手と手が嫌なの
朝、学生は学校に行かなければならない。小学生たちは時に集団で登校する決まりがある所がある。
高学年が新入生の手を引き学校まで無事にたどり着くようにサポートする。
今日から初登校の新入生が居るため、胸を踊らせている少年がいる。
彼の名は、與儀。ふわふわの頭に緩い話し方。これにより、年下の子達から舐められてはいるが、慕われてもいる。
與儀は、6年生になり登校班の班長になった。そのため、他の子よりも気合いが入っている。
「1年生どんな子かな?仲良くなりたいな〜」
期待に胸を膨らませながら、集合場所に行くと、小さな男の子が保護者と一緒に居た。
「おはよう、與儀。今日からこの子を宜しくお願いしますよ」
保護者平門は、男の子を前に出すと挨拶を促した。
「……花礫です。よろしく…」
緊張しているのか挨拶するとすぐに平門の後ろに隠れてしまった。
「花礫くん!!よろしくね〜!俺は與儀!今日から一緒に登校するんだよ!ほら、手繋ごう?」
手を差し出す與儀だが、反応をみせない花礫を不思議に思い、平門に質問した。
「平門さん。花礫くんどうかしたんですか?返事してくれないんですけど……」
「緊張してるだけだよ。花礫、與儀と手を繋ぎなさい」
平門に言われて與儀を見上げる花礫だが、距離を取ったままで、近付こうとしない。
「……嫌」
「花礫。我が儘言わない。ほら、手を繋がないと学校に行けないよ」
なんとかして手を繋がせたいが、頑なに拒否する花礫に困り果てる平門と與儀。
「花礫くん!俺じゃなくても良いから手を繋いで学校行こう?お友達もいっぱい出来るよ!」
「………嫌だ。あんたじゃなくても嫌なの」
ムスッとして平門の後ろに隠れてしまった。
「何が嫌なんだい?」
平門が花礫の頭を撫でながら質問した。
「・・・・・・・・・手」
「手?」
「人と触れ合うの好きじゃない・・・・・・」
だから手を繋ぎたくないのだと言った。
平門(兄)と喰(兄)とツクモ(姉)の兄弟たちとしか触れ合ってこなかった花礫。
ちなみに、花礫は通園を拒否したため、幼稚園には行っていない。なので団体行動をするのも初めてである。
「困ったな・・・。與儀、なんとか出来ないかな」
平門は社交性バッチリな與儀に協力を仰ぐと與儀は、待ってましたと言わんばかりに勢いよく話し出した。
「花礫くん!!人と触れ合うって事はね、すごく楽しいことなんだよ!一人じゃ寒い時でも誰かと触れ合う事で暖かくなるしね。それにね、心がホッとするんだよ。相手のことが少し知れた気分になるんだ〜。俺、花礫くんの事知りたいな〜。ね?手と手が嫌なら、最初は俺の袖を掴んでても良いから!」
だから一緒に行こう。そう言い手を差し伸べると花礫は、與儀の手をまじまじと見つめた。
「・・・・・・袖なら・・・良い・・・。絶対に俺に触れるなよ!」
「本当?!やったー。じゃあ、一緒に行こうね!」
花礫からの返事をもらうとすぐに出発しようと言い、袖を再び差し出すと、花礫はちょこっと袖を掴み、歩き出した。
「花礫くん。これからは、毎日一緒だよ!よろしくね」
「お、お前とは仲良くしてやらなくもない・・・・////」
兄弟以外でまともに話したのは、與儀が初めてなので、内心とても喜んでるが、表にうまく出すことが出来ないため、こんな受け答えをしてしまったが、與儀にとってはこれも可愛らしいと思い、これからの花礫の成長が楽しみになった。
(花礫くん。顔もすごく美人さんだし、性格も可愛いしクラスでモテるだろうな。そしたら人と触れ合う事にも慣れちゃうのかな?・・・なんか嫌だな。この可愛さは、俺だけが知っていたいな〜)
無意識の内に独占欲が出始め、どうやったら常に花礫の一番に成れるかを考える與儀。
「俺、花礫くんの初めての友達だね!!」
だから、いつまでも仲良くしてね〜!
笑顔でそう言い放ち、彼との登校を楽しむ與儀を花礫は嬉しそうに見上げた。
「…………って言うことがあったのに…何で今はこんなに冷たいの??」
可愛かった花礫くんはどこ?
あ、今も可愛いけど。
「うるさい。10年も前のこと言うんじゃねーよ」
大体、ガキの頃と今では違うのは当たり前だろ?
「違うの!そうじゃなくて、何か俺をちゃんと敬ってくれてたって言うか、慕ってくれてたって言うか……。とにかく、俺に対しての扱いが違うの!」
「は?何も変わらないだろ?大体、俺をいつまでもガキ扱いするお前が悪いんだろ」
「もう子ども扱いなんかしてないもん。ちゃんと一人の人間として好きなんだもん」
きゃっ、言っちゃった///
顔を隠し照れた振りをするが、花礫は冷たい視線を寄越すだけだった。
「っ!!ほら!この態度だよ!何で照れてくれないの?昔は真っ赤になってたのに……」
「お前が言いすぎたからじゃね?何か価値が無くなった感じだ」
「そんな〜」
ぐいっ
「そんなことより、早く映画見に行こうぜ。あれ人気らしいからチケット売り切れるかもって、ツクモが言ってたし」
そう言いながら、與儀の袖を引っ張る。
(あ、ここは変わってないや。相変わらず手を繋ぐのは嫌がるのに……)
1年生時の1年間、毎日袖や裾を掴んで登校していた花礫は、與儀の袖を引っ張る事が当たり前になっていた。だからこうして今でも照れることがない。
與儀は、小学校卒業の時に花礫に言われた事を思い出した。
『お、俺が大人になったら、手……を繋いでやるよ。お前なら良い。……一番にしてやるよ』
(まだ袖ってことは、まだまだ子どもじゃない)
にこにこ笑顔を浮かべ、花礫に引っ張られる與儀。
二人が手を繋ぐのはもう少しだけ先になりそうだ。
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