月灯り

「燭さん、今夜は月が綺麗ですね」

研案塔に浮かぶ2つの影。
平門は燭の元を訪れていた。

「月などみる暇があるなら、さっさとここから立ち去れ。俺は忙しいんだ」
「貴方はいつもそればかりですね。たまには俺を構ってくださいよ」

苦笑しながら平門は言う。
彼らはただの職場の仲間と言う関係ではなかった。
学生時代から燭に想いを寄せ、あからさまな態度をとり続けたことにより、つい先月、頷くだけだったが、燭が答えをくれた。二人は晴れて恋人同士ということになった。
しかし、現在は平門が期待したような甘い関係には程遠い。何とかして、燭に構いたい平門だが、仕事人間の燭は、休むと言うことを嫌い、今まで通りに冷たく平門に接する。

平門は、燭の気持ちが分からず、不安だった。そこで、研案塔職員が出払っている今夜こそ、燭の本心を聞き出そうと必死になっている。

「貴様のタイミングが悪いだけだろ」
「そう言って、いつも忙しいじゃないですか。朔が居るときはなんやかんやで付き合ってくれるのに…」

二人きりがそんなに嫌ですか?

そんな意味を込めて見つめていると、観念したのか、燭が振り返って平門を見つめ返し、言い放った。


「平門、月が綺麗ですね」

もう用はないと言い部屋を出て行く燭の背中を平門は見つめることしか出来なかった。

「最初のは本当にそう思っただけだったんですけどね」

平門は頬を染め苦笑した。



ーーI love you.ーー
(月が綺麗ですね)


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