Short Story


Cindy's first job

 
 


「……で、一日限りのお願いだったのに
 シンディの人気が出すぎちゃって、レギュラー入りすることになったんだよね」

「へへ、そんなこともあったっけなぁ」

まかないの昼食を食べながら、えるりんと思い出話に花を咲かせる。一日なるべく声を出さずに過ごした彼女の喉は、マスターお手製の蜂蜜ドリンクの力も手伝いあの後すっかり良くなり、翌日には看板娘として完全復帰した。ハイドランドとして創業15周年のお祝いをしに向かったその日、いつも通りのレット・バトラーを見てお役御免だと思ったのだが、開店後まもなくシンディの話を聞きつけた街の客が押し寄せ軽く店がパンクしてしまったのだ。その場はえるりんが持ち前の愛嬌と接客術で丸く収め事態は収束したのだが。ほとぼりが冷めた頃、再度えるりんの方から俺さえ良ければ気が向いた時にでもシンディとして店に来ないかという誘いをもらったのは記憶に新しい。


「なんかごめんね…
 ぼくもまさかこんなことになるとは…」

「いんや?俺も楽しかったし
 てーか、レギュラー入り志願したのは俺からだしね」

シンディだと情報も得やすいからwin-winっつーことでと口にすれば、そう言ってもらえると助かるよと眉を下げて笑う。正直、この流れ全てが次代看板娘となる存在を求めている彼女の計算のうちだった感も否めないのだが。今となってはどちらでも良いので、本当のところの本心は覗かないことにしておく。シンディとしての顔を持つ今の生活が楽しいのも事実だ。


「けどしばらくは大変だったな〜
 常連客連中にはなんで創業祭来なかったんだってどやされるし、ニコラス副長にはシンディとの関係を問い詰められるし。」

「ごめんって…
 その話を持ち出すってことは、黒猫の方に何か用かな」

「ご名答♪
 えるりん、麦わらの一味って知ってる?」

「え、それって最近世間を賑わせてる…」

「エルムくん、シンディくん
 そろそろ夜の部、開店するよ」

「「 あ、はーい! 」」


そうそう、シンディという顔を得てもうひとつ変わったことと言えば、黒猫のエルと活動することが以前より増えた。律儀なえるりんにとってはシンディの苦労話が俺への弱味となってしまったのだ。全然気にしなくていいのに、なんて思いつつ、ちゃっかり利用させてもらってんだけど。奥の個室で二人で話していると内線でギムギムからの連絡が来て、看板娘ちゃんの声にシンディの声を重ねて返事をする。やばいやばい、もうそんな時間か。時が進むのを忘れて話し込んでしまったらしい。ここの片付けはやるからとえるりんに後押され、玄関の方へと足を早める。カランカランと鳴るチャイム。開店時刻10分前、少し早めのお客さんの来訪だ。


「いらっしゃいませお客様、
 レット・バトラーへようこそ!♥」



end


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