雨だね!花礫くん!」
「ああ、そうだな……何で嬉しそうなんだよ?」
「ふふっ。だって、最近ずっと暑かったでしょ?これでやっと秋らしくなるよねー」
久しぶりに二人で街へ降りていた所へ、急な雨。
花礫は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうにしているが、與儀は何故だか目を輝かせて雨宿り中の軒下から雨を見ている。
「そんな事より、さっさと傘買って帰ろうぜ。酷くなりそうだし」
「もうっ!花礫くん、もうちょっと秋の到来を喜ぼうよ!」
「……っは。別にどうでも良いだろ。あのちょっと行った所、傘売ってたよな?」
花礫は與儀の話を鼻で笑いながら、傘を売っていた店の記憶を辿った。
そして、徐に雨の中に飛び出した。
「えっ?花礫くん!ぬ、濡れちゃうよ!!」
與儀の制止の声を無視し、走り出す花礫を見て、與儀もすぐさま彼の後を追った。
ほんの少しの距離だったが、雨の量が多かったため、二人とも店に着く頃にはびしょ濡れになっていた。
「………なあ、これじゃあ、傘買っても意味なくね?」
「確かに…。濡れちゃってるもんね…」
店先に立つ濡れた二人を見て、店主は声を掛けてきた。
「あの…よかったらタオル使いますか?」
「えっ?良いんですか?」
「ええ。着替えも要らなくなった服があるのでそれでよければ差し上げますよ」
店主からのありがたすぎる言葉に與儀と花礫は目を丸くして驚いた。
店主は優しく微笑みながら二人を店内へ導いた。
「どうぞ。入ってください」
店に入ると、店主の奥さんだろう人がタオルを持って待っていた。
「いらっしゃい。ささ、どうぞ。あの人ったら、貴方たちがあそこの軒下に居る時から気にしてたのよ」
「えっ?!そうだったんですか?」
「えぇ。あの兄弟が風邪でもひいたら可哀想だなって」
「「兄弟!?」」
「おや?違いましたか?」
それは失礼しました。
そう言い、店主は花礫達に服を渡した。
「仲が良さそうだからてっきり兄弟だと思ってたよ。じゃあ、恋人かな?」
「はあ?」
「えっ!?あの……えっと…」
店主の発言に花礫は驚き、與儀はどうすればよいか慌てながら弁解しようとしていた。
しかし、店主はそんな二人を見て、豪快に笑った。
「ハッハッハッ、そんなに慌てなくても良いぞ?俺の弟も同性の恋人が居たんだ。偏見はないさ」
「そうなんですか?」
「ああ。今はもう亡くなったんだがな。彼らは」
店主は思い出してか、一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、二人に椅子を薦めた。
「まあ、気にしないでくれ。君達を見て、少し思い出しただけだから。彼らのおかげでそういうカップルも分かるようになったんだよ」
「……俺たちそんなに判りやすい?」
同性でもカップルかどうか判ると店主が発言したことを受けて、今まで黙っていた花礫が質問をした。
その質問を受けて店主は優しく笑うと、花礫の頭を撫でながら答えた。
「ふふっ。君の彼を見る目は、熱くて優しいからね。俺達が話しかけた時は少し警戒してる目をしてるからね。こんなに安心してる目をするのは家族か恋人だけだろうと思ってね」
「……っ」
「すごい!!目だけでそんなことも判るんですね!!」
「ああ。あともう1つ。君はこの子をもっと信頼してあげなさい」
店主は花礫の方へ視線を向けながら與儀に話しかけた。
「信頼?え……してますよ!!」
「いや、してないね。この子が大丈夫って言っても君は心配するだろう?そうじゃないんだ。この子なりの考え方があるんだよ。たまにはこの子に頼ってみたらどうかな?」
店主の話は的を得ていた。
花礫は與儀にもっと頼って欲しいと思っていたので、店主の話に大きくうなずいていた。
與儀は、自分が花礫を信頼していないと言われた事がショックだったので、固まってしばらく動けなかった。
「ああ、あんまり気にしないでくれよ?俺から見たら二人はとても仲良く見えるし、お似合いだと思うよ」
「アンタ……無理して褒めなくても良いぜ?」
店主が固まる與儀に慌てて話しかけているのを見て花礫は呆れながら話しかけた。
「お前が俺を信頼してないとは思ってねーよ。でも、俺だってお前を助けること出来るからな。心配ばっかりすんじゃねーよ」
「花礫くん……」
「あら、男前ね。ささっ。雨も止んだみたいよ?温かいスープを飲んでからおかえりなさい」
店主の奥さんは優しく微笑み、スープを彼らに渡した。
與儀と花礫は、ありがたくスープをいただき、お礼を言ってから店を出ようとした。
その時に花礫はふと、呼ばれたような気がして店内を振り返った。
振り返った先にはシンプルな指輪がネックレスに通されていた。
「なあ、これいくら?」
「おっ!少年、お目が高いね。これは二つ揃ってはじめて完成する装飾品なんだ。そうかそうか……。これ、あげるよ。是非君達に持っていて欲しいな」
「えっ、いや、金払うよ」
店主が笑顔で商品を差し出してきたので、花礫は萎縮し、適当な額を店主に渡した。
「そうかい……。わかった。ありがとうね。大切にしてください」
そう言い店主は花礫からお金を受け取り、商品を包んで花礫へ渡した。
「「ありがとうございました」」
「こちらこそ!タオルに服にスープまで、ごちそうさまです。ありがとうございましたー!!」
「……ありがとな」
與儀と花礫は店主達に別れを告げて、貳號艇へ帰っていった。
――與儀……
――何?
――やる
――えっ?これ、花礫くんが買ったんじゃ…
――二つ揃って完成なんだろ?なら、お前と持ってたら、いつでも完成させられる……
――花礫くん
ギュー
――っ!?苦しいっつの!!
――ふふっ。でも嬉しそう
――まあな。
與儀に抱きつられながら花礫は彼とずっと一緒に居たいと密かに願った。
━━仲の良い二人だったな
━━ええ。まさかあの指輪まで見つけれるなんて思いませんでしたね
永遠を共にする者にしか見えない指輪。
これを見ることが出来る者は100年に一組あるかないかである。
━━私達の仕事もしばらくお休みね
━━ああ。また100年後だな
━━おやすみなさい
━━おやすみ
店主達が居た店は跡形もなく消えていった。残されたのは古いお墓だけであった。
男性二人の名前が記された墓。
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拍手文にしようと思ったのですが、長くなったのでこちらへ(笑)
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