花礫くんと无ちゃんと與儀

「酷いよ、花礫くん!!俺、すっごく心配したんだからね!!」

3歳児になって3日目の朝。
燭の部屋で幸せな朝を迎えていた所に、燭への恐怖など忘れたかのように勢いよく、與儀が入って来た。

「與儀。静かにしろ。迷惑だ」

花礫と優雅に朝食をとっていた所を邪魔されたため、不機嫌になりながら言う燭。
花礫は、與儀を無視して燭が作った朝食に夢中である。

「あ、燭先生……あの、その……ごめんなさい!でも、花礫くんが心配で…」
「そうか。見ての通り、花礫は元気だ。分かったならさっさと帰れ。ついでにそこでカメラを構えてる変態も連れて帰れ」

燭が指差す先には、燭の手料理を美味しそうに食べる花礫とそれを見守る燭を撮影する平門が居た。

「燭さんの手料理だけでも貴重なのに、何この親子な感じ!最高だな」

もちろん、父親は俺だよな。

ぶつぶつ呟きながらカメラを構える姿はどこから見ても変態だった。

「(平門さん…)あの、花礫くんって、確か今日で効果が切れて元に戻るんですよね?」

自身の上司が変態になっていた現実から目を背けたくて、花礫についての確認をする。

「ああ。あくまでも予定だがな」
「じゃあ、後は戻るのを待つだけだから、貳號艇に戻っても大丈夫ですよね?」
「それは本人しだいだな。花礫、どうする?嫌ならここに居ても良いぞ」

艇に連れ戻したい與儀は、燭を見方につけようと、花礫の安全性を確認するが、燭は花礫に対して甘くなっていた。

「……燭、仕事だろ?俺が居るともれなく平門も付いてきそうだからな。……艇に戻るわ。さんきゅ」

暫し考えてから下された決断は燭を思ってのものだったため、燭は優しく花礫に笑いかけ頭を撫でた。

「そうか。ありがとう。平門を持って帰ってくれるのはとても嬉しいよ。無理してないならお願いする」
「おう////」

燭に頼られた事が嬉しく、照れながら返事をした花礫は與儀に平門を連れて行くことを命令した。

「おい!與儀!さっさと平門を連れてけ!」
「花礫くん・・・・なんか俺、扱いが・・・・」
「早くしろ!燭の邪魔になるだろ!!」

悲しみながらも、平門を連れて行こうとするが、平門に抵抗され、苦戦する。

「ちょっ、平門さん!暴れないで!ほら、花礫くんが待ってるよ!」
「離せっ、俺は燭さんと二人の時間を過ごすんだ!」

呆れた燭が平門に麻酔を打ち、眠った所を連れ帰ることになった。



艇に帰ると、无が出迎えてくれ、花礫は抱き上げられ部屋まで連れ去られた。
與儀は、平門を部屋まで運び、ツクモに愚痴をこぼす。

「ツクモちゃん、酷いと思わない?あんなに心配したのに、自分はさっさと无ちゃんの所に行ってさ、俺は変態化した平門さんの世話をしなきゃいけなかったんだよ?」
「與儀……。お疲れ様。でも、无ちゃんはもっと花礫くんの事を心配してたわ」

仕方ないの。

そう言い、ツクモは无が花礫と遊ぶことをいかに楽しみにしていたかを語る。
與儀は、面白くなさそうにそれを聞いている。

(俺だって…。でも、早く元に戻らないかなー?いつもの蹴りとか入れてくる花礫くんの方が俺は好きだな〜)

言葉に出すと問題になることを思いながら與儀は花礫たちの部屋へと向かった。


一方、无に連れ去られた花礫は……

「おい!无!降ろせ!あ、危ないだろ!」
「大丈夫だよ?花礫軽いもん!」

俺、花礫より今はお兄さんだもん!
だっこだって出来るもん!!

