花礫くんと!
朝、朝食の時間になっても起きて来ない花礫と无を不審に思い、起こしに来たツクモ。
ガチャッ
「花礫くん?无くん?朝だよ。もう朝食の時間」
呼び掛けるとモゴモゴと布団から出てくる无。
「んー。ツクモちゃん?おはよう」
俺、ねぼうした?
目を擦りながら問いかける无に、サッと着替えを渡すツクモ。
「大丈夫。さあ、着替えましょう」
「うん。ありがとう。あ、花礫は?」
いつも俺が遅いと起こしてくれるのに…
「ふふ。珍しく花礫くんも寝坊なの。さ、起こしましょう」
そう言って二段ベッドの階段を登り布団をめくるツクモ。
しかし、そこには想像していた花礫の姿はなかった。
「………っえ?」
ツクモが見たのは、なんと3歳くらいの男の子がすやすやと眠っている姿だった。
「な、无くん。ひっ、ひら…平門を呼んできて!早く!」
「?分かった。まっててね」
无は、たったったっと走り、平門の元へ行った。
数分後、平門が无を抱えてやって来た。
「ツクモっ!どうしたんだ?」
ツクモが花礫のベッドを覗き込んでる事から花礫の体調が悪いと推測した平門は、无を降ろしてベッドに近づいた。
「熱があるなら療師か燭さんに……っ!?」
花礫の姿を見た平門は、息を飲んだ。
「これは……」
「平門。どうすれば」
「とりあえず、起こしてみようか。花礫!起きなさい」
そう言い揺さぶると、うーんと呻きながら目を覚ました。
「ん。平門?どうしたんだよ?ツクモまで」
「花礫くん。記憶はあるのね」
「は?なに言ってんだ?つか、お前そんなにデカかったっけ?」
「「………」」
なんだよ?
そう言って子首をかしげる花礫はとても愛らしかった。
「か…」
「か?」
「可愛い!!」
「うわっ!?」
ツクモに抱き締められ驚くが、ここで初めての自分の体つきに気付き、叫ぶ花礫。
「な、なんだよこれ!!」
叫び声を聞き駆けつけた與儀によりさらに騒がしくなり混乱していたが、研案棟に近かったため、直ぐに療師に診てもらえることができた。その結果、能力者との戦いからくるものだが、3日程で元に戻ると診断された。
現在、艇で花礫の洋服について、ツクモと與儀が議論を交わしている。
「絶対こっちのニャンペローナ子供服の方が可愛いよ」
「いいえ、こっちの羊さんフードが付いた服の方が可愛いわ」
現在の花礫の服装は、自身のシャツ一枚のみ。それでも大きすぎて裾を引きずりながら移動している。
「俺はどっちも着ないからな!!そんなの着るなら今のままで良い」
プイッとそっぽを向いて拒絶を表すが、その愛らしい姿に二人はメロメロだった。
「「可愛い〜」」
「かわいいとか言うな!!」
っくしゅっ!!
このままでは風邪をひいてしまうと言うことで、ツクモの提案した服を着ることになり、與儀の提案した服はパジャマにすることとなった。
羊さんフード付きの服を着せられ不機嫌な花礫だが、その姿はとても愛らしい。
「そうだ!花礫くん、街に行って必要な物を買いにいこうよ!!俺が抱っこして連れていってあげる」
「街に行くのは賛成だ。けど、抱っこは要らない」
與儀の提案により、街に行くことになった。
メンバーは、與儀・ツクモ・无・花礫である。
花礫の変化について行けてなかった无だが、自分よりも小さな存在に興味があり、一緒に行くことを希望した。
「花礫。俺と手繋いで?迷子になったらダメだから」
そう言い、目を輝かせながら手を差しのべる无に拒否することが出来なく、大人しく手を繋ぐ花礫。
それをカメラに納めるツクモと羨ましいと嘆く與儀。
そんな一行は、まず子供服の店にやって来た。
「花礫くーん!これなんかどう?」
「花礫くん。こっちの方が良いよね?」
ここでも與儀とツクモは自分の好みの服を花礫に着せようとしている。
「……とりあえず、下着は必要だから買う。あとは別に何でもいい」
そう言うと一人で下着売り場の方へ行ってしまった。
下着売り場で商品を取ろうとしたが、今の花礫では手が届かない所にあり、どうするか悩んでいると、无がやって来て欲しかった商品を手渡した。
「はい。花礫今、ちっちゃいから俺手伝うよ!俺の方が大きいから」
「……ちっ。ありがとよ」
无相手ではキツいことは言いにくいので素直に受けとる花礫。
「俺、いつも助けられてたから、今度は俺が助けるね!花礫!手離しちゃダメだよ」
「あーはいはい。わかったっての!!」
ぎゅっと手を握られ、店内を歩く二人の姿はとても微笑ましかった。
店員や他の客も彼らを見ていた。
そこに、一人の男が近づいて来た。
「君たち、お母さんは?迷子かな?」
