ギュッてしろ

「花礫くーん!!」

ギュッ

「うわっ、っおい。抱きつくな」
「えへへ。花礫くん良い匂いするねー」
「ちょっ、離れろよ」

與儀が花礫に抱きつき、花礫が嫌がるというのは貳號艇内では日常の風景になりつつある。
はじめの方は、花礫の怒り方が凄く、艇を揺らさんばかりに暴れていたため、ツクモや羊が止めに入っていたが、花礫が照れ隠しから暴れていることに気付き、今では微笑ましく見守っている。
花礫自身も慣れてきたのか、そんなに暴れなくなり、文句は言うが、大人しく抱きつかれることが多くなった。

「ああ、幸せ」
「與儀、花礫に抱きつくの嬉しいの?」

與儀がもらした言葉を聞き、質問する无。
花礫は无がいることに気付き、照れて身じろぐと、與儀の代わりに答えた。

「コイツはヘタレだからな。一人で居ることに耐えられないんだろうよ」
「なっ、花礫くん酷い!俺、花礫くんだから抱きつくんだからね!!!」

花礫の勝手な推測を全力で否定する與儀は、後ろから抱きついていたのを花礫の向きを変え、目を合わせて花礫だけだと主張する。

「━━っ」
「花礫、顔赤い。熱?お、俺、平門呼んでくる!!」
「わぁ!待って无ちゃん!てか、花礫くん照れて…っ!?痛い痛い痛い!」
「……うぜぇ、黙ってろ」

與儀の言葉に照れた花礫は、頬を赤く染める。
それを无に指摘され平門を呼ばれそうになり、與儀が慌てて止めに入る。
そして、花礫が照れていることを指摘すると、花礫は與儀の耳を引っ張った。

无は、痛がる與儀のことは気にせずに花礫の変化を不思議に思っていた。しかし、ツクモがおやつを用意したと呼びに来ると、すぐさまどうでもよくなり、おやつを食べに向かった。


そんなことがあったのは、もう一週間も前の話である。
花礫は今、非常にイライラしている。しかも、イライラの原因が分からず、さらにイラつくという悪循環である。

ツクモは、そんな彼を見て驚いていた。

(花礫くん、與儀が居ないとこんなに機嫌が悪くなるのね……。與儀だけが依存してると思ってたけど違うのね)

そう、現在、與儀は任務のため、一週間前から艇に帰ってきていない。
はじめの方は静かで良いと思っていた花礫も、今では何かが足りないと思いイラついていたのだ。

(くそっ、なんなんだよ…。アイツが居ないと調子狂うな…)

花礫はいつの間にか與儀の事ばかり考えていた。

(いつもウザいくらいに寄ってくるし、年上な感じしないし、ヘタレだし、でも……なんか触れると暖かくて落ち着くんだよな……)

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、明るい声が聞こえてきた。

「みんなー!!たっだいまー!」
「「おかえりメェ」」
「おかえりなさい與儀」
「與儀!おかえり」

與儀が帰ってきたと分かると、花礫の足は自然と彼の元へ進んでいた。

「おう。……おかえり」
「花礫くん、ただいま!じゃっ、俺報告に行ってくるね!!」
「……え」

そう言うと與儀はすぐさま平門の元へ報告に行ってしまった。
いつもなら抱きついてくるのにそれがなく、拍子抜けした花礫。
そんな彼を見てツクモは密かに笑った。

(花礫くん。期待してたんだ………可愛い)


花礫は、與儀に蔑ろにされたことに怒りと悲しみを感じたが、何故そう思うのかは分からなかった。

(なんだよアイツ…普段はウザいくらいに抱きついて来るのにさ…)

モヤモヤしたまま、花礫は部屋に帰った。


報告を終えた後も、與儀は花礫へ構うことなく過ごしていた。
食事の時も楽しそうに話すのだが、花礫へ触れることはなかった。
花礫は、だんだん與儀の態度にムカつきを感じてきて、就寝時間になった頃、與儀の元へ向かった。

コンコン

「誰?」
「……」
「あ、花礫くん?入ってきて」

與儀に促され、花礫は部屋へ足を踏み入れた。
花礫はうつむいたまま何も話そうとしない。

「どうしたの?どっか具合悪いの?」

與儀は心配になり花礫を覗き込むが触れてこない。それをみて花礫は、小さく呟いた。

「…………って……しろよ」
「え?なに?ごめん、もう一回言って?」

ねぇ、花礫くん。もう一回!ね?

與儀に何度も言われ、頭にキた花礫は、ついに、大声で言い放った。

「だから、ギュッてしろっ!!いつもみたいに」
「へっ?」
「あーもっ、うぜぇ、さっさとしろよ!」

顔を赤くした花礫はグイッと與儀を引き寄せて抱きついた。
普段、自分から触れることしかなかったので、驚く與儀だが、せっかく花礫が積極的になってくれたので、ニコリと笑い、彼を抱き締めた。

(花礫くん、いつも俺ばっかりが好きだと思ってたけど、違うんだね)

ギュッと與儀から抱き締められて、花礫は自身が與儀に依存していたことを知る。

(くそっ。俺、コイツが居ないと……)

花礫は與儀の胸に顔を埋めながら抱きつく力を強めた。

「花礫くん……寂しかった?」

普段ならふざけるなと拳が飛んでくるところだが、聞かずにはいられなかった與儀は、殴られるの覚悟で尋ねた。
しかし、予想外な言葉が返ってきた。

「……った」
「え?」
「さ、寂しかったって言ってんだ!!」
「うぇ!?」

自分で言って照れたのか、花礫は與儀の腹をコンと小さく殴った。

與儀はそんな彼を愛しく思い、一度優しく抱き締めると、抱き上げベッドへ移動し始めた。

「っ!?」
「花礫くん、俺も寂しかったよ。今何してるかな?とかいっぱい考えた。ねぇ、今日はずっとこうしてよう?」


今日は一緒に寝てください。良いかな?

與儀の言葉を聞き、花礫は小さくだが、はっきりと肯定の意を述べた。



「……バカ、当たり前だ」




二人は仲良くくっつきながら眠りに就いた。


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