花礫くんと燭先生と時々平門

昨日、女性陣に着せ替え人形にされ、彼女たちが納得するまで寝かせてもらえなかった花礫は、朝起きるとすぐさま、小さな体を精一杯使い平門の元へと急いだ。

部屋の前まで来ると気配で分かったのか、ドアを開けて向かい入れてくれた。

「どうしたんだい?こんな朝から。まだ眠いんじゃないかい?」
「悪いな、朝から。あのさ、頼みがあるんだ」

花礫は、早く元に戻りたいので、燭の元へ連れていって欲しいと頼む。
しかし、平門はそれを人の悪い笑みで聞いていた。

「そうか……。分かった。では、可愛くおねだりしてみなさい」
「は?」

平門は、笑みを深めながら花礫に言い放つ。

「タダで連れて行く訳にはいかないね。それ相応の対価が必要だよ。ほら、これだけで許してあげるんだ。早く言いなさい」
「っな……」

ニヤニヤしながら平門は花礫を見下ろす。
ほら、言ってごらん。

「お、俺を…「ダメだ、一人称は名前にしなさい」うぐっ…」

「が、花礫を研案塔に…連れてって!!」
「んー。イマイチだな。ああ、俺のことをお兄ちゃんとでも言ってごらん」
あと、お願いしますは大事だよ。

平門からの注文に羞恥で顔を赤らめる花礫。

「花礫を…研案塔に連れてってくだしゃい!お願いします。お、お兄ちゃん///」


涙目で見上げる花礫は、羞恥のため震えながら言い放つ。

「ふふ。くだしゃいとは、可愛らしい。良いですよ。連れていってあげよう」
「はっ!あれだからな!わざとじゃないからな!ちょっと噛んだだけで…」
「分かってるよ。さあ、行こうか」

真っ赤な顔の花礫を抱き上げ、研案塔へ向かった。



研案塔に着いた花礫たちは、すぐさま燭の元へ行こうとしたが、ナースたちに見つかり現在花礫は、彼女たちに囲まれていた。


「可愛い〜!ねぇ、ぼくいくつ?」
「やだ、ほっぺぷにぷに〜」
「ねぇ、これ食べる?」
「………」



目線で平門に助けを求めるが無視され、されるがままになっている花礫は、なんとか自分は本当は15歳だと伝えようとした。
しかし、彼女たちは、信じてくれず、可愛いと言いながら構い続けた。
もう、我慢出来ないと感じていた時、救世主が現れた。


「何を騒いでいる。さっさと仕事に戻れ」
「「「あ、燭先生。すみません」」」


燭の一言で各自持ち場へ戻る彼女たちを見て、花礫は胸を撫で下ろした。

(た、助かった)

「花礫…大丈夫か?」

そう言い気にかけてくれることが嬉しく思い、花礫は燭の足へ抱きついた。

ギュッ

「おい!」
「あ、ありがとな……助かった」
「ふんっ。ナースが煩かったからな」

言葉ではそう言ってるが、優しい眼差しを向ける燭に、花礫は安心感を覚える。

「燭さん。すみません、お忙しいところ」

そんな二人を見て、面白くないと感じながら、燭に話しかける平門。

「いや、問題ない。だが、貴様はもう帰って良いぞ」
「酷いですね。俺は保護者として花礫に付いていないとと思ってるんですけど」
「保護者なんか要らねーよ!さっきだって助けてくんなかったし…」

ナースに囲まれたのが堪えたのか、平門を睨み付ける花礫だが、燭から離れるつもりはないようだ。

イラッ

「花礫、さっきの事は悪かった。だから今度は抱っこしてあげよう。さぁ、早く燭さんから離れるんだ」
「い、嫌だ!元に戻るまで離さねー」


離れなさい
嫌だ
離れろ
い・や・だ
俺だって我慢してるんだ
キモイ


そんな言い合いをする二人を黙って見守る燭は、花礫を元に戻す方法を考える。

(放っといてもあと1日で戻るのだがな…)


