吐き気

違う、

だけど

――考えるのは嫌いだ






「…だれ、君」

「……冗談だよね、臨也」
「いざや?それが俺の名前なの?」

無表情の侭、逆に問い掛けられては言葉を見失いそうになり慌てて間を開け真剣な表情で冗談であって欲しいと聞き返せば、臨也は何処か虚ろな赤い瞳を数回瞬かせて頭の痛くなる言葉を口にした。

「記憶がないの…?」

「…残念ながらそうみたいだね、俺は今なんでこの場所にいるのか、そして目の前にいる知り合いらしい君は誰か。――…そして何よりも自分が分からない…みたい」

推測で言うのは嫌だが可能性として出た言葉を紡げば、一瞬目を揺るがした後緩慢な動作で口を開き、肯定とも取れる台詞と冷静な解析。
流石彼らしいと思うも語尾は頼りなくて明らかな違いを私に見せ付ける。

「……全生活史健忘」
「なにそれ、」

そして僕の中にふと浮かんだ病名。

「一般で言う記憶喪失と同じ意味さ、そうだね…今の臨也は漫画や小説とかでいう逆向性健忘と同じ状況だと思う。ああ、逆向性はね、受傷や発症によって昔の記憶が抜け落ちた状態。つまり今の君の状況で、記憶を呼び出す想起の障害つまりある地点から遡っての記憶が引き出せない状態のことだよ」

「……ふーん」

「多分原因は外傷性か…ありそうではないけど心因性かな。どう?分かったかな?」

「君の説明が無駄に長たらしいことは分かったよ」

顎に手を宛てると頭の中の知識を引っ張り出して喋喋と謂ってやれば興味なさそうに酷い言葉をサラリと言う。
――こういうとこは前のままなんだな、ただ無駄に長たらしく話すのは臨也の専売特許の筈なんだけど。
正に暗雲低迷な気分だ。

「…はあ、もう簡潔に言えば記憶喪失だと言うこどだよ」

「なら最初からそう言えばいいのに」

可愛くない、全く。
記憶を失ったのならもう少し性格とか変わらないのか、素直になったりとか、いやそんな臨也は其れは其れで気持ちが悪いな。

「…で、生活に関してはどうなの?ちゃんとした知識は覚えてる?」

「覚えてなかったら君と話すことは出来ないと思うよ」

「尤もだ。…じゃあ覚えてないのは生活面の知識以外か」

記憶喪失の割には落ち着いた様子の臨也は時折皮肉めいた事を言うも、その表情は変わらず無表情の侭で違和感が募る。

まあ、俺が気にすることじゃない。

「…さっき、いざやって呼んだよね?それが俺の名前なんだよね?」

正直、どうしようかと出そうになる溜め息を飲み込んだ時だった。
臨也が無表情の顔を此方に向けて何処か機械音の様に感情の入らない無機質な声で聞いてきて、俺は顔を上げる。

(目の奥さえ無感情だった)

「…ああ、そうだよ。君の名前は折原臨也だ。臨時の臨を使って臨也、珍しいよね。因みに俺と一緒で年齢は23歳。職業は…本業は知らないけど新宿で情報屋をやってるんだよ」

「そっか」

後々聞かれるのも面倒なので簡潔に臨也のことを説明しながら、後少しで痛み止めが切れる時間だと気づき僕は座っていた椅子から立ち上がった。

「ねえ、」
「なに?」
「君の名前は?俺の知人かなんか?」

棚に置かれた紙袋を確認し中身がないのを見ると其れを片手にリビングへと向かおうとした時だった、再び臨也が先程の調子で問い掛けてきて振り返れば投げ掛けられ質問。

――知人かなんか?

胸が少しだけドクンと鳴った。
――そして嘘つきな笑顔を浮かべる。






「…うん、僕は岸谷新羅。君とは…――友人だよ」





(その表情を、見ることができなかった)



ちょっと長くなた…
臨也の感情が読めません

(03)
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -