Rock Day

「みんな、今日は来てくれてありがとー!!」

バンド circusは、今日のライブも大成功。
ボーカルの與儀がファンへ笑顔でお礼を言い、幕を閉じた。

circusは、ボーカルの與儀、ギターの花礫、ドラムの朔、ベースの喰で構成されているロックバンドだ。
與儀が、高校時代に喰と彼の従兄であった朔の3人で始めたバンドだが、ギターをしながら歌うのに限界を感じ、幼馴染みである、花礫にギターを教え、花礫が中学生に成るとメンバーに引き入れるという形で出来上がった。

今では、インディーズでCD を出す程にまで成長している。

ライブを終え、控え室に戻れば、先程までの格好いい與儀は居らず、疲れた表情で花礫に抱き付いた。

「花礫くーん!」
「っおい!離れろ!!重い!」
「疲れたよー。癒して!」
「俺だって疲れてんだ!寄ってくんな!シャワー浴びてぇんだよ」

汗だくなのに抱き合う二人を眺めながら、喰はため息を吐いた。

「與儀君って、話さなかったらイケメンなのにね、何であんなに残念なんだろう?」
「ん?そうか?俺は、今のアイツの方が良いと思うぞ?母性本能擽られそうじゃん?」

そんなことより風呂行こうぜ!!

朔は、喰の肩を抱きシャワールームへ引っ張っていく。花礫達が、邪魔しに来ないように鍵を掛けるのも忘れずに。

「ちょっ、朔さん?僕、もう少しゆっくりしてからで良いのに…」
「良いだろ?明日もライブあるんだし、先に済ませてからゆっくりしようぜ!」
「でも……」
「ほら!それに、今、二人っきりだぜ?いつもみたいに呼べよ」

シャワーを浴びるのにも体力がいるため、少し休んでから浴びたかった喰は、無理矢理連れてきた朔に文句を言う。しかし、彼は取り合わず、喰の服を脱がしにかかり、いつもより低い声で呼び方を注意した。

「う……ツ、ツキ兄ぃ///」

従兄同士ということもあり、朔を兄のように慕っていた喰は、20歳を過ぎた今でもこう呼ぶことを強要されている。
恥ずかしさを耐えながら上目使いで名を呼ばれ、朔はゴクリと息を飲んだ。

「喰…最高だな、お前。ちょっとヤバいわ。なぁ、最後までしないからさ、良いだろ?」
「ちょっ、何考えてんだアンタ!!明日もライブあるって言ってるじゃない!」
「大丈夫、大丈夫。触るだけだから♪ほら、全部脱いだ脱いだ」

楽しそうに話しながら服を脱がし、あっという間に喰は、生まれたままの姿にされてしまった。

そして、1つのシャワーブースへ押し込まれ、後ろから抱きつかれながら湯を浴びることになった。

(ツキ兄、我慢出来るかな?最後までしなきゃ良いけど……)

朔との触れあいは、嫌ではない喰は、彼とのシャワーを内心喜ぶが、明日の事もあるため、朔が暴走しないか心配をする。

っ!?ちょっ!何処に指入れて////
ん?これくらい良いだろう?気持ちよくしてやっからさ。
やっ///ちょっと////


二人が妖しいバスタイムを楽しんでいる頃、花礫と與儀は言い合いをしながら、汗で濡れた服を着替えていた。

「ったく。朔の野郎、鍵閉めやがって、お前のせいだからな、與儀。お前が抱き付いて来なかったら、先にシャワー行けたのに……」
「ご、ごめんね?花礫くん。あ、後で何か奢るよ!ね?」
「………ハーゲンな。チョコミント」
「わかった!じゃあ、さっさと着替えて買ってくるよ!」

與儀はすぐさま着替え、控え室から出ようとしたが、花礫に服を掴まれ立ち止まった。

「わっ!花礫くん、どうしたの?」
「あ、いや……もうすぐここ出る時間だし…ホテル帰ってからで良い。それに、今出たら出待ちのヤツが居るんじゃねーの?お前、最近、女のファン多いし……」
「あ、そっか!でも女の子のファンが増えたのは俺だけじゃないでしょっ!最近、ライブでも女性客ばっかりになったし、花礫くんだっていっぱいファンレター貰ってるじゃない」