胡散臭い笑みを浮かべて、よかったら一緒に探してあげようか?と聞く男に、花礫は不信感を抱き无を引っ張った。
しかし、无はその事に気付かない。
「お母さん?居ないよ!ツクモちゃんと與儀と来たよ」
「そっか。お姉さんたちと来たんだね。ねぇ、良かったらあっちでアイス食べない?お兄さんが奢ってあげるよ」
「本当!?ありがとう!」
「っおい!!无!なに考えてんだ!明らかに怪しいだろ。さっさと與儀達のところ戻るぞ」
さっきからねっとりとした視線を寄越すこの男から、さっさと離れたい花礫は、與儀達を探しに行こうとするが、无と繋がれた手によって阻止されてしまった。
「花礫。この人良い人だよ?アイスくれるって!食べようよ」
「ばか!こいつはそんな…っうわぁ!?」
「さあ、行こうか!」
无に男の危険性を話そうとした花礫は、急に抱き抱えられ、驚きの声を上げた。
「この子、俺が抱っこするから手を離しても良いよ」
「分かった。ありがとう」
そう言い、无が手を離した瞬間、男は走り出した。
「は?……おいっ!離せよ!!」
「え?花礫!!待って!お兄さん!」
无は、追いかけようとしたが、男は物凄いスピードで走り去ってしまった。
「どうしよう。與儀!!ツクモちゃん!!」
力の限り叫び、與儀たちに合流した无は、花礫が連れ去られたことを話し、自分のせいだと泣き出してしまった。
「无くん。泣かないで。私たちは輪よ。花礫くんは直ぐに見つかるわ」
「そうだよ!俺が直ぐにその男を倒しちゃうよ!无くんは悪くないよ!」
「…うん。俺、花礫を助ける。それから謝るよ!」
花礫の声、あっちからする。
无の耳を使い、花礫を捜索し始めた所、男の居場所は直ぐに見つかった。
その頃、花礫は男の部屋らしき所に連れてこられていた。
「おいっ!離せよ!このやろう」
ジタバタ暴れるが、3歳児の力では男にダメージは与えられない。
「大人しくしててね〜。君、可愛いだけじゃなくて頭も良いんだね。本当、素晴らしいよ」
そう言い、ベッドの上に降ろされた花礫は、すぐさま逃げようとするが、簡単に押さえられてしまった。
「いけない子だ。お仕置きしないとね。今日から僕が君の保護者なんだから」
気味の悪い笑顔を浮かべ花礫に顔を近づける。
小さな体では、何一つ抵抗出来ないことを実感し、泣きそうになるが、ここで諦めたら一生この変態と過ごすことになると思うと、普段は考え付かない、助けを呼ぶと言う思考に至った。
「與儀ぃー!!ツクモー!!なっむぅ!?」
大声を出したらすぐさま男は花礫の口を手で塞いだ。
「静かにしようねー」
ペロッ
頬を舐められ、服の中にもう片方の手が入れられ、遂に泣き出した花礫。
(もうダメだ。何なんだよ。こんなガキに盛ってんじゃねーよ。……助けて……)
ズボンに手が掛かり、今にも引き下ろされようとした時
ガンッ!!
ドアが破られ、ツクモが現れた。
「よくも、可愛い花礫くんを泣かせたわね。許さない」
花礫の姿を見てさらに殺気を強くするツクモに遅れながらも无を抱えてやって来た與儀は、驚く。
「ツ…ツクモちゃん?」
「花礫!!」
與儀の腕から飛び降り、花礫の元へ行こうとするが、男は花礫を抱えて抵抗した。
「う、動くな!!この子がどうなっても良いのか?」
チャキっと、首もとにナイフがかざされ、表情を強ばらせる花礫を見て、ツクモが目にも止まらぬ早さで動いた。
ドカッ
バタッ
カランカランッ
「花礫くん。もう大丈夫」
「す、すげえ」
伸びている男を無視して花礫を救いだしたツクモは、彼を抱き上げ與儀に言った。
「この男は輪で処理しましょう。許せないから」
「いや、ダメだよツクモちゃん!!ちゃんと引き渡さないと!もうすぐ人が来ると思うから!抑えて!!」
ツクモの怒りに恐怖を感じる與儀だが、必死になだめる。
「花礫!!ごめんね。俺が言うこと聞いてたら、怖い思いしなくて良かったのに…」
「気にすんな。何にもされてないからさ」
ぎゅっと花礫に抱きつく无を花礫は暖かい気持ちで受け入れた。
「……助けてくれてありがとな///」
照れながらお礼を言う花礫に无は笑顔になる。
二人の姿に和みながらも花礫が元に戻るまでは、外出は出来ないと実感した與儀とツクモであった。
「とりあえず、今回は無事だったけど、検査のために一度、研案棟に向かいましょう」
ツクモの提案で一行は艇に戻り研案棟を目指すことになった。
(小さいのは不便だけど、悪くはないな)
小さくなったことで、素直になれた花礫はちょっとだけこの身体に感謝した。
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