Short Story


Cindy's first job

 


「ごめんな?喉に良さそうなの、ハーブティくらいしかないんだけど」

「ううん……むしろ好き…
 てか、お洒落なの持ってるんだね…」

「この山で取れるんだよ、ハーブ」



改めて紹介しよう。ありがとう、と頑張って声を絞り出してくれたこの金髪少女の名はエルム。俺がよく通っているこの街の酒場レット・バトラーに半年ほど前にやって来たホールスタッフだ。そしてお察しの通り、先程言っていた殺し屋 黒猫のエルの言わば表の顔。殺し屋である彼女が何故レット・バトラーの看板娘としてこの街にいるのかについては、機会があればいずれまたどこかで。



「んで、なんでえるりんがここに来たかだけど…まぁその声から察するに、最近流行ってるウイルスでもキャッチしたのか朝起きたら喉が完全にやられちまってて、うつす可能性がある上そんな声でお客さんの相手をするわけにはいかなく、かと言ってただでさえスタッフ不足なのに予約が多いこんな日にお店を休むわけにもいかない。 だからその穴を埋めてもらおうと、そこそこレット・バトラーに詳しくて従業員経験もありそう、ついでにえるりんが一番遠慮なくものを頼める俺に代理をお願いしに来た…ってところかな?」

「!」

「なんでって…まぁこんなの力を使うまでもなく、その声とえるりんの性格考えればわかりそうなもんだけど。
 前に言ったろ?俺は相手の考えが“視える”」

「……、」

「つってもそれなりに集中しなきゃだし、他人の考えなんて知ってしまったら面白くないから普段はあんま使わないんだけどねぇ。その気になれば…特に、そんな風に目を見て訴えてくれる子の考えはわりと鮮明に分かるから」


だからもう、声を出さなくて大丈夫だよ。そう告げると彼女は戸惑いながらも安堵の表情を見せた。生まれつき見聞色の覇気を持っていた俺は、昔から人の考えを読むのが得意だった。プライドの高いやつは持ち上げ、残虐な権力者とも上手く取引をし。こうして大海賊時代と謳われるこの広く厳しい世界でも一人で生き延びることが出来たのだ。嫌でも人身掌握に有利に働くこの力は時々憎くもあるが、こういう時には役に立つ。


「まぁ俺もギムギムにはよくお世話になってっし?
 レット・バトラーの客連中も好きだからね。
 協力してもいいよ」

「、」

「もちろん、その分えるりんには また今度色々と付き合ってもらうけど」


別に無償でやってもいいのだが、互いに利益があると分かっていた方が安心するのだろう。交換条件を持ちかけてやれば元よりそのつもりと彼女は強く頷いた。元々味方でも何でもない俺らには、このくらいの距離感の方が丁度いい。
そういえば彼女も見聞色の覇気は扱えたはずだが、どうやら俺のものとは少し系統が違うようだ。相手の力量を測ることに長けている彼女のソレには正体を偽っても意味がないらしく、腹立たしいほどに変装はすぐに見抜いてくるが、相手の心までは読めないのか。まぁ、カンは鋭い方だと思うけど。思えば、彼女のあの隠す気の感じられない舐めた変装はそれ故なのかもしれない。

そんなことをぼんやり考えながら、それなら話が早いとハーブティをくいっと飲みほす彼女に促され俺は街に出る準備を始めた。




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