花礫を抱き上げ嬉しそうに話す无を見て、花礫は怒る気になれず、好きなようにさせることにした。

部屋へ着くと、積み木やボール、人形などのたくさんのおもちゃが広げられていた。

「无、これって……」
「花礫と遊ぼうと思って、羊さんに頼んで作って貰ったんだよ!このお人形さんは、ツクモちゃんが作ったんだよ!」

精神年齢15歳の花礫にとって、積み木遊びなどは楽しいと思わないのだが、无が羊に頼んでまで用意したとあれば、拒否出来ない。
花礫は、引きつった笑みを浮かべお礼を言う。

「あ、ありがとな……」
「さっそく遊ぼー!」
「……ああ」

二人は、床に散らばった積み木を集め、積んでいく。

今までこの様な遊びをしたことがなかった花礫は、意外に楽しいことに気づき、熱中していた。

无は、途中から自分で積むのを止め、花礫の顔をじっと見つめていた。

難易度の高い積み方を成功させ、ふと无が動いてないのに気づき顔を上げる花礫。

「……何だよ…」
「ん?別に。花礫、全部ちっちゃいね」

无に見つめられ、怪訝な顔をする花礫だが、无はお構いなしに、花礫の顔に手を這わす。

「にゅっ!止めろ。気持ち悪い。與儀みたいなことすんな!」
「何で?俺、こんなに小さい人、初めて触るんだ!もっと触りたい!花礫、頬っぺた柔らかい……」

それに、與儀はいつも花礫のこと触ってるのに俺はダメなの?
あ!!與儀みたいに、夜じゃないとダメなの?

「なっ///何言って…」

无に何故か與儀との事を言われ、焦る花礫。
與儀とは半月前に恋人同士になったばかりであり、花礫はまだ、素直に與儀に甘えることが出来なかった。そういう行為もするようになっていたが、人前では触らない・恋人だと言わないと言う約束をしていたため、无が知っていることに驚く。

「……何で?俺と與儀はそんな……別に……」
「だって、花礫夜居ないとこあるでしょ?俺、花礫が居ないと寂しくて起きちゃうことがあるんだ。そしたら與儀の部屋の方からいつも花礫の声が聞こえるから……。『もっと』とか『早く触れ』とか…」
「っ////////」

无の耳が自身の恥ずかしい声を拾っていたと知り、何も言えなくなった花礫。
そんな、花礫を不思議に思いながらも、赤い顔の彼にドキリと胸を高鳴らす无。

「花礫、真っ赤!……可愛い」

ちゅっ

「………へっ?」

赤くて小さな唇に自身の唇をくっ付け感触を楽しむ无に何が起きたか分からず、固まる花礫。

「ん……花礫、口もちっちゃいね。柔らかくて美味しい。いつもの大きさでもそうなの?」

尋ねながらも、口付けを止めない无。
初めは恥ずかしがっていたが、何度もされるうちに仔犬に舐められているようなものだと気しせず、无の好きにさせている。

(つーか、コイツ元は動物だし、別に下心あるやつじゃないしな)

しかし、軽くくっつけるだけだったのが、深くなりだし、花礫は焦り始めた。

「んっ…な、无!もう良いだろ?やめろ…」
「ぅん……何で?與儀とはいつもこんな感じだよね?花礫気持ち良さそうだもん」
「え?おま、見て…!?」

どうやら與儀との深いキスを見られていたようで、それを真似して花礫に喜んで貰おうとしているようだ。

无の純粋な瞳が気持ち良いことしたのに何で嫌がるの?と語っており、強く拒むことが出来なかった花礫は、次で終わりだからとあと一回キスする事を許した。

花礫が下を向いた瞬間、无はニヤリと笑っていた…。

「花礫!大好き!!今日は俺が気持ち良くしてあげるからね」

チュッ

「ぁ…ん……ぅん!?ふぁ…」

无は、深く深く花礫にキスをし、花礫の力が抜けてきた頃を見計らい、ベッドへ運んだ。

「え?……无??」
「花礫……可愛い…俺、何か変な気分……花礫にいっぱい触りたい!」

そう言い、花礫の服の中に手を入れる。


ほんのり暖かい小さな手が花礫の小さな体を這う。花礫は、无が自分でも分からない感情に戸惑っていると感じ、どの様に制止させれば良いのか分からず、されるがままになっていた。

「花礫、お腹もツルツルしてて気持ち良いね」
「!?无…擽ったい…やめっ……」


二人の間に甘い雰囲気が流れ出した時、ドアを物凄い勢いで開け放ち、與儀が叫びながら入って来た。


「ダメーーー!!!いくら无ちゃんでも花礫くんを襲っちゃダメだからね!!」

さあ、早く離れて!!