與儀に出待ちの事を伝えると、花礫は不機嫌になりながら女性ファンについて話し出した。

「俺はそんなに……お前はいつもライブでもニコニコしてるから女が勘違いすんだよ!プレゼントも受け取りやがるし。ちょっとは気をつけろよ!!」
「そんなに怒らなくったって……ファンの子は大事にしないとダメだよ!花礫くんはファンの子に対して冷たすぎるよ!彼女達が居てこそ、今の俺らがあるんだよ?もっとライブ中も笑ったりさー」
「あ?何で笑わなきゃいけないんだよ?俺らの音を聞きに来てるんだろ?だいたい最近の客は音聞かずにお前ばっかり見てるじゃん。俺、そんな客のために演奏とかしたくないんだよな」

何やら不穏な空気が流れ始め、與儀は反論したかったが、明日のライブのためにも今、花礫との仲が悪くなるのは避けたいと思い、押し黙った。
花礫は、そんな與儀を見て、さらに機嫌を悪くする。

「お前は良いのかよ?顔だけで人気が出てても。お前の綺麗な歌声なんかアイツ等聴いてないんだぜ?」

バチンッ

「━ッ!!」
「花礫くん、いい加減にしなよ。言って良いことと悪いことがあるでしょ?今、君が言ったことは、今まで応援してくれてた人に対して失礼だよ。顔だけ?そんなわけないでしょ!あの子たちは俺らの音楽を聴いてくれてるじゃない!そうじゃなきゃ、ライブ中あんなに乗れないでしょ?ちょっと変だよ?どうしたの?花礫くん」
「う、うるさい!先、帰る!!」

與儀に頬を叩かれ、顔を歪めながら花礫は、逃げるように部屋から出ていった。
そんな花礫を見て、心が痛む與儀だが、自分は何一つ間違った事は言ってないと思い、花礫を追うことはなかった。


しばらくすると、シャワー室から満足顔の朔とやや疲れ顔の喰が出てきた。

「お前が怒るなんて珍しいな。そんなにファンを貶されるのは嫌だったか?」
「朔さん……。だって花礫くん、俺らが顔だけで売れてるみたいに言うから……」
「だからカッとなってビンタか?アイツはまだ子供だからな……周りの変化に付いていけてないんだよ」

朔に優しく諭され、與儀は自分が冷静さをなくしていたことに気が付いた。
そんな二人を眺めながら、喰は、以前した花礫との会話を思い出していた。


「なぁ、喰」
「……何?」
「あのさ…お前…朔さんとその……こ、恋人…だろ?」
「そうだけど?それが何?」
「いや、その……嫌じゃないのか?アイツが人気出て。女にモテてさ」
「ふっ。そんなこと?花礫君案外可愛いことで悩むね」
「なっ///」
「僕はね、女の子にモテてる朔さんも好きだよ。それにね、あの子達は絶対に僕に叶わないよ。だって、ステージに居るあの人しか知らないんだもん」
「……そう言うもんか?何かわかんねーな」
「そのうち分かるよ。何?與儀君が人気だから嫉妬したの?ん?可愛いじゃない」
「ばっ////馬鹿野郎!そんなんじゃねーし////」


(花礫君のただの嫉妬なんだけどな…)

與儀と朔は、花礫にどのようにして、ファンへの思いを考え直させるかを考えていたが、喰は理由を知っているため、二人を止めるべく歩みより、花礫との会話を話した。


「成る程ね。可愛いじゃないか花礫」
「花礫くん、そんなこと思って…///」
「そんなわけなんで、與儀君は今すぐ花礫君と仲直りして来なよ」

もう、ここ出る時間だし、悩んでてもしょうがないでしょ?

そう言い、與儀を送り出した後、喰と朔もホテルに帰る事にした。

ツキ兄、帰ったらマッサージしてよね。
おう!勿論さ。全身解してやるぞ!

