Short Story


Cindy's first job

 
 


「おまたせ〜♥」

『好きにくつろいでて』に返した『うん』という言葉はなんだったのか。ちょうど2つのグラスとテーブルを丁寧に拭き終えたらしいえるりんの元へ軽やかなステップで向かうと、彼女がぎょっとした顔でこちらを見てきた。


「え?なんでその格好って……
 看板娘ちゃんの代わりをやるんだろ?」


驚く彼女に長いブロンドヘアを結びながら俺は答える。そう、今の俺の変装は彼女の格好を模したそれ。声真似もできるんだぜ☆と特徴的なヘーゼルグリーンの猫目でウインクして見せれば、自分が二人いるみたいで気持ち悪いからやめてくれと訴えられた。まぁこれはいつかのために備えてた衣装を冗談で着てみただけで、当然却下されるとは思っていたけど。じゃあこっちか、とくるりとまわり、本命の衣装をお披露目する。


「いやだから…」

「男のままでいいって?
 けどあの店の客、男の従業員には当たりキツそうじゃん」


色白メイクにぱっちりお目目、ゆるふわツインテールもやって気合いは充分!と言わんばかりにくるくるまわって見せると、ハイドランドのまま行くことを想定していたらしい彼女はなおも声を絞り出してそこまでやってくれなくて大丈夫と言いたげに止めに来たが、女の姿ならもし何かやらかしても笑ってれば許してくれそうだしと言えば、心当たりがあるのか納得して引き下がった。
もちろんそんなのは建前で、こっちの方がやりがいがあるってだけなんだけど。何事も人生楽しんだもん勝ちだ。




「そんなわけで、今日はエルムちゃんの代わりに働くことになりました♥
 よろしくお願いします♪」


所変わって酒場レット・バトラー。申し訳なさそうに正座する看板娘ちゃんの横で俺はぺこりと頭を下げた。

「えっと……エルムくん
 とりあえず身体は大丈夫なのかい?」

「はい!喉以外は超絶元気なので大丈夫です!…って訴えてます」

マスター・ギムレットの問いにこくりこくりと頷く彼女の通訳をする。唐突の報告に戸惑いながらもまず第一に彼女の体調を心配するマスターはやっぱり優しい。

「そっか、店のことは気にせずゆっくり休んでくれて良かったのに…心配させてごめんね、代役まで立ててくれてありがとう。
 そっちの君は…シンシャくん、だっけ」

「あ、はい!
 シンディって呼んでください♥」

「シンディくんだね。
 助っ人は本当にありがたいんだけど、今日はいつもよりお客さんが多くてね…くれぐれも、無理だけはしないでね」

「エルムちゃんから事情は聞いています。飲食店経験は何度かあるのでお役には立てるかと。
 エルムちゃんの代わりが務まるかは自信ないですけど…シンディ、精一杯頑張ります!」

「ふふ、こんな可愛いお嬢さんが接待してくれたらお客さんも喜ぶよ。
 今日はよろしくね」

「はい♪」

詳しい仕事内容はエルムちゃんに聞きますと告げると、じゃあまた後でと二つ返事で店内を自由に見てまわることを承諾された。
…うーん。今日は純粋に手伝いに来ただけとは言え、こんなに簡単に潜入できていいのだろうか。自慢の看板娘への信頼からなんだろうが、一応俺もこいつも裏社会の人間なんですけど。
人を疑うことを知らなさすぎる穏やかな彼の警戒心のなさを心配しつつ、えるりんに手を引かれるまま俺は店内を案内されていた。




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