壊してしまえば、
いっそ楽だ、
だけど出来ないのは、
あの頃の繰り返しを、
したくないからかな
昨晩夕食だった料理を温めて、温かい牛乳と一緒に臨也のいる部屋へと向かう。そう言えば彼は好き嫌いがハッキリとしていると今更ながら思い出すも、記憶がないのなら別段構う必要性はないだろうと決め込んだ。
あまり今は考えたくはない。
部屋に戻れば臨也は先程見せた表情ではなく又何処かぼんやりとした顔で窓を見ていた。多分正確には窓の外なのだけど。
「…お待たせ。僕はあまり料理はしないから昨晩の残り物になっちゃったけどいいよね?」
「…別に構わないよ」
先刻とは違い前と変わらぬ言葉に内心胸を撫で下ろす。それだけで気持ち悪さが少しだけ解消された気がした。
原因は相変わらずなんだけども。
料理をベッド横の棚の上に置き「食べて」と言えば臨也は無言のまま皿を手にし、スプーンを持って掬い上げた料理を口に運ぶ。
安穏と流れる静寂。
カチャカチャと時折漏れる皿とスプーンが触れ合う音を聞き取りながら僕は臨也を見詰めた。
――そう言えば、彼に会ってこんな風に会話をしたのはいつぶりだろうか、なんて、臨也は記憶をなくしてて自分自身今の状況なんて望んでないのに、無為な思いだ。
人間の脳は不思議で仕方がない。普段絶対思い出さない筈の記憶があるキッカケを糧に脳内に巡らせる。まるで撮ったのに見ず其の内なにが入ってるか分からない古いビデオテープの様だ。
だから、今、私が思い出すのは、臨也というキッカケを糧に再生された、忘れた筈の、忘れなきゃいけない筈の、学生時代の記憶。
やっぱり、反吐がするよ
今の臨也はあの頃の過ちを思い出させる。まるで俺を責めてるようで、それでいて―――――――
これじゃあ、あの頃と、変わらないじゃないか
一回壊したくせに、
でも、
でもさ、
言い訳だけど、
あの時
"壊れたい"と願ったのは君だろ?
(どうか彼が、)
(食べ終わる前に)
(なんて、)
(――――無理だよ)よし待機してますよ。英は多分。