***

與儀に叩かれ、怒りと悲しみに包まれながら、花礫はホテルまでの道のりを走っていた。與儀があんなに怒るとは想像していなかったため、どうすれば良いか分からずに逃げてきてしまったが、明日のライブの事を考えると、ホテルに帰らない訳にはいかない。悩みながら走っていたため、路地裏から伸びてくる手に反応が遅れた。

ギュッ

「!?」

腕を掴まれ路地裏に引っ張られた花礫は、驚きに目を見開き、顔を上げる。すると、そこには、いつも自分達のライブを見に来てくれる男性のファンが居た。

「あ…アンタは…」
「花礫君、ライブお疲れさま。どうしたの?こんな所に一人で居るなんて」
「え、まぁ、ホテルに帰る途中だし…別に一人でも良いだろ?てか、離せよ!痛い」

自分よりも遥かに大きな大人の男に壁際に追いやられて、少しの恐怖を感じた花礫は、男に離れるように言い、視線を下にした。

「ああ、ごめんね。痛かった?でも、せっかく花礫君に触れたからさ、もうちょっとこのままでいさせてね。腕細いね〜こんな細腕であんなにパワフルな演奏が出来るって凄いよ!」

それを聞き、うつ向いていた顔を上げ、男の目をしっかり見た。

「え?本当か?アンタは俺の演奏をちゃんと見てくれてたのか?」
「当たり前だよ。君が作る曲は大好きなんだ。ねぇ、今時間あるんだったらさ、どっかでお茶しない?音楽について話したいな〜」

男は、花礫を優しく見つめ、迫ってくる。
花礫は、自身の曲が褒められて、嬉しく思うが、男の目の奥が笑っていない事に気が付き、不気味に感じた。

「あ、いや…悪い。明日もライブだし、疲れてるから今日は無理だ」
「そっか。残念だね」

断りの言葉を述べると、男は項垂れるように顔を下げた。
罪悪感を持ちながらも、この男から早く離れたい花礫は、次のライブで見かけたら声かけるからと約束し、男から離れようとした。

「残念だ。本当に残念だよ……花礫君。手荒な真似はしたくなかったんだけどね」
「へ?」

そう言い放つと、男は花礫にスタンガンを食らわせた。

「っ!?」

花礫は、体の痺れを感じ、意識を失おうとしていた。そんな時、遠くから與儀の声が聞こえた。花礫は、最後の力を振り絞り、大声で名を呼んだ。

「與儀!!!」

男は急に大声を出した花礫に驚くも、周りに人が居ない事は確認済みなため、気にすることなく、花礫を抱き上げようとした。

「花礫君。やっと俺のモノになったね」

「ちょっと待ったー!」

ドンッ
ドサッ

花礫を抱き上げようと、屈んだ所を男は與儀に体当たりされ共に地面に転がった。

「っ!?痛いじゃないか!何するんだ!」
「それはこっちの台詞だよ。花礫くんに何したの?」

怒りに満ちた與儀を見て、男はヒッと声を上げ、後ずさった。

「逃げるな。この子に何したの?何で気を失ってるの?あなたは誰?いや、知ってる。俺らのファンの人でしょう?いつも花礫くん側の最前列に居るよね?何?花礫くんに手を出そうとしたの?花礫くんは俺のモノだよ?なに勝手に触ってるの?花礫くんもこんなに無防備で……ねぇ?警察呼ぶのとここで俺に消されるの、どっちが良い?あ、言っとくけど、本気だよ?今すぐぶっ殺したいくらいだもん。ねぇ?早く選んでよ」

男は顔面蒼白になりながらも、小さな声で、警察と告げた。

「チッ。分かった。今呼ぶから、動くな」

與儀の普段からは想像も出来ない怖さに触れ、逆らうことが出来なくなった男は、大人しく警察に引き渡された。


與儀はそれを見届けると、いつもの雰囲気に戻り、花礫を起こしに向かった。

「花礫くん、起きて!」
「ん……よ…ぎ?」
「もう大丈夫だよ?怪我はない?」
「何で…お前…あの男は?」
「もう居ないよ。大丈夫」
「そっか……ごめん…俺、油断してた。アイツが俺の曲好きとか言い出して、嬉しくて……」