戻るまで離さないと宣言されては、戻す方法を見つけなければ仕事に支障が出ると感じ、燭は花礫を見つめた。


「!燭さん。なぜ花礫を見つめてるんですか!!俺を見てくださいよ」
「うるさい、黙れ平門。花礫、少し検査がしたい。部屋へ行くぞ」
「おう」

そう言い花礫を足にくっ付けたまま、自身の研究室へ向かう燭。
平門は、急いでそれを追いかける。

「待ってくださいよ、燭さん。俺も行きます」


燭の研究室で色々検査をしたが、元に戻すには、自然に効果が切れるのを待つしかなかった。

「すまないな、花礫。これは治せない」
「そうか…分かった。ありがとな」

検査が終わっても燭から離れようとしない花礫を不審に思い、燭は花礫を見やる。

「あ、あのさ、今日はここに泊めてくれないか?その…なんか、あんたと居ると落ち着くんだよな…」
「ああ、俺は別に構わないが……」
「ダメだ。花礫!燭さんに迷惑をかけてはいけないよ!さぁ、帰ろう」

燭からは許可を得たが、自称保護者の平門は、それを許さず艇へ帰ることを強く主張した。

「平門、うるさい。花礫は、うちで預かるからお前はさっさと仕事に戻れ」
「でも、燭さんは確か子供が苦手なはずですよね?仕事の邪魔になるんじゃ(花礫だけ燭さんと一緒に居るなんて許せない!!)」
「花礫は煩くないだろう。本当の3歳児ではないしな」
「燭さん…」

燭と平門が揉めていると平門に緊急の仕事が入った。

「ちっ。燭さん。すみません、呼び出しがあったので、一旦引きます。花礫、燭さんに迷惑をかけるなよ」

そう言い残し、平門は去っていった。


その後、燭は仕事に戻り、花礫は大人しくソファで燭から借りた本を読んでいた。

夕食を食べ、眠そうにする花礫を風呂に入れるため、燭は、仕事を切り上げ自宅へ花礫を連れ帰った。

「風呂くらい一人で入れるのに……。あんただって仕事があったんだろ?」

燭の行動に納得のいっていない花礫はぶつぶつと呟く。

「気にするな。今日の仕事は終わっていた。たまには早く帰るのも良いしな。お前は何も心配することはない」

さあ、風呂に行くぞ。
そう言い、花礫を抱き上げ風呂へ向かう。

意外に優しい手つきで体を洗われ、快適な入浴を済ませ、花礫は満足感でいっぱいだった。

ナースたちに無理やり持たされた服をパジャマにし、燭のベッドまで連れてこられた花礫は既に半分夢の中だった。

「ふっ。花礫、もう寝て良いぞ」
「ん……。さんきゅ。おやすみ…」
「ああ、おやすみ」

燭に引っ付きながら眠りに就く花礫を優しく撫でながら、読書を始める。

一時間程したころ、燭の寝室に二人以外の気配があった。

「燭さん。戻りましたよ。今日はお早い就寝ですね」
「ーー平門か。何しにきた。花礫ならもう寝ているぞ」

そう言われ、燭のすぐ側に視線を落とすと、安心しきった顔で眠る花礫が居た。

(あんなに燭さんに引っ付いて…)

「可愛いものだろう?子供は嫌いだったんだかな。こんな子なら良いと思えてしまった」
お前は思わないか?

燭に問われ、確かに燭が絡んでいなければ、自分もこの花礫を可愛がっていただろうと思った。

「確かに、可愛いですが……、貴方との時間がなくなるので嫉妬しますね」
「ふっ。俺はお前がコイツを連れて来た時、お前に子供が出来たらこんな感じなんだなと思ったがな」
「え、燭さん?」

燭の予想外な言葉に思考が停止する平門だが、なんとか持ち直し、考えを巡らす。

(つまり、燭さんは花礫に俺との子供の影を重ねていたのか……。それでこんなに面倒を見ていたんだな)

そう思うと、寄り添う花礫が愛しく思えてきた。

「では、燭さん。今日は家族の気分を味わいながら寝ましょうか」

言うが早いか、すぐさまベッドに潜り込み、花礫を挟んで横になった。

「おいっ!誰が家族だ。勝手に入るな」
「静かにしないと花礫が起きますよ」

チュッ

騒ぎ出した燭を黙らせるため、キスをする。

「ん/////」
「おやすみ、お母さん」

それだけ言うとすぐに眠る体制に入った平門を燭は、赤くなった顔で睨み付けた。

「子供の前でこんなことする夫婦はいないだろ」


おやすみ、お父さん



花礫を抱き締めながら眠り始める燭を抱き寄せて、平門も眠りに就いた。



次の日、安心感と息苦しさを感じ、目覚めると、目の前には燭、後ろには平門という、恐ろしい状況を見て固まる花礫が居た。

(え?なんで?つか、俺もしかして邪魔者??)

しかし、彼らの温もりに安心し、再び眠りに就いた。



(なんか、家族みたいだな……)














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