そう言うと、花礫を无の下から引きずり出し、抱き上げた。

「花礫くん、遅くなってごめんね。大丈夫だった?」
「あ……ああ。大丈夫だ。ただちょっと仔犬に舐められたようなもんだろ」
「舐めっ?!花礫くん、无ちゃんとキスしたの?」
「あ……」


自身が墓穴を掘ったと知り、顔をしかめる花礫。
與儀は花礫に視線を向けて、真剣な顔で問いかけた。

「花礫くん。无ちゃんとどんなことしてたの?」
「……」

與儀の迫力に気押され、黙り混む花礫を見て、放置されていた无が話し出した。

「花礫はね、俺と積み木で遊んでたんだ!さっきのは花礫が美味しそうだったから……あと、與儀の真似したら喜ぶと思って……。與儀、ごめんね?」

潤んだ瞳で謝罪する无を見て慌てて、フォローする與儀。

「あ、いや、无ちゃんのこと怒ってるんじゃないよ!!大丈夫!ちょっと俺が焼きもち妬いちゃっただけだから!」

怒ってないよ?ごめんね。

无の対応から、下心が無いことを判断し、與儀はさっきのことは見なかった事にしようと決めた。


與儀に抱き上げられたまま黙っていた花礫だが、急に眠気が襲ってきたため、部屋へ帰りたいと申し出た。

「じゃあ、无ちゃん。花礫くん、眠いみたいだから寝かせてあげようね。二段ベッドは大変だろうから俺の部屋に連れてくね」

また後でね!!

そう言い與儀は花礫を連れて出ていった。





「━━チッ。もうちょっとだったのに……。まぁ、可愛い顔が見れたからよしとするかな」

一人部屋に残された无は、さっきまでの純粋さは欠片もない姿をさらしていた。

(花礫、押しに弱かった…。元に戻ったら押しまくろう)

无のアプローチは始まったばかりである。



***

與儀の部屋に連れてこられた花礫は、眠気のためか、大人しくされるがままになっていた。

「花礫くーん。もうちょっと待ってね、今ベッド綺麗にするから」
「……ん」

與儀は花礫を椅子に座らせ、ベッドメイクをし始める。
花礫はコクリコクリと船を漕ぎながらも、與儀の姿を見つめていた。

「お待たせー!さぁ、花礫くん。寝よっか」
「……與儀、怒らないのか?さっきの…」

花礫は眠気と闘いながらも、先程の事を與儀に尋ねた。

「ん?うん!もう気にしてないよ!花礫くんは俺一筋でしょ?」
なんちゃって(笑)

與儀が軽く返すと、花礫は、素直に答えた。

「うん。與儀好きー。與儀とのキスの方が気もちいもん!」
「……花礫くん、眠い?寝ぼけてる?」
「眠いー。寝てはないぞ!」

キャハハと笑う花礫は、今の姿では年相応に見えた。

(あれ?花礫くんってこんな子だったっけ?なんか幼さが出てきてる…?)

花礫の変化に首を傾げながらも、ベッドへ運んでやる。
與儀がベッドから離れようとすると、花礫は與儀の服を掴んだ。

「?どうしたの?」
「………一緒に…寝るぞ」
「花礫くん……分かった。寝ようか」

お休み。

チュッとおデコにキスをして與儀はベッドの中へ入った。それを見届けて、花礫は満足そうに眠りに就いた。

「與儀、早く元に戻ってキスしたい」
「え////花礫く……て、寝てる…」

スースー

寝入る直前に落とされた爆弾を受けて顔を紅く染める與儀だった。




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