Short Story


Cindy's first job

 



「ハイド?何なのあのキャラ。」

「やぁあの、なんかノリでさ…?
 ごめんほら目だけで充分伝わってるからさ…
 声出さなくていいんだよえるりん、しんどいでしょ」

制服に着替えるよと連れ込まれたスタッフルーム。俺はというと若干呆れムードのえるりんに足ドンで迫られている。いやうん、無理して声を出させてるのは俺だよな。


「何だよえるりん、ぶりっ子嫌いなのー?」

女性には輪をかけて甘い彼女は、女に扮したシンシャには基本はいつもより優しくなるんだが。今回のシンディちゃんはちょっと気に食わないのか。失礼しますと本音を覗いてみると、『いや嫌いじゃないしむしろ好きだけど、君がやると可愛らしい女の子を馬鹿にしているようにしか見えない』とのこと。
「えー、俺は面白いかなって思ってやってるのに」と笑って返せば、やっぱりネタにしてるんじゃないかと窘められた。いや別に、俺がやってるからうけるってだけで、天然ぶりっ子ちゃんも計算高いあざとかわい子ちゃんも俺は大好きだよ??ほんとに。


「てかさぁ、この店の制服ってこんなだったんだね」

渡された制服を鏡で合わせながら聞けば、「現在進行形でぼくも着てるじゃん」とでも言いたげなきょとん顔。いやいや、どう見てもこれスカートなのにおねーさんいつもパンツ姿じゃないですか。さらに思考をたどれば、「だってスカート動きにくいし…スースーするし…」という本音がチラついた。まぁ薄々そんな気はしてたけど、えるりんはスカートが苦手なんだな。いろんな服装を見る機会のある仲だが、記憶にある彼女は必要に迫られない限りは基本的にいつもパンツ姿だ。お互い過去には触れたことがないけど、もしかしたらそれはえるりんの一人称にも関係するのかもしれない。

他のスタッフたちを思い返してみても皆わりとアレンジを加えているみたいだし、そもそもあのマスターだ。制服は手間をかけなくていいように一応用意はされているというだけで特に縛りはないのだろう。この規制の緩さは変装を生業とする俺にとっては好都合である。
あまり弱みを見せない彼女の小さな弱点を知りつつ、通って2年目にして初めて加工なしのものを拝んだこの店の女子制服を身に纏うべくいそいそと個室に入った。


「じゃじゃーん!
 ね、どう?どう?」

「どうって君……器用だね……」

「裁縫は女子の嗜みですから♪」

数分後、シンディ流にレースやフリルを加えてアレンジした制服を着てひらひらと見せると、はいはい可愛い可愛いと棒読み気味の褒め言葉が返ってきた。ちなみにポイントは違和感なく喉元を隠してくれるチョーカー風リボンだぜ☆

「仕事の内容はもう大丈夫そう?」

「任せときなって。
 レット・バトラー歴で言えば俺のが長いんだから」

投げかけられた問いに先輩だぞ、と笑い返せば、そうだったねと彼女は微笑み頷いた。レット・バトラーとはハイドランドとしても常連客とバンドを組んで披露するほどの付き合いだ。シンディというキャラに不安を抱きつつも、その点においては信用してくれているらしい。正直に言えば客に絡まれる率の高いこの店のホールはかなり面倒くさそうだが、それもまた一興。一肌脱いでやろうじゃねぇの。
レット・バトラーは通常14時までシェフたちによるランチ営業をやった後17時から夜の営業を始めるが、今日は特別宴会のため夜の部だけみたいだ。今は午後3時、開店時間まであと2時間。もうじき始まる大宴会を前に、俺は胸を高鳴らせていた。




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