「大分落ち着いたかな?」
「俺はさっきから落ち着いてる」
あれから数時間が経過して日も暮れてきた。セルティから度々連絡はあるものの大半は未だ見つからないとの報告。ドタチンも静雄は昨日以前から見ていないらしい。
正に七難八苦な状況。
そんな状況にも関わらず記憶がなくて通常ならば一番不安である位地にいる臨也は実にしれっとしていて何だか恨めしい。
「自分についても大体は理解できたかい?」
「ああ、分かった」
「良かった、僕の高論卓説の賜物だね。記憶が戻ったら全力で感謝してよ」
相変わらず無表情なまま頷かれては、結構気にかかりはするもののそこは触れずに普段の調子でニコニコと笑みながら俺は淡々と包帯を変えて行く。
ああ、地肌は酷いものだな。
「…全く、これじゃあ怪我した理由もわかんないし、静雄とも連絡取れないんじゃ困ったなー…ホント」
「…静雄?」
あ、口を滑らせた。
巻き終えた包帯を見下げながらふと思う。顔を確認すれば先程とは何処か違う不思議げに首を傾げた、きょとんとした表情が目に入った。
(なんだか胸が痛い)
「あー…えっと、静雄はね、なんて言ったらいいか分からないけど」
「…?なんなの?」
「……臨也の恋人、だよ」
言った瞬間胸が軋むのは気のせい、そう言い聞かせて表情を崩さない様に頬の筋肉を緩める。
(イライラするな)
「恋人、…俺男だよね?」
「それ以外になにに見える?」
「その静雄、も男だよ…ね」
「ああ、正真正銘の、ね」
「………」
成るべく顔を見たくなくて、もし見たら顔を歪めそうで、僕は自然と臨也から目を逸らして質問に簡潔に答えていった。
唐突に黙り込む臨也。
まあ、当たり前か。記憶がない状態で自分の恋人が男なんて知ったら取り乱すだろう。…まあでも取り乱されるのは面倒だな。
でも、返ってきた言葉は矢張り私の予想を尽く消した。
「……そっか」
ただそれだけ。
そしたら直ぐに無表情。
臨也は一体何を考えてる?、そんな事分かる筈もなくて僕はいたたまれない気持ちに陥る。正直いたたまれない。
「…う、ん。えっと…お腹空いたよね?なにかとってくるよ」
「…そう」
徐に立ち上がって、何とか理由を頭の中で作り足早に使用済みの包帯だけ手に持ちドアへ向かう。
(早くセルティ帰って着てよ、)
がちゃ、
後少しで気まずいこの空間から出れる、そう思ってドアノブに手を掛けた時だった。
「ねえ、新羅」
凛とした声が鼓膜を揺さぶる。
僕は振り向かないまま返事を返した。
「…なに?」
「君は、さ…」
何処か色を含んだ声。
ダメだ、振り返っちゃ
「 」
なにを言ったか分からなかった。
それが言葉になっていたのかさえ分からない。
ただ思わず振り返って見た臨也は、
そして僕は部屋を出た。
キッチンに足早に向かって、蛇口を捻り水を出して、顔を洗った。
消えろ消えろ消えろ、消え、ろ
やっぱり、
吐き気が、
する、
(泣きそうだった、そんな表情、胸が痛むだけだ)新臨に見えなくても新臨、です
臨也さんが書いてるわたしにもよく分からない状況に←