その日はあまり寝れなかった。
怪我のせいか熱を出したせいで魘れる臨也に数時間毎に痛み止めの薬を点滴してやる為だが。
面倒など言ってられない、闇とはつくが此でも医者を名乗る身だから当たり前だ。それでも前日も急患を見たせいか身体には疲労が蓄積されはっきり言うとつらいかも知れない。
何たって僕は普通の人間だからだ。
『大丈夫か?少し休んだ方がいいと思うぞ、新羅』
「…ありがとう、セルティ。でも大丈夫だよ。重症患者…しかも友人を目の前にして寝ちゃいられないからね」
『だが…』
心配そうに見てくるセルティに微笑みを浮かべて礼を言えば尤もらしい理由を捏けて未だ渋る彼女に「先に寝てていいよ」とだけ伝えてコップに無くなった珈琲を容れるべくキッチンへと向かう。
――嘘つきだよね、僕は。
もう直ぐ朝日が昇る。
トントン、
肩が軽く叩かれる感覚に浅い眠りから目が覚める。いけないいけない寝てしまったのかと重たい瞼を無理矢理起こして片手で目を擦る。
目の前にはセルティの姿、おはようと言う前に彼女の様子に気づく。表情は分からないが明らかに慌ててるのには気づいた。
何事かと首を傾げたら、セルティは焦りながらも、だが器用にPDAを打ち込み画面を見せてくる。
『新羅!臨也が目を覚ましたんだ』
「あ、本当かい?」
『だけどだけど』
「どうしたの、そんなに慌てて」
『なんかおかしいんだ!』
慌てて打ち込んだ内容は矢張り焦りが滲んでいて何だか可愛い…じゃなくて、僕の腕を引っ張り起きたらしい臨也の様子が変だと伝えたいんだろう顔にPDAを押し付けられては何も見れない。
取り敢えず此処でセルティと話していても何も解決しないと踏めば俺は治療室へと足を運んだ。
「臨也ー?起きたのかい?」
真っ白に彩られた治療室へと足を踏み入れるとそこには真っ白なベッドで上半身だけ起こし何処か壁をぼんやり見た臨也の姿。
だが俺の呼び掛けに反応したのか、ゆっくりとした動作で振り返るその表情に、ドクンと嫌な気分になった。
「……」
「…臨也?どうしたの?」
いつまで経っても返事が返って来なくて疑問に思った僕は再度問いかければビクンと肩を震わせる臨也。
そして言われた言葉に目眩がした。
「…だれ、君」
――ああ、吐き気がする。
(我慢は慣れっこだけど、)