まさかのまさか
れき……花礫……起きて…
「ん…」
誰かに呼ばれた気がして目覚めると、なぜか艇の中に居た。
(何で?俺、クロノメイにいるはずじゃ…?)
不思議に思い、辺りを見渡すと、艇の客間のソファーに自分が居ることが判明した。
とにかく、誰か居ないかと探しに行こうとした時、一人の人間の影が表れ、抱き付かれた。
「うわっ!?」
「花礫…会いたかった…」
そう言って抱き付いてきたのは、黒髪の見知らぬ男性だった。
「だ、誰だ?」
自分より大きな男性に不安がつのり、押し退けようとするが、男性はガッチリと花礫を捕まえており、身動きが出来ない状態になってしまった。
「おい!離せよ!誰なんだ、お前は!!」
「ふふ。この姿で会うのは初めてだからね。分からないか…。これなら分かるかな?」
おかえりメェー
「なっ!!」
男はなんと、艇に居た時は聞き飽きるほど聞いていた声を出した。
「ヒ、羊?……何で?」
「当たり!俺、花礫に会いたくてずっと我慢してたんだ!会えて嬉しい」
「え?何で人間に……」
「ん?そっか、花礫は知らないよね。俺はこっちの姿が本来の姿なんだよ!あれは、仮の姿!无が怖がったら困るしね」
そう言いにこにこ笑う男性の頭には、羊の角が生えていた。
(マジかよ……)
彼の言っていることが本当と分かり、何故今ごろ本性を現したのかと疑問に思う。
「花礫……やっと準備が整ったんだ……」
「じ、準備?」
「ああ。だから、俺の子供を産んでくれ」
「………え?」
羊からとんでもない単語が発せられ、驚き固まる花礫。
そんなことなどお構いなしに、羊は花礫にキスをし出した。
「ん…ふ…やぁ…や、止め!」
「……ん…花礫」
耳元で低い声で囁かれ、ビクリと体を震わす。
「ち、ちょっと待て!!おかしいだろ?俺は、男だ!お前だって、雄?だろ!子供なんか産めねーよ!!」
「ああ、そんなことか…大丈夫!準備が整ったって言ったろう?俺は、今、発情期だ。そんで、花礫との子供がどうしても欲しい。そんな願いを叶えてくれる人が居たんだ」
「だ、誰だ?」
そのようなことが出来る人物など居るのか?と常識的に考えて無理だと主張すると、羊は、ある人物の名を挙げた。
「ふふ。時辰に頼んだら、喜んでOK してくれたぜ!花礫を女性にしてくれるって!」
「……は?」
羊から出た人物は、確か自分の保護者的存在の男の兄だったはずと思い、そんな男が自分の性別を変えると言うことが信じれなかった。
「そんなこと、出来るわけ…」
「ないと思うか?俺が羊から人間になってるのに?」
「……」
何が何だか分からなくなってきた花礫は、ただ目の前の男を見つめることしか出来なかった。
「可愛い!花礫、幸せにするよ」
そう言いもう一度キスをしようとしたところに、大声を上げて與儀が近づいてきた!
「あー!!!酷いよ!!羊さん!俺だけじゃなかったの?」
浮気だー
そう言い、泣き崩れる與儀に羊は、優しく声をかける。
「ごめんな、與儀。俺が一番欲しかったのは、花礫なんだ……お前も好きだけど、女に出来るのは一人なんだ」
「そんな!今まであんなに愛してたのに!何で?ブラッシングとかもしてたのにー」
うわーん
泣き出す與儀を呆然と見つめる花礫。
(は?與儀が何で羊を?……え?)
花礫は、ただこの状況を見つめるしかなかった。
しばらくすると、與儀がキッと花礫を睨み、掴みかかって来た。
「この泥棒猫!!俺の羊さんをよくも!!」
「っわ!おい、止めろ!!」
ソファーの上でもつれ合い、バランスを崩し、花礫は頭から床に落ちてしまった。
ドンッ
「痛ってー」
頭を擦りながら起き上がるとそこはクロノメイの寮の自室だった。
「お?花礫大丈夫か?ベッドから落ちるなんて珍しいな…」
獅示が花礫が落ちた音で目覚めたらしく、話しかけてくる。
「………夢?」
「ん?何か夢見てたのか?まぁ、俺もよくあるぞー」
獅示が何か言ってるが、夢であったことに安堵している花礫には聞く余裕はなかった。
(でも何であんな夢を……?)
夢は自身の潜在意識の表れだと言うが、全く身に覚えのない夢に不安を抱く花礫だった。
なぁ、花礫聞いてるか?
うるさい。……もう寝る。
つれないね〜。
しばらく貳號艇には帰りたくないな。つか、與儀にも会いたくねーわ。
ーー夢が現実になる日は来るのか??
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