花礫は、自分の愚かさに悲しくなり、顔を歪ませた。
與儀はそんな彼を見て、先程の自分との言い合いを花礫が深く悩んでいたのだと気が付いた。

「俺の方こそごめんね。大人気なかったよ。叩いちゃってごめん」

本当に間に合ってよかった。

そう言い、花礫を抱き締める與儀に、花礫は胸が暖かくなり、今までの悩みなど吹っ飛んだ。


しばらくして、ホテルに無事に帰りついた二人は仲良く同じ部屋に入って行った。

「そう言えば花礫くん、あの男って、いつもライブに来てたよね?今までは何もなかったの?」

部屋でシャワーを浴び、ホカホカになった所に與儀から先程の男についての質問が来て、不機嫌になるも、記憶の片隅から情報を引き出す花礫。

「あー、今まではなんもなかったな。ファンレターくらいはくれてたかもしんないけど、名前知らないし、何かファンレターキモい内容のばっかりだから最近見てなかったし……」
「え?ファンレター読んでないの?ちょっと!それは酷すぎるよ!それにキモい内容ってどんなの?」

花礫のファンへの対応でまたしても、揉めそうだったが、気持ち悪い内容と聞き、ファンレターを見せるように頼んだ。

「これだ」

花礫から渡された手紙の内容は、どれも花礫の容姿や服装について誉めていたり、出待ちに滅多に関わることがないにも関わらず、プライベートの事が知られている内容であった。

「これ……ストーカーじゃん。何でもっと早く言わなかったの?普通のファンレターもあるけど……殆んどが男性からきたやつだよね?勘だけど…」
「さぁな。いつもライブハウスに届けられてるから、俺は知らない。それに今までは見てなかったし、ファンレターってこういうものだと思ってた…。だからお前がファンを大切にしてるの…嫌だったんだよ!!結局は顔しか見てないヤツばっかりだと思ってたし……」

花礫は、泣きそうになりながら、與儀に訳を話した。
先程喰から、少しは話を聞いていた與儀は、花礫の口から素直な言葉が出たことに驚きと、愛しさを感じた。

「花礫くん…ごめんね。気付いてあげられなくて…でもね、俺は、どんなにファンの子に好かれても、花礫くんに好かれないと幸せだと感じないんだ。俺には君しかいないんだよ」
「與儀///俺も……だ////」

お互いの気持ちが通じ合い、仲直りした二人は、優しく微笑み合いながらベッドに沈んで行った。

***


翌日、腰の痛みに耐えながらも、花礫はライブに出ていた。
朔と喰にからかわれ、與儀にベッタリと引っ付かれながら、昨日の話しをし、二人にも注意を促した。

本番が始まり、ライブも終盤に差し掛かった頃、與儀は歌いながら花礫の近くまでやって来た。

「?」

今まで、演奏の邪魔になるからと、打ち合わせをした所以外は寄って来なかったのにと不思議に思い與儀を見上げると、

チュッ

キャーー!!!

なんと、與儀は花礫の口へキスをした。花礫は驚き、演奏を止めそうになったが、プロ根性でなんとか乗りきり、キッと與儀を睨み付けた。

與儀は楽しそうに微笑み返し、ファンへ一言良い放った。

「皆、気付いてるかも知れないけど、花礫は俺のモノだから。皆には渡さないよ」

キャー與儀ーー!!
おめでとーー!!
花礫くーん!!
與花最高ーーー!

ファンの前でこんなことをし、嫌悪されると思っていた花礫は、祝福の嵐を受け、ぽかんと口を開けた。

「與儀君!いい加減に次の曲行くよ!!」

しばらく祝福モードになり、曲を中断していたが、喰の一言により、ライブは再開された。

花礫は、ファンの暖かさを初めて知り、今まで見せたことのなかった、微笑みを見せた。





後に、ファンの間でこの日は花礫の微笑みが見れた神ライブだと語り継がれている。






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